春のお祝いシーズンを勝ち抜く! 顧客が離れない宅配業者の秘密とは?

2017年2月23日

運輸業

  • 運輸業
2017/02/23

質問

大口顧客の百貨店から内々に、商品配送を大手の競合業者に切り替えるか検討していると連絡を受けた「宅配ミロク」。あなたが経営者なら次のうちどの行動をとりますか?

パターン1

取引を継続するために、大手競合よりも安い価格を提示する。

パターン2

切り替えによって発生するコストも含めて比較してもらう。

パターン3

追加のサービスを無料で引き受ける。
 

この質問をイメージして以下のストーリーをお読みください。
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顧客離れの少ない宅配業者

「宅配ミロク」は中堅の地方都市で営業している宅配業者です。お客さまは地元の百貨店や名産品を扱うお店など、贈答品や記念品を販売する小売店のみです。顧客数はさほど多いとは言えず、事業規模もまだまだ小規模です。しかし、一度お取引いただいたお客さまが離れることは極めて少なく、創業以来、ゆっくりですが着実に成長を続けている優良企業です。
 
順風満帆に見える「宅配ミロク」ですが、昨年、お歳暮シーズンも終わり、春のお祝いシーズンに向けてほっと一息つきたい時期に、ちょっとしたピンチに見舞われました。一体何があったのか、その頃の様子を振り返ってみましょう。

昨年初春 ~大手競合が切り替えキャンペーンを開始

春は卒業・入学・就職など、お祝い事が多くなる節目の季節です。お祝いの贈り物が多くなるため、宅配業者にとって春のお祝いシーズンはお中元やお歳暮シーズンにも負けない書き入れ時になります。
 
逆に、百貨店などの側からすると、当然、配送の発注額が大きくなりますので、もう少し配送単価を抑えられないかと考える時期と言えます。百貨店などが宅配業者の切り替えを検討しやすくなるタイミングに合わせ、この地方でのシェアをさらに伸ばすべく、大手の宅配業者がキャンペーン価格での宅配プランを提案し始めたのです。
 
そんな中、「宅配ミロク」にも大口顧客である「MJS百貨店」の物流担当者から連絡が入りました。

百貨店の担当者 実は、とても良い金額で提案してくれている業者さんがいましてね……。切り替えも含めて検討しているんですよ。でも、これまでのミロクさんとのお付き合いもありますし、切り替えが決まってしまう前に内々にお伝えだけはしておこうと思いまして……。春のお祝いシーズンも間近なんで、もしミロクさんからの提案があれば今週中に聞かせてほしいんですよ
万一切り替えとなったら「宅配ミロク」としても大ごとです。
社長の心の声 <今週中って、もう時間がない。一体どうしたものか……>
社長は「MJS百貨店」からの突然の連絡に驚くとともに、大口顧客を取られないために、大手競合のキャンペーンにどのように対抗すべきか悩みました。 
 

質問

大口顧客の百貨店から内々に、商品配送を大手の競合業者に切り替えるか検討していると連絡を受けた「宅配ミロク」。あなたが経営者なら次のうちどの行動をとりますか?

▼あなたの思うパターンをクリック▼

パターン1

取引を継続するために、大手競合よりも安い価格を提示する。

パターン2

切り替えによって発生するコストも含めて比較してもらう。

パターン3

追加のサービスを無料で引き受ける。

確かに、一度取引が無くなってしまったお客さまを取り戻すのは至難の業です。そのため、大手競合のキャンペーンに負けない価格を提示してでも、なんとか取引は継続したいと思う気持ちもわかります。しかし、中小企業にとって大手と体力勝負を続けることは、かなり厳しい戦いになりそうです。

実は「宅配ミロク」の社長が選択したのはパターン2でした。大手競合との価格勝負は絶対に避けたいと思っていた社長。現在の価格は維持しつつ、競合の提案内容に決して引けを取らないことをお客さまにご理解いただくために、どのような説明をすれば良いか悩んでいたのですが……

大手競合よりも価格を下げるのではなく、追加のサービスを無料で引き受けることを提案することも考えられます。ただし、この場合は今よりも採算が悪化するでしょうし、今の人員で追加業務をやりくりできるかといった問題も出てきそうです。

ターニングポイントは目に見えない『スイッチングコスト』に気付いたことだった

気持ちが焦るばかりで良い考えがなかなか思い浮かばない社長。重い足取りで自宅に戻ると、これまた深刻な顔をした社会人4年目の息子が話しかけてきました。

息子 よく考えたけど、やっぱり今の会社に残ることにしたよ
息子は、もっと給料が高い、別の業界の会社に転職しようか悩んでいましたが、もう少し頑張ることを決めたようです。
社長 そうか。お前がよく考えて決めたんなら、それでいいんじゃないか。ところで、最終的に残ることに決めた理由は何だったんだ?
 
息子 うーん、確かに給料は今より高くなるかもしれないけど、またゼロから人間関係を構築していく時間や、必要な技術とか知識を習得していく負担を考えると、額面ほど給料がアップする感じはないなと思ってさ。むしろ、これくらいの上げ幅だと割に合わないんじゃないかと思えてきたんだよね
社長の心の声 <なるほど。もらえる金額はアップしても、変えない方がいいと感じることもあるってことか。ということは逆に、目に見える金額は安くなっても、切り替えることでかえって高くついてしまうこともあるんじゃ……>

息子の転職話から「宅配ミロク」のピンチを打開するヒントを得た社長は、まずは「自社の強み」を洗い出してみました。

例えば、「宅配ミロク」は小売店に特化して事業を行ってきましたので、小売店の物流業務のノウハウが豊富に蓄積されています。そのため、各ドライバーは細かい指示を受けなくてもお客さまが求めている作業が実施できます。また、そのノウハウを活かして、業務の改善提案などもサービスで行っています。

また、地域密着型のため、細かいエリア情報が各ドライバーの頭の中に入っています。そのため、同じ名字が多いエリアでも、お届け間違いなどの単純なミスは起きませんし、在宅タイミングもある程読めるため、贈答品ならではのその日に届けてほしいというご要望も追加料金をいただくことなく対応しています。

他にも「宅配ミロク」だからこそできていると思えることをたくさん洗い出せました。

次に社長は、「仮に大手競合に切り替えることで、「宅配ミロク」と同じことがしてもらえなくなったときに、お客さまの負担になるであろう手間暇や追加料金」について、まとめてみました。

「自社の業務を教える手間」、「細かい指示を出さなければならない手間」、「業務の改善点を自分たちで考え見つけ出す手間」、「誤配送などトラブル対応の手間」、「指定日配達など、カスタマイズにかかる追加料金」などです。

こうして提案の材料を準備した社長は、内々に連絡してくれた百貨店の担当者を訪ねました。

社長 大手競合のキャンペーン料金は確かに安く感じます。ですが、もし当社から切り替えたらどうなるでしょうか? こうした目に見えないコストが発生しませんか? それを考えずに、見かけの料金だけで判断すると危険です!
百貨店の担当者 やっぱり、そうですか。私もそんな気がしてたんで、事前に相談させてもらったんですよ。今日ご説明いただいて確信しました。切り替えは見直すよう、上司を説得します
結果的に、このお客さまは「宅配ミロク」との取引を続けてくれることになりました。

その後も何件か大手競合から同様のアプローチを受けたお客さまがいたようですが、自信を持って切り替えによって発生するコスト、つまりスイッチングコストの話をすると、どのお客さまも納得し、取引を継続してくれたようです。

今回の一件で、スイッチングコストの重要性について知った「宅配ミロク」は、これまで以上に自社の強みに磨きをかけ、「宅配ミロク」から他の業者へ切り替える際のスイッチングコストが高くなるような取り組みを進めていきました。その結果、さらに顧客離れの少ない宅配業者になり、新規顧客を獲得すればその分だけ成長できる企業になることができたのです。

また逆に、スイッチングコストを引き下げることができれば、競合他社と取引しているお客さまでも切り替えを検討していただきやすくなることにも気付きました。贈答品の宅配に関する豊富なノウハウを武器に、切り替えの手間がかからないことをアピールした提案を見込み顧客にもしていく予定とのことです。
 
ワンポイント解説

「スイッチングコスト」

スイッチングコストとは、現在利用している製品・サービスから他の製品・サービスに切り替える際に利用者が負担しなければならないコストのことで、切り替えにかかる金銭的な負担だけでなく、使い方に慣れるための手間暇や心理的な負担なども含みます。
自社の製品・サービスから他社の製品・サービスへのスイッチングコストを高めることで、顧客離れを生じにくくすることができます。

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