
問題先送り体質の経理部? スムーズな決算完了のための取り組みとは?【入金編】
質問
多数の販売員を通じて、健康関連商品の訪問販売を営む「ヘルスケアみろく」。決算時には、仮受金(入金はあったが内容が不明なもの)の精算処理で混乱が生じています。この状況を改善するため、あなたが経理部長なら次のうちどの方法をとりますか?
パターン1
仮受金勘定での処理は廃止し、正式な勘定科目が分かった段階で会計処理することとする。
パターン2
引き続き仮受金勘定を使って処理するが、精算方法を見直す。
パターン3
決算時だけアルバイトスタッフを雇い、決算業務を手伝ってもらう。
この質問をイメージして以下のストーリーをお読みください。
余裕が感じられるようになった決算
「ヘルスケアみろく」の本社の経理部では、そろそろ年度決算業務も終わりを迎えようとしているところです。何だか、経理部員にも余裕が感じられるように見えます。
経理部員A |
去年の今頃は決算業務の終わりが見えなくて、皆焦りまくってたよね |
経理部員B |
そうでしたね。頭は混乱するし、残業続きでもう大変でした |
大変だった前期の決算業務、一体何が起きていたのか、ちょっとその頃の様子を見てみましょう。
1年前 ~決算が終わらない!
ヘルスケアみろくは、多数の販売員によって、関東地方を中心に、健康食品や健康関連器具などの商品の訪問販売を営んでいます。健康志向が高まる中、取扱商品や販売地域を拡大し、売上を伸ばしてきました。販売員は外回りが中心で、高齢のお客様もたくさんいます。振込が面倒だというお客様の場合、販売員がお客様から代金を回収の上、ヘルスケアみろくの預金口座に入金することも少なくありません。
そして、本社経理部は現在、年度決算業務の真っただ中にあります。
経理部員A |
この仮受金ってどこから入金されているの? |
経理部員B |
たぶんお客様からの入金だと思うんですが…… |
経理部員A |
こっちの仮受金は販売員からの入金かな……。販売員にも確認してみてよ |
経理部員B |
もう何カ月も前のですからね……。誰に聞いたらいいか…… |
日常的にお客様や販売員からの入金が多数あり、入金があった際、その場で何の入金かがすぐ分からないこともあるので、その場合には、一旦仮受金勘定で会計処理しています。
こうした仮受金勘定を使用することで、処理すべき正式な勘定科目が分からない段階でも、現金預金勘定の会計処理は実際の入金どおりにできます。現金預金勘定については、大きな混乱が生じることなく、日常の会計処理ができているようです。
一方で、正式な勘定科目に振り替えられない状態のままのものが徐々に積み上がり、年度決算が近づく頃には、仮受金の残高が相当膨らんでいます。
その結果、年度決算時には、膨らんだ仮受金の中身を精査し、正式な勘定科目への振替処理を行っています。何カ月も前に計上した仮受金でも、未精算のままになっているものが多く、経理部員たちは中身を調べるのにとても苦労しているのです。
経理部長は、どうしたらいいかと頭を悩ませていました。
質問
多数の販売員を通じて、健康関連商品の訪問販売を営む「ヘルスケアみろく」。決算時には、仮受金(入金はあったが内容が不明なもの)の精算処理で混乱が生じています。この状況を改善するため、あなたが経理部長なら次のうちどの方法をとりますか?
パターン1
仮受金勘定での処理は廃止し、正式な勘定科目が分かった段階で会計処理することとする。
パターン2
引き続き仮受金勘定を使って処理するが、精算方法を見直す。
パターン3
決算時だけアルバイトスタッフを雇い、決算業務を手伝ってもらう。
漢字を勉強中の娘に意味を聞かれて、ハッとする経理部長
そんなある日のこと、経理部長が帰宅すると、小学生の娘が漢字ドリルで勉強をしているところでした。
経理部長 |
おー、漢字の勉強してるのか |
娘 |
漢字って、難しいけど楽しい! 今日は新しい漢字、5個勉強したんだよ |
経理部長 |
すごいじゃないか |
娘 |
でも……。この漢字、書けるようにはなったんだけど、意味があんまりピンと来なくて |
それは『仮』という漢字でした。
経理部長 |
“仮”っていうのは、本物でないとか一時的とか、そんな意味で使うんだよ。例えば、“仮の姿”と言ったら、本物ではない姿のこと、“仮の住まい”と言ったら、一時的に住む場所ってことだ |
娘 |
そういうことか |
そのとき経理部長はハッとしたのです。
経理部長の心の声 |
<仮勘定って言ったら、あくまでも、本物でない勘定、一時的な勘定じゃないか! それなのに、うちの経理部は何カ月も放置していて、とてもじゃないが一時的なんて言えないぞ!> |
これを機に、ヘルスケアみろくでは、従来の仮受金に関わる業務が抱えている問題点の分析と、対応策の検討を進めることになりました。その過程では、例えば、以下のような問題が浮き彫りになりました。
(例)
・最初の仮受金計上の時からは相当の月日が経過しても未精算のままものが多々あるため、内容調べには相当の時間と労力がかかっていること
・取引先や販売員に問い合わせてもよく分からなくなっていたり、そもそも問い合わせ先が不明なことも少なくないこと
・回収済みの売掛金について回収消込処理がされず、債権管理がずさんになっていること
それまで、ヘルスケアみろくの経理部ではあまり意識されていなかったのですが、実は年度決算段階で仮受金勘定から売上への振替を相当件数まとめて実施する結果、期中の段階での損益の推移と、年度決算段階での損益が大きく乖離することがあり、損益の見込みや納税額が大きく狂ってしまうということも起きていました。
そして、例えば、以下のような対応策を検討していくことになったのです。
(例)
・取引先や販売員からヘルスケアみろくの銀行口座へ振込をする際、請求書番号や販売員番号など入力してほしい情報を明示し、入金の内容を把握しやすくすること
・原則として3営業日以内に仮受金勘定の精算を済ませることを、ルール化すること
・仮受金をドンブリ勘定で管理するのではなく、ナンバリングした上で個別に管理すること
経理部長は、仮受金勘定の精算をタイムリーかつスムーズに行える仕組みを構築することで、年度決算業務がスムーズに進むはずと、期待しています。
ワンポイント解説「借受金勘定の精算」仮受金勘定は、計上時よりも精算時の業務負担が大きくなると想定されます。精算が遅れれば、決算時の業務負担増だけでなく、債権管理や損益予測などにも影響が及びます。スムーズな精算ができる体制づくりを検討しましょう。