記事制作:税経システム研究所

卸売業

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2019/04/23

質問

業績が苦しいはずの取引先から入手した決算書。なぜか売上総利益率が前期以前に比べて5ポイントも改善しており、その結果利益が出ています。あなたが経営者ならこの取引先にどのような不正の可能性を考えますか?

パターン1

在庫水増しの可能性を考える。

パターン2

会社資産の横領の可能性を考える。

パターン3

販売経費を少なく計上している可能性を考える。

この質問をイメージして以下のストーリーをお読みください。
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取引先と良好な関係を築いている老舗商社

「みろく物産」は、昭和のはじめに創業した老舗商社です。

一般に、薄利多売になりがちな商社では、利益の割に取引先に対する売上債権残高が多額で、万が一取引先の経営破綻が起こると経営に大きな影響が及びかねないのですが、みろく物産では取引先の倒産が極めて少ないのが特徴となっています。それは、みろく物産が取引先から入手した決算書をしっかり分析して、すぐに経営アドバイスをしたり、場合によっては取引を中止したりするなど、素早い対応をしているためです。

しかし、10年ほど前は取引先の倒産で大きな損失を受けたこともあったのです。

10年前 ~業績が改善したと思っていた取引先が突然の倒産……

社長が新社長として就任して数年経ったころのことです。社長は取引先であるメーカーのA社の経営状態が大変気になっていました。高品質の製品をつくる技術はあるのですが、大手ライバル企業の値下げ圧力で経営状態が3年もの間、悪化の一途をたどっていたのです。

ところが、その年は状況が違っていました。
 
ある日のこと、営業社員が、A社の決算書を持って、社長室に入ってきました。

営業社員 社長、A社から決算書を入手しましたが、今期は利益が増えています。A社長の話では、やっと経営環境が改善してきたとのことです
社長 おお、そうか、それは良かった。かれこれ3年も赤字を続けていたから心配していたが、それなら一安心だ
営業社員 ただ、気になることがありまして……
社長 気になることって何だ?
営業社員 損益計算書の売上総利益率を見てください。前期以前はほぼ30%で推移していたのに、今期は35%に改善しているんです
社長 確かにそうだが……、まぁ、コストカットがうまくいったんだろう
結局、そのまま取引を継続することにしたのですが、それからわずか3カ月後、A社は倒産してしまい、みろく物産は多額の売掛金が回収できずに損失を計上することになったのです。どうやらA社の経営は相当に悪化しており、最後は不正をして利益が出ているように見せかけていたらしいのです。
社長の心の声 <A社から決算書を入手したときに不正に気付くことができれば、こんな損失を出さずに済んだのに……>

質問

業績が苦しいはずの取引先から入手した決算書。なぜか売上総利益率が前期以前に比べて5ポイントも改善しており、その結果利益が出ています。あなたが経営者ならこの取引先にどのような不正の可能性を考えますか?

▼あなたの思うパターンをクリック▼

パターン1

在庫水増しの可能性を考える。

パターン2

会社資産の横領の可能性を考える。

パターン3

販売経費を少なく計上している可能性を考える。

実は、社長が疑うべき不正は在庫水増しだったのです。なぜ、在庫を水増しすることで、売上総利益率が改善するのでしょうか……
 

経営陣や従業員による会社資産の横領という不正の可能性もないわけではありませんが、売上総利益率の改善とは結び付きにくいです。他の不正を疑う必要がありそうです。
 

本来計上すべき販売経費を少なく計上して利益を増やしている可能性もあります。しかし、販売経費は売上総利益の下の販売費及び一般管理費に計上されるので売上総利益率の改善にはつながりません。費用の過少計上を疑うのであれば、販売経費ではなく製造経費を疑うべきでしょう。

経営者が知らなかった、実地棚卸の大事な目的とは

A社の倒産があってから数カ月経ち、みろく物産は3月31日の期末日を迎えました。多額の貸倒損失は発生したものの、何とか他の案件でリカバリーすることができ、社長も胸をなで下ろしました。ところが、経理部長と営業部長が口論をしています。

経理部長 実地棚卸をなめてもらっちゃ困りますよ!
営業部長 別になめてるわけじゃありませんよ。ただ、我々営業部隊は期末日の今日まで必死に売上を上げるために頑張ってきたんですよ。何とかリカバリーでき、ホッとしてるところなのに、今から実地棚卸なんて働き方改革に逆行してる。そんな無駄なことはやめたらどうなんです

険悪な雰囲気になっている二人の間に社長が入ってきました。

社長 まぁまぁ、一体何をそんなにもめているんだい?
経理部長 今から実地棚卸を行うのですが、営業部長がそんな無駄なことはやめたらどうだって言うんです
営業部長 だってそうじゃないですか。働き方改革が叫ばれているときに、全社一斉に時間をとって実地棚卸なんて無駄じゃないかって言っただけです
社長 確かに、営業部長の言うとおり、実地棚卸のために残業するのもどうかという気がするが……
経理部長 何をおっしゃってるんですか、社長。実地棚卸をしないと、決算ができないんです
社長 決算ができないなんて大げさな……。別に在庫がいくつあっても利益は変わらないだろう
経理部長 違います。実地棚卸の目的は損益計算書の売上原価を確定させることなのです。だから、実地棚卸の結果次第で利益が変わるのです
社長 えっ、どういうことだ?
経理部長 簡単に言いますと、まず、期首に持っていた在庫と期中に仕入れた在庫を合計します。このうち期末に残っている在庫はまだ売れていないわけですから、これを引いてあげます。これで売上原価が出るってわけです
社長 えっ、そうだったのか? 全く知らなかったぞ
経理部長 社長は在庫水増しって粉飾を聞かれたことはありませんか? 実地棚卸で実際より在庫が多いとウソをつくと、その分だけ売上原価が減ってしまい、売上総利益が大きくなるのです

それを聞いて、社長は気付きました。

社長の心の声 <そうか! この前倒産したA社が急に売上総利益率が5ポイントも改善したのは、コストカットではなくて、在庫水増しをして売上原価を減らしていたからだったんだ。そういえば貸借対照表の在庫もかなり増えていたぞ>

その日から、社長は社内の実地棚卸をしっかりと時間をかけて正確に行うように指示するとともに、取引先の決算書で売上総利益率が急に改善したときには、貸借対照表の在庫が急に増えていないかチェックするよう指示をすることにしました。

【ワンポイント解説】
「実地棚卸の目的」
実地棚卸は、貸借対照表の在庫(商品・製品・仕掛品・原材料など)の金額を確定させるだけでなく、損益計算書の売上原価を確定させるという目的もあります。そのため、実際の在庫よりも在庫を多く計上して利益を増やす在庫水増しという粉飾が行われることがありますので、注意が必要です。
【お知らせ】2019年5月3日号は、ゴールデンウィークの連休中のため休載とさせて頂きます。次号は2019年5月13日号となりますので、引き続きご愛顧くださいますようお願い申し上げます。
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