記事制作:税経システム研究所

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2016/11/23

質問

2年前に新設した第5製造ライン。しかし操業開始以来、一度も単月黒字化できず、ついに一部の役員から「ライン撤退」の声が上がり始めました。あなたが経営者ならどのような意思決定をしますか?

パターン1

撤退の基準を作り、それに照らして判断をする。

パターン2

当初の意志を貫いて、撤退せずに黒字化の努力を続ける。

パターン3

経営幹部の多数決で撤退するかどうかを決める。

この質問をイメージして以下のストーリーをお読みください。
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常に最新の製造ラインがフル稼働! “超優等生”な工場

家電メーカー向けの各種部品を製造している「みろく工業」は、中部地方を中心に、いくつかの工場を持ち、生産を行っています。

みろく工業の強みは、製品の品質の高さや納品の早さに加え、製造ラインの稼働率が非常に高いため、製品を安く提供できることです。得意先である家電メーカーの購買担当者たちがこぞって視察に訪れては称賛する、自慢の長所です。

しかし実は5年前まで、みろく工業は稼働率の悪い製造ラインに悩まされてばかりいたのです。それを大きな意思決定で変えたのでした。そのときの様子を見てみましょう。

5年前 ~「ライン撤退」を決断できない社長と、進言できない経営陣

それは5年前の経営会議でのことでした。経理部長が、工場の製造ライン別の月次損益資料を配布しながら言いました。

経理部長 ご覧のとおり、富士工場の第5ラインは今月も赤字です。これで第5ラインは新設以来2年間、一度も単月黒字化することなく今日を迎えています。そろそろ第5ラインは撤退を検討する必要があると思われます
社長 いや……、撤退の前に、思い切って販売価格を値下げして、稼働率を上げてみたらどうだろう……
経理部長 3年前に一度値下げしましたが、稼働率が上がらず、かえって赤字が増えたことがありました
社長 確かにそうだが……、せっかく2年間も努力してきたんだから、この努力を無駄にしないためにも、もうちょっと頑張ってみよう! ねぇ、営業部長
営業部長 そうですね……、社長のおっしゃるとおりだと思います……
社長は経営会議が終わると、社長室の椅子に深く腰掛け、目を閉じました。
<私は、第5ラインは絶対にものになると踏んで投資したんだ。何とか第5ラインを黒字にできると思っているのに、もしかして経営会議のメンバーは皆、黒字化は無理だと思っているのだろうか……?>
 

質問

2年前に新設した第5製造ライン。しかし操業開始以来、一度も単月黒字化できず、ついに一部の役員から「ライン撤退」の声が上がり始めました。あなたが経営者ならどのような意思決定をしますか?

▼あなたの思うパターンをクリック▼

パターン1

撤退の基準を作り、それに照らして判断をする。

パターン2

当初の意志を貫いて、撤退せずに黒字化の努力を続ける。

パターン3

経営幹部の多数決で撤退するかどうかを決める。

実は社長が行った意思決定はパターン1でした。社長は製造ラインの撤退基準を作り、その基準にしたがって撤退の判断をすることにしました。では、なぜ、社長は撤退基準を作ることにしたのか? また、撤退基準を作ることのメリットは何でしょうか?

社長の強い意志でビジネスを続けたことが成功につながった事例はいくつもあります。しかし、投資を決めた手前引っ込みがつかなくなり、撤退が遅れて損失が膨らんでしまった企業もたくさんあるはず。より合理的な意思決定ができるような仕組み作りを考えることが必要ではないでしょうか?

他の経営幹部の意見を聞くことも重要ですが、おそらく経営会議のメンバーの多くは、社長の顔色をうかがって、本音を言わないでしょう。会議の意思決定をより合理的にするための方策を考え直さなければ、多数決をとっても有効な意思決定はできないかもしれません。

“投資の意思決定者”には“撤退の意思決定ができない”!?

経営会議があった週末の夕方、社長が居間のテーブルでコーヒーを飲みながら雑誌を読んでいると、ソファで新社会人の娘と大学生の息子が話しているのが耳に入ってきました。二人は小さな頃からとても仲が良く、息子は何かあるとすぐ姉に相談するのです。

息子 もうすぐクリスマスなのに、僕はどうしたらいいんだろう?
だから、そんな女の子はもうあきらめなさいよ。今から頑張ればクリスマスにはちゃんと彼女ができて、楽しく過ごせるわよ!
息子 でも……、この半年、誕生日プレゼントもあげたし、コンサートにも連れて行ってあげたし、ずいぶんとつくしたのに……、いまさら違う子って言われても……、この半年の努力が無駄になっちゃうよ
どうやら、息子は好きになった女の子に相当貢いだものの振り向いてもらえず、姉に相談しているようでした。
いつまで過去のことを引きずってるの‼ 取り返しがつかないことをいつまでも考えてちゃダメよ。むしろ、これからどうするのが一番あなたにとっていいのか考えないと

切り替えが早く、いつまでもくよくよしない性格である娘らしい言葉でした。

社長は二人の会話を聞いて吹き出しそうになりながら、ふと考えました。
<もしかしたら自分も、第5ラインに費やしたこの2年間のことを引きずってるんじゃないか? これから先のことだけを考えて判断しなければいけないんじゃないのか? でも具体的にどうすれば……>

翌週の月曜日。社長は経理部長を社長室に呼び、相談しました。

社長 第5ラインを継続すべきか、撤退すべきか、合理的に判断するにはどうするべきだと思うか、経理部長の意見を聞かせてもらえるかな?
経理部長 今後継続する場合と撤退する場合、それぞれの利益を予測して、利益が大きいほうを選択すれば良いと思います。過去2年間に第5ラインのために費やした努力やコストは“サンクコスト(※)”、ですから、これは無視しなければなりません
社長 サンクコスト?
経理部長 はい。既に投資してしまった金額はもはや取り返しのつかない支出なんです。これはサンクコストというものなのですが、これから先のことを考えるときにはサンクコストは考慮するべきではないのです
社長 そうだなぁ……。ただ、私には第5ラインの導入を決定した責任があるから、撤退したほうが利益は大きくなると予想できても、なかなか踏ん切りがつかないんだよ
経理部長 社長、第5ラインの新設はお一人の決定ではありません。われわれ経営陣の意思決定です。社長だけが責任を感じる必要はないのではありませんか? むしろわれわれの失敗は、第5ライン新設時に、業績が上がらなかった場合どうするかを決める“撤退基準”を設けておかなかったことにあると思います
社長 なるほど! 撤退基準か。それがあれば、赤字ラインの立て直しにこだわりすぎて、撤退の時期を逃すことがなくなるというわけだ!
それから社長は経営会議の場で製造ラインの“撤退基準”を議論し、計画からの乖離(かいり)度合いなどを考慮した基準を決定しました。もちろん、もはや取り返しのつかない過去の支出金額いかんで撤退の判断が影響を受けない、そんな基準にしました。

そして、撤退基準を明確にしたことで、撤退に踏み切れないでいた第5ラインからの撤退を決めることができたのです。その後は、みろく工業の製造ラインに関する意思決定がスピーディーに行われるようになり、常に全製造ラインの稼働率を高く維持できるようになっていったのでした。
 
※「サンクコスト」
複数の投資案を比較する際、その時点より先の収益・費用だけを比較するべきであり、既に投資してしまった金額は考慮するべきではありません。このような投資意思決定において考慮すべきでないコストをサンクコストまたは埋没原価と言います。
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