粗利率7割!? 手作り料理にこだわる居酒屋店主が学んだ原価の考え方とは?

2019年11月23日

飲食業

  • 飲食業
2019/11/23

質問

地元で人気の居酒屋「弥勒屋」は、開業以来、食材の仕入コストの3倍を目安にメニュー価格を設定してきました。そのため、粗利率は約7割と店主は思っています。あなたなら店主に対して、売上原価の考え方をどのようにアドバイスしますか?

パターン1

現状どおり、食材費のみとする。

パターン2

厨房で発生する人件費も含める。

パターン3

厨房で発生するコスト全部とする。

この質問をイメージして以下のストーリーをお読みください。
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利益のことも意識する居酒屋

「弥勒屋」は、開業から20年にわたり特色のあるメニューを提供することで、順調に売上を伸ばしてきました。

客1 やっぱり、ここのコロッケはうまいよね
客2 そうだね、手作りだからね。冷凍食品とは全然違う
客1 刺身も、大将が毎日自分の目で確かめて魚を仕入れているらしいから、チェーン店のものとはうま味が違うよな
客2 もともとは、寿司屋で修行していたらしいから、魚の目利きと包丁さばきには自信があるんだよ。弟子の板さんたちも、大将が本格的に仕込んでるから腕は確かだ
客1 弥勒屋の料理はどれも手が込んでるし、うまいよね。これで儲けなんか出るのかな

それを聞いて店主はニヤリとしました。今でこそ、利益を意識して料理を出していますが、3年前はそうではありませんでした。ちょっとその頃の様子を見てみましょう。

3年前 ~手作り料理にこだわりを持つ居酒屋

常連客が増え始めた15年ほど前、弥勒屋の店主はほぼ同時に2人の板前を弟子入りさせてみっちり仕込んできました。開業以来、調理の手間や店舗設備への投資も惜しまず、手の込んだ特色のある手作りの料理を提供しており、地元の常連客にも、評判を聞いて足を運ぶ客にも、満足度の高い居酒屋として好評で、店舗も数店舗に増えました。

メニュー価格については、開業以来、業界の慣例なども踏まえて、食材の仕入コストの3倍を目安に設定してきました。

ある日のこと、店主がお客さんからもらったビジネス雑誌をパラパラとめくっていたところ、あるページに目がとまりました。大手企業が発表した決算書にもとづく「企業ランキング」が載っていたのです。特集記事では、さまざまな大手企業のデータをもとに、売上高のランキング、売上総利益のランキング、営業利益のランキングなどが掲載されています。

店主の心の声 <売上総利益って粗利のことだよな。ところでうちの売上総利益っていくらだったかな……。さすがに売上総利益の金額はケタが全然違うな>

そう思いながらランキングに目を通していた店主の目を引いたのが、大手総合商社の売上総利益率がかなり小さいということでした。

店主の心の声 <うちは食材の仕入コストの3倍を目安にメニュー価格を設定してるから、売上総利益率だったら66%位はあるはずだ。うちは大手企業よりもずっと高いじゃないか! 意外とうちも儲かってるってわけか! その割には厳しいが……>

 

質問

地元で人気の居酒屋「弥勒屋」は、開業以来、食材の仕入コストの3倍を目安にメニュー価格を設定してきました。そのため、粗利率は約7割と店主は思っています。あなたなら店主に対して、売上原価の考え方をどのようにアドバイスしますか?

▼あなたの思うパターンをクリック▼

パターン1

現状どおり、食材費のみとする。

パターン2

厨房で発生する人件費も含める。

パターン3

厨房で発生するコスト全部とする。

食材費のみを売上原価とする考え方は、飲食業の実務では比較的多くとられているようですが、厨房で働く人たちの人件費や設備関連の費用が含まれていません。これらに重要性がある場合には、原価の計算としては不十分であると言えます。

食材費と厨房で発生する人件費を売上原価とする計算は、一見合っているようですが、厨房では設備の減価償却費や水道光熱費が発生しています。これらに重要性がある場合には、原価の計算としては不十分であると言えます。

売上原価には、食材費だけでなく厨房で発生するコスト全部が含まれます。この考え方を認識したことで、弥勒屋の業績は良い方向に向かったのですが、それはどういうことだったのでしょうか?
 

ターニングポイントは店主が原価の考え方を理解したことだった

数週間後、弥勒屋の店主は高校時代のクラス会に出席し、同級生たちと旧交を温めました。

友人 お、元気そうだな。店の調子はどうだ?
店主 おお、しばらく。お客さんに喜んで頂けてほんとにありがたいよ。それに……

そう言うと、店主は数週間前に見た雑誌のこと、そして売上総利益率が大手企業よりもずっと高く意外と儲かっていることを、ちょっとだけ自慢げに話し始めたのです。

ところが、T製造の経理部に勤めている友人からは思わぬ言葉が返ってきたのです。

友人 ところで、お前の店では売上から食材の仕入コストを引いて粗利を計算してるってさっき言ってたよな?
店主 ああ、そうだよ
友人 それだと売上原価に入ってるのは材料費だけってことだな。ちなみにうちの会社だと、工場で働いている人たちの給料や、工場設備の減価償却費、それに水道光熱費に……。まぁ、いろんなものが売上原価の中に入ってる
店主 製造業ってのは、そんなにいろんなものが売上原価に入るのか!
友人 お前の店も、料理を作っているんだから製造業だと同じじゃないか? 材料費の他にも板さんの給料や設備の減価償却費、それに水道光熱費なんかも発生するだろう
店主 ……
友人 さらに売上総利益からは、ホールスタッフの人件費とか、店のテーブルや椅子の減価償却費なんかもまかなわなければならないってことだな
店主 そうだったのか……

店主は、後日、友人からもっと詳しくレクチャーを受けました。そして、試しにメインメニューの1つについて、ザックリとですが原価を計算してみることにしたのです。

その結果、弥勒屋は意外に儲かってはいないことに気づいたのです。メニューによっては、仕込みや加工にとても手間がかかるし、水道光熱費もかさむのです。設備の減価償却費は本来計上すべき金額よりもだいぶ少ない金額しか計上していないことも、すっかり忘れていました。

こうして正しい売上原価が把握できていなかったことに気づくとともに、食材の仕入コストの3倍を目安にしたこれまでのザックリとしたメニュー価格設定についても、見直す必要がありそうだと考え始めたのです。

ワンポイント解説

「売上原価」

売上原価は、販売した商製品の仕入れや製造にかかった費用のことを言い、売上高から売上原価を差し引いて売上総利益(粗利)を計算します。事業規模が小さく薄利多売が難しい場合には、提供する商製品やサービスの価値を高めて、売上総利益率(粗利率)アップを目指す戦略が功を奏することがあります。

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