
利益はどこへ消えたんだ!? 名探偵の新卒経理担当が見破った方法とは?
質問
利益が増えているのに、現預金が全く増えない企業。利益がどこへ行ったか調べるために、あなたが経営者なら、どのような分析をしますか?
パターン1
現預金の明細を、前期と今期で比較する。
この質問をイメージして以下のストーリーをお読みください。
利益以上に現預金が増えて喜ぶ中小企業
「MJS産業」は中小企業ですが、この数年間、増収増益を続けています。そして今期も増収増益を達成しました。社長は入社2年目の経理担当による業績説明を聞きながら、今期は利益以上に現預金が増えたことを喜んでいます。
今でこそ、利益と現預金の関係を理解した社長ですが、1年前は全く分からず、随分と不安を感じていたものでした。
1年前 ~なぜ増益なのに、現預金が増えていないんだ?
それは1年前の月例会議でのことでした。MJS産業ではベテランの経理担当が高齢のため退職した後、経理業務は古くから働くパートさん一人で行ってきました。そのため総務担当は会計の勉強は全くしたことがありませんから、いつも経理のパートさんに言われたとおりに説明していました。
総務担当 |
というわけで、皆さんの努力の結果、今期も増収増益となりました |
社長 |
確かに、今期も増益となったことはうれしいことなんだが…… |
購買担当 |
何か気になることでもあるのですか? 社長 |
社長 |
損益計算書を見ると、利益は3,000万円出ているのに、なぜ貸借対照表の現預金が前期に比べて1,000万円しか増えていないんだ? |
営業担当 |
確かに、そうですね……。もしかしたら、経理の金庫の中にまだ2,000万円あるんじゃないでしょうか? 総務担当はちゃんと経理の金庫もチェックしているのですか? |
総務担当 |
もちろんですよ。それに、金庫の中に2,000万円もの現金があればさすがに気づきますよ |
購買担当 |
確かにそうですね。むしろ、誰かが2,000万円を持ち逃げしたと考えたほうが自然ですよ |
営業担当 |
とりあえず、警察に被害届だけは出したほうが良いのではないでしょうか |
購買担当 |
警察はさすがに行きすぎですが、まずは探偵を雇って内々に調べてもらうことも考えてはいかがでしょうか |
社長は、議論がおかしな方向に向かっている気がしましたが、ただ幹部の本気なのか冗談なのか分からない会話を聞いているしかありませんでした。 |
社長の心の声 |
<そんなバカな話はないとはいえ、現金は一体どこへ消えてしまったんだ……> |
質問
利益が増えているのに、現預金が全く増えない企業。利益がどこへ行ったか調べるために、あなたが経営者なら、どのような分析をしますか?
パターン1
現預金の明細を、前期と今期で比較する。
名探偵の新卒社員が教えてくれた! 利益がどこへ行ったか調べる方法とは?
その月例会議が終わった午前11時。社長は新卒社員の入社式に出席し、会社の歴史や理念など1時間にわたって大演説を行いました。今年の新卒社員は2名です。一人は技術者、もう一人は経理担当です。経理担当者を中途採用するのはコストが高いということで、新卒社員を経理に配属し、パートさんに鍛えてもらおうということになったのです。
その入社式が終わった後、社長をはじめとした経営幹部と新卒社員2名は一緒に近くのホテルで新人歓迎の昼食会をしていました。
とても和やかに話が進む中、少しお酒が入っていい気分になった社長が、月例会議で配られた貸借対照表と損益計算書を見ながら、会社の業績について語り始めました。
社長 |
ほら、このとおり、前期に比べて利益が増えているだろう。この損益計算書の当期純利益というところだ。なっ、うちは増収増益でなかなか業績もしっかりしているだろう |
技術の新卒社員 |
わっ、3,000万円も利益が出ているんですか! すごいです! |
社長 |
ただ……、当社にも問題がないわけでもないんだ…… |
技術の新卒社員 |
えっ、何か問題があるんですか? |
社長 |
いやいや、君らに説明してもよく分からないと思うが、実は利益が3,000万円も出ているのに、なぜか現預金は1,000万円しか増えていないんだ |
技術の新卒社員 |
えっ、どういうことですか? まさか誰かが盗んだってことですかっ? |
営業担当 |
しっ! 大きな声はだめだ。今後、もしかしたらちょっとした調査が入るかもしれないが、君らは何も心配する必要はないからな |
すると、隣でこの会話を聞いていた経理担当の新卒社員が、少し言いにくそうに切り出しました。 |
経理の新卒社員 |
あの~。利益と、現預金の増加額は一致しないのが普通だと思うのですが…… |
社長 |
いやいや、いいんだ、まだ君らには難しくて分からないだろう |
経理の新卒社員 |
ちょっとその貸借対照表をお借りできますか。学校で習ったんですけど、比較貸借対照表を作れば良いんだと思います |
社長 |
そうか、明日、早速その比較なんとやらを作ってみてくれるか? |
翌日、経理の新卒社員は、次のような比較貸借対照表を作り、経営幹部に説明しました。
 |
経理の新卒社員 |
これは、貸借対照表の勘定科目別に、今期と前期の差額を計算したものです。利益剰余金が3,000万円増えているのは、今期の利益が3,000万円あったことを示しています |
社長 |
ほほう |
経理の新卒社員 |
その利益3,000万円がどうなっているかというと、現預金の増加で1,000万円、売掛金と棚卸資産の増加でそれぞれ500万円、借入の返済で1,000万円、という具合になっています |
総務担当 |
なるほど。利益が増えたものの、借入を返済し、売掛金・棚卸資産が増加した結果、現預金は1,000万円しか増えなかった、ということか! |
社長 |
そうか…、君はまさに名探偵だな! 利益がどうなったかを知るには、そんな簡単な計算で良かったのか。つまり、お金が盗まれたわけではなくて、売掛金と在庫が増えたのが原因だったわけだなっ! 営業担当と購買担当 |
営業担当と購買担当 |
犯人は我々だったということですか…… |
【ワンポイント解説】
「比較貸借対照表」前期と当期の貸借対照表の差額を勘定科目ごとに計算した表をいい、資産・負債・純資産の増減の内訳を知ることができます。また、ここから利益(利益剰余金)の金額と現預金の増減額との関係を把握することもできます。