問題先送り体質の経理部? スムーズな決算完了のための取り組みとは?【出金編】

2021年6月23日

小売業

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2021/06/23

質問

多数の販売員を通じて、健康関連商品の訪問販売を営む「ヘルスケアみろく」。決算時には、仮払金(出金はあったが内容が未確定なもの)に関わる処理で混乱が生じています。この状況を改善するため、あなたが経理部長なら次のうちどの方法をとりますか?

パターン1

仮払いを受けたら、その月のうちに精算するよう、販売員等に対して周知徹底する。

パターン2

仮払金勘定での処理は廃止し、正式な勘定科目が分かった段階で会計処理することとする。

パターン3

仮払金勘定から正式な勘定科目への振替を速やかに行うよう徹底する。

この質問をイメージして以下のストーリーをお読みください。
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余裕が感じられるようになった決算

「ヘルスケアみろく」の本社の経理部では、そろそろ年度決算業務も終わりを迎えようとしているところです。何だか、経理部員にも余裕が感じられるように見えます。

経理部員A 去年の今頃は決算業務の終わりが見えなくて、皆焦りまくってたよね
経理部員B そうでしたね。頭は混乱するし、残業続きでもう大変でした

大変だった前期の決算業務、一体何が起きていたのか、ちょっとその頃の様子を見てみましょう。

1年前 ~決算が終わらない! 

ヘルスケアみろくは、多数の販売員によって、関東地方を中心に、健康食品や健康関連器具などの商品の訪問販売を営んでいます。健康志向が高まる中、取扱商品や販売地域を拡大し、売上を伸ばしてきました。販売員は外回りが中心で、交通費や各種経費の支出用に、頻繁に仮払いが行われています。

そして、本社経理部は現在、年度決算業務の真っただ中にあります。

経理部員A 仮払金の残高、まだこんなに残ってる
経理部員B これっていつ仮払いした分ですかね……
経理部員A 販売員にも確認してみてよ
経理部員B もう何カ月も前のですからね……。分かるかなぁ……


そんなやり取りを耳にした経理部長。実は前任の経理部長が急遽退職したことで、中途入社したばかりなのです。

経理部長 ちょっと待って。仮払金の精算はその月のうちに済ませるようにルールを決めてるはずだろう。なんで今頃そんな話をしてるんだい?

ヘルスケアみろくでは販売員等への仮払いが多数あり、仮払いした際には一旦、仮払金勘定で会計処理しています。

仮払いを受けた販売員等からは、使用した分についての領収書を経理部に提出してもらい、未使用分の現金を返金してもらっています。以前に販売員等がなかなか仮払金の精算をしないことが問題となり、仮払いを受けたら、その月のうちに精算するようにルールを決め、社内に周知されているはずなのです。

経理部長 せっかくルールを決めたのに、全然ルールが守られてなかったということか
経理部員A いえいえ、そんなことはありません。ほとんどの販売員等がその月のうちに仮払いの精算を済ませるようになりました!
経理部員B 先月仮払いした分も、未使用分の現金を返金してもらっています!
経理部長 じゃあ、なんで……

経理部長はこの状況が腑に落ちません。

質問

多数の販売員を通じて、健康関連商品の訪問販売を営む「ヘルスケアみろく」。決算時には、仮払金(出金はあったが内容が未確定なもの)に関わる処理で混乱が生じています。この状況を改善するため、あなたが経理部長なら次のうちどの方法をとりますか?

▼あなたの思うパターンをクリック▼

パターン1

仮払いを受けたら、その月のうちに精算するよう、販売員等に対して周知徹底する。

パターン2

仮払金勘定での処理は廃止し、正式な勘定科目が分かった段階で会計処理することとする。

パターン3

仮払金勘定から正式な勘定科目への振替を速やかに行うよう徹底する。

仮払いを受けた販売員等がなかなか仮払金の精算をしなければ、仮払金がいつまでもなくなりませんので、その月のうちに精算するよう、販売員等に対して、周知徹底することも必要です。しかし、ヘルスケアみろくの場合、仮払いを受けた販売員等による精算は概ねその月のうちになされているようで、問題は別にありそうです。

この方法であれば、確かに仮払金勘定に関わる面倒な処理は不要となるかもしれません。しかし、日常の経理処理において、出金があっても正式な勘定科目が分かるまで会計処理がされないこととなります。その結果、実際の出金と現金預金勘定とが合致せず、混乱が増しそうです。

ヘルスケアみろくがとったのはパターン3でした。正式な勘定科目への振替を速やかに行うとはどういうことかと言うと……
 

“仮払いの精算”の認識の食い違いにハッとする経理部長

その日、経理部長は経理部員たちとさらに話を続けるうちに、ハッとしたのです。心の中で、「まさか“仮払いの精算”とは何かの認識が食い違ってるんじゃ?」と思いつつ、言いました。

経理部長 さっき君は、「先月仮払いした分も、未使用分の現金を返金してもらっています!」って言ったよね? でも、“仮払いの精算”っていうのは単に未使用分の現金を返金してもらうということじゃないんだよ
経理部員B えっ? どういうことですか?
経理部長 消耗品購入に使ったのか、ガソリン代に使ったのか、交通費に使ったのか……、何に使ったのかを確かめて、正しい勘定科目に計上しなかったら、仮払金の精算をしたことにならないんだよ

どうやら経理部員たちは「仮払金の精算」の意味を理解していなかったようです。販売員等から、使用した分の領収書を提出してもらいはしたものの、正式な勘定科目に振り替えられない状態のままのものが徐々に積み上がり、年度決算が近づく頃には、仮払金の残高が相当膨らんでいたのです。

その結果、年度決算時に、膨らんだ仮払金の中身を精査し、正式な勘定科目への振替処理を行っていたのです。何カ月も前に計上した仮払金でも、未精算のままになっているものが多く、経理部員たちは中身を調べるのにとても苦労していたのです。

これを機に、経理部長は経理部員たちと“仮払いの精算”の認識を合わせるとともに、従来の仮払金に関わる業務が抱えている問題点の分析と、対応策の検討を進めることになりました。その過程では、例えば、以下のような問題が浮き彫りになりました。
(問題の例)
・最初の仮払金計上の時からは相当の月日が経過しても、実際の経費等への振替が未了のものが多々あること
・仮払金から支出した経費等のうち、近距離の切符代など領収書等の証憑がないものがあるが、不明のまま放置されているケースがあること
・これらのため、その後の内容調べには相当の時間と労力がかかっていること
・販売員等に問い合わせなどをしてもよく分からなくなっていたり、そもそも問い合わせ先が分からないことも少なくないこと
・損益の着地見込みや納税見込みが大きく狂ってしまうこと

そして、例えば、以下のような対応策を検討していくことになったのです。
(対応策の例)
・原則として月次の段階でその月の仮払金の精算(本勘定への振替を含む)を済ませることを、ルール化すること
・販売員等の仮払金のうち未使用分を精算する際、使用分について領収書の提出が原則であるが、領収書のない支出(近距離の切符代など)をした場合も、使用の内容を明示した明細書等(交通費使用の日付や利用区間の明細など)の提出を求め、使用内容が不明のものが生じないようにすること
・現金での仮払いを削減し、経費支払い用のICカード活用を導入すること

それまで、ヘルスケアみろくの経理部ではあまり意識されていなかったのですが、実は年度決算段階で仮払金勘定から実際の経費勘定等への振替を相当件数まとめて実施する結果、期中の段階での損益の推移と、年度決算段階での損益が大きく乖離することがあり、損益の見込みや納税額が大きく狂ってしまっていました。

経理部長は、仮払いの方法の見直しによる仮払いの削減や、仮払金勘定から本勘定への振替をタイムリーかつスムーズに行える仕組みを構築することで、年度決算業務がスムーズに進むはずと、期待しています。
 

ワンポイント解説

「仮払金勘定から本勘定への振替」

仮払金勘定は、計上時よりも精算時の業務負担が大きくなると想定されます。仮払金勘定はあるまでも仮の勘定であり、実際に何に使用したかに応じて、消耗品費・会議費・交際費・交通費等の適切な勘定に振り替える必要があります。精算が遅れれば、決算時の業務負担増だけでなく、損益予測などにも影響が及びます。スムーズな振替ができる体制づくりを検討しましょう。
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「問題先送り体質の経理部? スムーズな決算完了のための取り組みとは?【入金編】」(経営センスチェック2021年2月23日号)

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