期末が近づくと生産量を増やす工場長。社長が気付いたその意図とは?

2017年3月23日

製造業

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2017/03/23

質問

ここ数年、期末になると生産量が増えるため、社員の残業と倉庫の製品が急増する工場。あなたが経営者なら工場長にどのような指示をしますか?

パターン1

期末には、臨時のアルバイトを採用して社員の残業を減らすとともに、倉庫も借り増すよう指示する。
 

パターン2

期末に生産量を急増させなくて済むよう、前倒しで生産することを指示する。

パターン3

営業部門の販売見込み以上の生産はしないよう指示する。
 

この質問をイメージして以下のストーリーをお読みください。
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残業時間も在庫数も常に適正な工場

「みろく工業」は、メーカー向けに汎用(はんよう)性の高い各種部品等を製造・販売しています。この10年間順調に成長を続け、国内に2つの工場を持つまでになりました。社長はもともと商社で働いていましたが、3年前に父親である先代社長の体調不良で経営を引き継ぎました。
 
今日は得意先の購買担当者が、みろく工業の岐阜工場に見学に訪れています。

得意先担当者 御社の工場は必要最低限のものしか置いておらず、すっきりしていますね
社長 ありがとうございます。整理整頓は工場の基本です

そのとき、終業時刻を知らせるチャイムが鳴り、社員が一斉に片づけに入りました。

得意先担当者 今日は皆さん残業しないのですか?
社長 緊急な受注がない限り残業はほとんどありません。まぁ、残業しなければ追いつかないほど受注があれば良いのですが。ワハハ
得意先担当者 何をおっしゃいますか。順調に売上も伸びていて、それでいて工場の管理もできている。本当にうらやましい限りですよ

今でこそ、自慢の工場ですが、3年前は全く状況が違っていました。

3年前 ~期末が近づくと倉庫に製品が入りきらなくなる工場

3年前、社長はみろく工業で働きはじめて最初の期末をむかえようとしていました。製造現場の様子見と激励をかねて岐阜工場を訪れると、社員はわき目もふらずに猛烈な勢いで作業をしていました。終業時間を知らせるチャイムが鳴っても、誰一人手を止めません。倉庫に入りきらずに工場内にも製品の山が積み上がっています。出荷部門の担当者たちは出荷票を見ながら、該当する製品がどこにあるのか分からず困惑しています。
 
ここ数年、岐阜工場では期末が近づくと、こんな混乱状態に陥っているようなのです。社長は初めてこの混乱ぶりを見て思いました。

社長の心の声 <頑張って稼働率を上げてくれるのはいいが、これほど残業が増えたのでは社員も疲弊してしまう。それに倉庫もすっかり手狭になっている。何か対策をうたないといけないな>

質問

ここ数年、期末になると生産量が増えるため、社員の残業と倉庫の製品が急増する工場。あなたが経営者なら工場長にどのような指示をしますか?

▼あなたの思うパターンをクリック▼

パターン1

期末には、臨時のアルバイトを採用して社員の残業を減らすとともに、倉庫も借り増すよう指示する。

パターン2

期末に生産量を急増させなくて済むよう、前倒しで生産することを指示する。

パターン3

営業部門の販売見込み以上の生産はしないよう指示する。

製品の販売見込みが急増するなど生産量を増やさざるを得ない状況にあるのであれば、臨時のアルバイトを採用して社員の残業を減らすことも考えられます。倉庫を借り増すことで在庫の整理整頓もできるでしょう。ただし、本当に倉庫を借り増すほど生産量を増やさなければならないのか、確認する必要があるでしょう。

販売が見込まれる量を生産するのであれば、月々の生産量を平準化して前倒しで生産すれば、残業を減らすことができるし、在庫がどこにあるかもわからないといった混乱を避けることもできるかもしれません。しかし、販売が見込まれる量以上に生産してしまうと、不良在庫になるおそれもありますので、注意する必要があります。

実は社長が行ったことはパターン3でした。社長は工場長に対し、月間の販売見込み数の一定割合に在庫をおさめるよう指示しました。なぜそのような指示をしたかというと、期末に生産量を急増させる工場長の意図に社長が気付いたからだったのですが……

期末に工場長が増産するのには理由があった!

ある日、社長が以前働いていた商社の同期と久しぶりに食事をしたときのことです。

社長 その後どう? 相変わらず忙しいの?
元同僚 相変わらずだよ。今日はあるメーカーからアイデアを欲しいって頼まれてね。業績が苦しくて、何とか今期を黒字にしないと生き残れないって言うんだ
社長 大変だな~。俺も他人事じゃないよ。で、何かアイデアを出したのかい?
元同僚 先輩から教えてもらった秘策を伝授したよ
社長 秘策って?
元同僚 在庫が積み上がってもいいから、期末まで徹底的に生産量を増やせ、って言ったのさ
社長 それでどうなるんだ?
元同僚 販売見込み以上に生産量を増やせば期末在庫は増える。でも、製品1個当たりの固定費が小さくなるから、製品当たりの売上原価が減って利益が増えるのさ
社長 えっ、増産することで無理やり利益を増やせてしまうってことか?
元同僚 そう。“作れば作るほど、原価が低減する仕組み”を利用したってわけさ。まぁ、こんな粉飾まがいの利益調整をしていたら会社がおかしなことになってしまうが……
社長は元同僚の話を聞きながら考えをめぐらせました。
社長の心の声 <もしかしたらウチの工場長が期末近くに稼働率を上げるのも同じ理由かもしれない。しかし、工場はコストセンターだから、工場長は利益責任を負っていない。なぜ、生産量を増やそうとしたのだろう……。生産量を増やすと、製品1個当たりの固定費が小さくなるから……>

しばらく考えてやっと、生産量を増やす隠れた意図に気付きました。

社長の心の声 <そうか! 工場長の主要な評価項目に、「製品1個当たりの原価」があるんだ。これを低くするために、生産量を増やしていたというわけか>
社長はその夜、工場で何が起きているのか、その根本的な原因を考え抜きました。そして次の日、工場長にこう指示したのです。 
社長 今後は、在庫が月間の販売見込み数の一定割合におさまるよう生産量を調整して欲しいんだ。生産量を増やすことで、製品当たりの原価が低減するだろう。そうすると、結果として売上原価が小さくなり、当社の利益が増えたように見えてしまう。しかし、それは実力ではないんだ。私は会社が本当に利益を出せているのか知りたいんだ。そのためには、適正な生産量を維持しなければならないというわけさ
工場長 私はただ、製品当たりの原価を減らそうと、生産量を増やしたのですが……、それが結果的に会社の正しい利益を見えなくしてしまっていたということですか
社長 そういうことだ。利益が実力より大きく算出されてしまうということに加えて、もっと大きな影響がある。それは、無理に生産量を増やすことで、社員が疲弊して退職してしまったり、積み上がった製品を保管するための倉庫を借り増したり、さらにはその製品在庫の管理をする人を雇ったり、といった具合に無駄なコストばかり増えてしまう。それに、販売見込み以上に作ってしまった製品は不良在庫になりかねないぞ
 
【ワンポイント解説】

「作れば作るほど、原価が低減する仕組み」

生産量が増えることで製品当たりの固定費の負担額が小さくなるため、作れば作るほど、数字の上では製品当たりの売上原価を小さくすることができます。ただし、販売見込み以上に作ってしまった製品は、不良在庫になってしまいかねません。

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