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2021/04/13

質問

「三六九社」は創業以来一貫して無借金経営を貫いてきた非上場の優良企業です。総資産の3分の1を超える超大型の設備投資を控え、経営会議では設備投資資金を借り入れるべきか議論が白熱しています。あなたが経営者であれば次のうちどの方法を選びますか?

パターン1

借入はせず、全額を増資でまかなう。

パターン2

全額銀行からの借入でまかなう。

パターン3

自己資金に加わえて銀行からの借入でまかなう。

この質問をイメージして以下のストーリーをお読みください。
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白熱の議論が決着

「三六九社」は先代社長の時代から無借金経営を貫いてきましたが、総資産の3分の1を超える超大型の設備投資を前にして、2代目社長と財務担当役員は意見が対立していました。 無借金経営の伝統を貫くべきか、銀行からの融資を受けるべきか、白熱の議論の末、ようやく決着がついたようです。
 
どのように議論が決着したのか、そのときの様子を見てみましょう。

超大型設備投資の原資を巡って議論が白熱

優良企業として知られる三六九社は、先代の時代から安定的な経営を続けており、借入を全く行わない無借金経営を貫いてきました。しかし、激動の時代の中で経営環境も大きく変化し、他社に負けないものづくりを続けるためには自社の設備を刷新する必要が生じています。設備投資は総資産の3分の1を超える超大型投資となるため、その原資を巡って議論が白熱しているようです。

社長 わが社は先代の時代から無借金経営を貫いてきた。借入に依存しない健全な経営体質が取引先からの信頼につながっているんだ。借入なんかした日にはご先祖様に顔向けできん。今回の投資も借入はせず増資でまかなうべきだ
財務担当役員 確かに当社は長きにわたり借入を行うことなく経営を続けてきました。しかし時代は変化し、様々な新しい技術が登場しています。これからも、新たな投資が必要になってくるはずです。無借金経営を見直す時期に来ているのではないでしょうか
社長 銀行から融資なんか受けたら、利息を払わなければならないだろう。それに比べて自己資金や増資でまかなえば、コストはかからないじゃないか。わが社は現金もそれなりに持っている。わざわざ融資を受けて、無駄なコストを払う必要はないだろう

超大型設備投資の原資を巡って、社長と財務担当役員の議論は白熱しています。

質問

「三六九社」は創業以来一貫して無借金経営を貫いてきた非上場の優良企業です。総資産の3分の1を超える超大型の設備投資を控え、経営会議では設備投資資金を借り入れるべきか議論が白熱しています。あなたが経営者であれば次のうちどの方法を選びますか?

▼あなたの思うパターンをクリック▼

パターン1

借入はせず、全額を増資でまかなう。

パターン2

全額銀行からの借入でまかなう。

パターン3

自己資金に加わえて銀行からの借入でまかなう。

増資で資金を調達しても金利はかからないため、コストがかからないと思われがちですが、実は増資で調達した資金にも資本コストと言うコストがかかるのです。資本コストについては末尾の「ワンポイント解説」もご参照ください。

昨今の低金利の状況においては、借入を利用した場合の方がコストは小さくなる可能性が高いかもしれません。しかし、過度に借入を行った場合、支払いが滞ることによる経営破綻リスクが生ずることにも注意が必要です。適度に借入を行うことが、資金調達に伴うコストを低減することにつながるのです。

多額の資金を使った投資を行う場合、自己資本コストと負債のコストのバランスを考え、最適な資金調達を行う必要があります。三六九社の社長は、財務担当役員との白熱の議論の末、パターン3を選択しました。
 

自己資本のコストも認識する必要がある

財務担当役員 社長。先ほど、自己資金や増資でまかなえばコストはかからないとおっしゃっていましたが、本当にそうでしょうか?
社長 自己資金や増資でまかなったからと言って、借入のように金利を払う必要はないだろう
財務担当役員 確かに金利は発生しませんが、株主に対して配当を払う必要はあるのです
社長 まぁ、そうだな。配当の支払いは認識しておく必要がありそうだ。だが、うちは非上場企業なんだから、上場企業のように株主が高い配当を要求してくるわけではないだろう
財務担当役員 おっしゃるとおりです。しかし、自己資金を使う場合には、あわせて機会原価も考えておく必要がありそうです
社長 機会原価とは何だね?
財務担当役員 自己資金を株式投資や他の事業に振り向けていたら、いくらかの利益を得られていたはずです。しかし、その機会を放棄してしまうことになるので、利益を得る機会を失った分を機会原価として認識する必要があるのです
社長 なるほど。自己資金を使った場合にはコストがかからないと思っていたが、その認識は改めなければいけないな。しかし、借入に依存しない体質が自社に対する信頼の源泉にもなっている。無借金経営の方針を大きく変更するのもはばかられる
財務担当役員 おっしゃるとおりですね。借入に過度に依存してしまえば、金利の支払いが増えることになります。今は当社の資金繰りは安定していますが、借入が増えて万が一利息の支払いが滞ることになってしまったら、経営破綻に陥る可能性だってあるのです
社長 なるほど。それで、自己資金や増資でまかなうのと借入をするのでは、どちらの方がコストが小さくなるんだ?
財務担当役員 最近は低金利の時代ですので、金利は小さく、借入で生じる負債コストは以前に比べてかなり小さくなっています。さらに、支払利息が発生する分だけ課税所得が小さくなるので、税金の支払額を抑制できる効果もあると言われています。借入をうまく活用することで、資本コスト、つまり資金調達のコストを小さくすることができるかもしれません
社長 よし! 大きな経営方針の転換になるが、借入の活用も考えることにしよう。それでは、どこまで借り入れるべきか早速検討に入ろう!

その日の夜ご先祖様が枕元に

社長 無借金経営の方針をやめてしまったら、先代社長が守ってきた伝統を壊すことになってしまう。果たして、正しい決断だったのだろうか……

考え事をしながら布団の中でまどろんでいると、なんとそこに先代社長の霊が降りてきたのです。

先代社長の霊 大変な決断だったな。悩みに悩みぬいたことだろう。伝統を守ることも大事だが、大切なことはこの会社を長く育ててほしいということなのだ。さらに会社を成長させるためには、これまでの伝統を守り続けるだけでなく、新たな伝統を作ることも大切なのだ。会社を育て、世の中をさらに良くするために頑張るんだぞ。見守っているぞ

ハッと飛び起きた社長は、仏壇に手を合わせつつ、会社の成長のために借入を活用した経営に舵を取ることを決断したのです。

ワンポイント解説「資本コスト」 資本コストとは、資金調達に伴って生ずるコストで、負債コストと自己資本(株主資本)コストから構成されます。負債コストとは、負債の金利支払いによるコストであり、自己資本コストは株主が企業に期待するリターン(期待収益率)や、その他の投資案に資金を振り向けていたら得られていたであろう機会原価によって測定されることになります。資本コストを意識した経営は益々重要になっていると言われています。
 
関連リンク本記事の中に出てくる「機会原価」について知りたい方はコチラもご覧ください。
「売るべきか? 売らざるべきか? 築地市場の移転が教えてくれる決断の秘訣とは?」(経営センスチェック2018年9月3日号)
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