導入事例

株式会社ビジネスプラン/あんの会計

2016年2月10日

株式会社ビジネスプラン/あんの会計 様

会計事務所は今後、顧問先に何を提供していけばよいのか。業務の機械化により、その存在価値が薄れ始めている会計事務所。そのような現状を不安視する声が業界のあちこちで聞かれるようになった。価格破壊と付加価値の創造のどちらを選ぶかは、多くの税理士が抱える問題だ。そこで今回、そのような時代の変化に対応すべく、人間力を基盤とした事務所改革に挑戦する株式会社ビジネスプラン/あんの会計(島根県益田市)を取材した。代表の安野広明税理士は5年前、先代の急逝により急遽、事務所を引き継いだ。その後、社内外に向けてマインド重視のさまざまな施策を展開。積極的な情報発信により地域の支持を集めている。「ライバルはサービス業全般」とする安野氏の会計事務所経営哲学についてお話を伺った。

あんの会計の理念経営

―― 先代の急逝で、急遽、東京から地元に帰り事務所を継がれたのが5年前だそうですね。青天の霹靂で何の心の準備もなかったでしょうから、当時は大変だったのではありませんか。

安野 そうですね。父が亡くなった2010年、当時私は31歳で東京の税理士法人に勤務していました。それが気づいたら経営者になっていた。とにかく顧問先さんを全て回りました。しかし、相手は年齢的に自分の父親以上の人たちばかり、しかも百戦錬磨の経営者たち。顧問先を回りながら、徐々に事態の重さを実感していきました。

―― そのような安野先生ですが、今はすっかり地元に溶け込み、積極的な地域貢献活動で事務所を引っ張っていらっしゃいます。今日は、あんの会計がどう地域に接し、顧客サービスを展開されているのかお聞きしたいと思います。
まずは、事務所の理念などについてご紹介いただけますか。

安野 あんの会計の創業は昭和55年です。61年にコンサルティング会社の株式会社ビジネスプランを立ち上げ、この2つを両輪として今日までやってまいりました。
 「当社のサービスは、お客様に『安心』と『信頼』を売ること」と「社員の幸せを追求し、人間性を高め、仕事を通じて社会に貢献する」の2つを経営理念とし、「お客様が求めるもの」というより「お客様のためになるもの」を提供しようと研さんを重ねてきました。
 この理念は、ひとつ目は先代がつくったもので、2つ目は私が付け加えたものです。「経営者は、社員さんとそのご家族の幸せを第一に考えなければならない」という、私の尊敬する伊那食品工業株式会社(長野県伊那市)の塚越 寛会長のお考えに共鳴してつくりました。社員が会社に満足していなければ、お客様を満足させることはできない。そのような想いを理念に入れたつもりです。

―― 確かによい事務所ほど、社員さんを大事にしている印象があります。

安野 私は、会計事務所の売り物は人そのものだと思っています。であるならば、社員一人ひとりの成長が事務所の成長につながるといえます。当社は理念のほかに「たくさんの『ありがとう』を集め、日本の中小企業を元気にする」というビジョンを掲げています。人から必要とされ、感謝されることからやりがいは生まれる。ですから、仕事を通じてたくさんの「ありがとう」をいただけるようになろうという意味です。社員さんがやりがいを感じられるようになれば、自ずと成長が促され、さらに多くの「ありがとう」をいただけるようになる。感謝、成長、やりがいという好循環が生まれると思うのです。

講演会やセミナーによる 情報発信で地域へ貢献

―― 貴社では講演会やセミナーを積極的に開催されていますが、これも理念の具現化、「好循環」に通じるところがありますね。

安野 そうです。当社では30年以上前から、地域の方々を300~400人集めて特別講演会を開催していますが、そういった情報発信が当社の特徴でもあり、成長要因のひとつだと思っています。特別講演会は中断していた時期もありましたが、私がこちらに戻ってから再開し、昨年で25回目を迎えました。
 その内容は、「お客様のためになるものを」という想いから、どちらかというと考え方や意識レベルの精神論的な話になります。昨年のテーマは「出会いを生かせば道は開ける」でした。経営ノウハウやビジネスの具体論といった「入り口」も大切ですが、それ以上に、利益をどう還元するかという「出口」のほうが重要だという考えから、そういったお話をしていただける方を講師としてお招きしています。

―― 経営ノウハウより経営者マインドを重視されているわけですね。

安野 昨年、私たちは「お客様の成幸をサポートする+地域貢献」というミッションを掲げました。「功」ではなく「幸」という字をあてています。経営者、社員とそのご家族、さらには地域の皆さんに幸せになっていただきたいという想いを込めました。地元に根を張ってビジネスをする以上、地域貢献は使命だと私たちは考え、講演会をはじめセミナーやイベントなどにも取り組んでいます。

―― 「お役立ちセミナー」というセミナーも毎月開催されていますね。これはどのような内容になるのでしょうか。

安野 「お役立ちセミナー」は、「絵手紙教室」や「フラワーアレンジメントセミナー」といったカルチャー的内容のものから、「遺言書の書き方」「消費税増税対策」「マイナンバーセミナー」など、専門的なものまで多岐にわたります。こちらのセミナーは、当社のファンをつくることが目的ですので、誰でも気軽に足を運んでいただけるテーマを選んでいます。

―― 毎月、企画するのも大変だと思いますが、講師はどういった方にお願いするのですか。

安野 地元にたくさんいらっしゃいます。例えば論語や歴史について専門家並みに詳しい方、カルチャースクールで講師をされている方、逆境を乗り越えた経営者などです。そのような方たちを、当社の社員が発掘してきてくれます。特別講演会の講師は、私自身がご講演を聞いて心に響いた方にお願いしていますが、お役立ちセミナーは、社員に全て任せています。

―― そこは役割分担で、先生はトップの役割に徹しているということですね。

安野 役割は完全に分けています。私は担当を一切持ちません。先代が担当していたお客様も全て社員に引き継いでもらいました。では経営者としての私の役割は何か。現場のフォローアップと、あとは、将来に種をまいて道筋をつけることだと思っています。ですから、そのために必要なことをやっていきたいと思いますし、さらに絞って「私にしかできないこと」を深めていきたいと思っています。
 そのような考えから、外部の勉強会や見学会にも積極的に参加するようにしています。そして、そこで学んだことはできる限り社員やお客様に還元します。私が自由に動けるのは社員のおかげですから。会社を引き継いだとき、最年少だった私を支えてくださった皆さん、そしてこれまで一緒にやってきてくださった皆さんには感謝してもし足りません。

―― 現在、将来に向けた種まきは何かされていますか。

安野 「次世代リーダーの会」がそれに当たるでしょうか。といっても結果的にそうなっているだけで、種まきが目的ではないのですが、毎月、若手経営者、後継者が集まって勉強会を開いています。3年前に4人からスタートした勉強会ですが、今ではメンバーも約40人に増え、毎月5〜10名ほど集まります。
 会費はなく、誰でも参加でき、来られるときに来るというスタンスの勉強会です。参加された方にはアウトプットの場としても活用してもらう。私は取りまとめ役です。ゆるいつながりにして相乗効果を生み出そうという、ある意味、実験的にやっているところがあります。
 ただ、半年に一度、会主催で地域の若者向けに講演会を開いており、そのときだけは積極参加をお願いしています。協力して集客からやっていただく。集客も勉強のうちだということで、毎回150~200人ほど集めます。会のメンバーで企画・運営しますから、当社の社員は基本的にノータッチです。

―― 皆さん、積極的に参加されますか。

安野 勉強したがっている人はいます。火をつければ燃えあがる人は結構いる。私は、そのような人に火をつける着火マンになりたい。実際、会に参加して火がついたという人が何人もいます。遠くから通ってくださる方もいます。20代の若い方もいて、私も刺激を受けます。

―― まさに切磋琢磨ですね。

会計事務所のイメージをぶち壊す

―― 貴社はまた、太陽光発電、マイはし運動、ゴーヤ栽培など、環境への取り組みにも積極的ですが、これにはどのような意図があるのですか。

安野 環境への取り組みは父が力を入れていたものです。「マイはし」も父が顧問先の金型メーカーさんとコラボして伸び縮みする箸を開発しました。私は単にそれらを引き継いだにすぎませんが、環境への取り組みもまた、あんの会計らしさだと思います。看過すべきではないのに先送りされやすい問題ですので、少しずつでも地道に進めていきたいと思っています。

―― 先進的な事務所という印象を受けます。

安野 見本になるような会社になりたいという想いが私にはあります。例えば当社では「接客の心得」をつくり、毎週読み合わせをしているのですが、これも、接客レベルがあまり高いとはいえない中小企業の見本になればとの想いもあって行っています。意識さえあれば、コストなどかけなくても接客レベルは上がる。それを自分たちがお客様に証明してみせようというわけです。

―― 会計事務所が接客業、サービス業の見本になる。これも時代ですね。

 安野 当社の今期の目標は、「価格破壊」ならぬ「感覚破壊」です。これはずっと以前から思っていたことなのですが、会計事務所もサービス業であるという観点に立ち、従来のイメージをぶち壊していきたいと考えています。
 リッツカールトンが、ホテル業界ではなくラグジュアリー業界全般をライバル視しているように、私たちも会計業界ではなく、サービス業全般をライバルとして捉えています。ですので、今後は会計事務所らしくないことにもチャレンジしていきます。

―― 例えば、どのようなことですか。

安野 例えば今年の1月、当社が主催して地元でサーカスを開催しました。「コメディー・クラウン・サーカス」といいまして、「クラウン」と呼ばれるピエロの格好をした人が5人でパフォーマンスをする子供向けサーカスです。
 これを企画しているプレジャー企画(愛知県名古屋市)代表の大棟耕介氏に講師をお願いしたご縁で話が進み、私も実際に見て感動したので、思い切ってやらせてもらいました。

―― 反響はいかがでしたか。

安野 観客数は600人にのぼり、期待通り子供たちは大喜びで、やってよかったと思っています。もしかしたら今後、恒例行事になるかもしれません。採算度外視では続きませんので、多少の料金はいただきますが、かなり安いと思います。
 このようなイベントは社内にもメリットをもたらします。やるからにはあんの会計のジャンパーを着てPRもしますし、社員全員が一丸となることでチームワーク力も高まります。

システムとリレーションシップによる業務の効率化

―― ところで、あんの会計さんでは、業務システムはどのようなものをお使いなのですか。

安野 当社では、MJSの統合業務パッケージ「ACELINK NX-Pro」を導入しています。

―― MJSのシステムを導入されてからどれくらいになるのですか。

安野 もう20年以上になるでしょうか。先代が急逝し、社内が混乱していた時期にも柔軟に対応していただき、本当に感謝しています。ここは都心からも遠く、不便な場所ですが、いつも距離を感じさせない対応をしていただいています。電話や遠隔操作などで対応していただけるので、大変ありがたいと思っています。レスポンスもよく、営業の方はまめに寄ってくださいますし、気にかけていただいているということを実感します。
 最近では昨年、システムの入れ替えに併せて、マイナンバー管理システム「MJSマイナンバー」を導入しました。

―― 「MJSマイナンバー」はMJSのシステムと連携しながら、マイナンバーを安全に管理できるシステムだそうですね。

安野 マイナンバーの管理には厳格な対応が必要ですが、そのために業務の効率が落ちてしまっては困ります。
 「MJSマイナンバー」はマイナンバーを安全に扱えるだけでなく、MJSのシステムと連携して税務申告書や源泉徴収票、支払い調書などにマイナンバーを印字できますので、安全かつ効率的に業務を行えると期待しています。
 これに併せて、パソコンの不正な操作を監視するセキュリティ・アプライアンス「SOXBOX NX」や、ファイアウォール「FortiGate」も導入し、所内のセキュリティを強化しています。
 ちなみに、顧問先の多くには自計化システム「ACELINK NX記帳くん」を導入していただいています。

―― マインド重視の経営指導に取り組みつつ、ITにも力を入れておられる印象です。

安野 技術は日進月歩です。作業レベルの仕事はますます人工知能に取って代わられ、効率化もさらに進むでしょう。それはそれで必要なことだと思います。しかし、社員同士がお互いの人間性を知り、認め合える環境をつくることは、それ以上に大事ではないかと思います。お互いに関心を持つことは、目には見えないけれども生産性向上につながると思うのです。

―― 確かに、会計事務所のような属人的組織においては特に、リレーションシップは重要な要素だと思います。

安野 私は今、毎月欠かさず1日かけて社員一人ひとりと面談しています。面と向かって対話しないと伝わらないことがあるからです。といっても私は聞き役に徹し、しかも、毎回質問する内容は同じですので、社員もある程度回答を用意しています。目的は定点観測です。定期的に同じ質問をして、その回答から、社員の心の変化をつかむわけです。
 また、月刊「致知」という雑誌からテーマ記事を決めて、感想を書いてもらい意見交換をするという研修会も毎月行っています。これによって仕事の付き合いだけでは見えない、人間性の側面が見えてきます。その人が日頃考えていることや人生観、仕事観、家庭での顔、趣味まで見えてくる。そうした取り組みを通して、一枚岩の組織を作り上げていきたいと思っています。

一人ひとりの人間力を高め、組織変革を目指す

―― 最後に、あんの会計の中長期ビジョンについてお伺いします。

安野 オックスフォード大学のオズボーン准教授の論文によると、会計事務所の仕事は、あと10年で消える確率が90%以上だそうです。おそらく5年後、会計事務所を取り巻く環境は劇変しているでしょう。私たちはそうした将来を見越し、3年以内に事務所の新たな付加価値を確立したいと考えています。
 そこで今後、あんの会計が注力しようと考えているのが商品力の強化です。基本的には月次決算と経営計画なのですが、試算表は過去の数字ですので、これをベースに将来をイメージし、お客様と未来を共有していく、そこまでもっていけるように工夫したいと思っています。
 将来をイメージできない経営者が多いようですが、それでは目先のことにとらわれて、将来に向けた種まきがおろそかになります。そこで私たちが、月次決算を通して種まきをサポートしていくのです。そして数字だけでなく、経営者の想いや方針を言語化して経営計画へと歩を進め、それを社内で共有していただく。
 また、健康診断で患者さんが一番聞きたいのは、診断結果に対する医師の見解です。そこにこそ付加価値がある。同様に、私たちも、いろいろな会社を見てきた専門家としての見解を数字に乗せることが付加価値につながるのだと思います。

―― そういった対応をすれば、自動化が進んでも、しばらくは会計事務所業務ももつでしょう。

安野 ただ、環境変化に対応するには、人間力を高めることも大事だと思います。社員一人ひとりが成長し、変化していくことが組織の変革につながるからです。そして変革の末、組織体が会計事務所でなくなるなら、それはそれでよいと私は思います。お客様から「お宅はイベント会社みたいだね」と言われたことがあります。うれしいほめ言葉です(笑)。

―― まさに脱皮、イノベーションですね。しかし、その根っこには「お客様に喜んでいただく」という目的がある。

安野 そうです。「たくさんの『ありがとう』を集めて日本の中小企業を元気」にできればよいのです。全てはそのための手段にすぎません。根っこは大事です。
 「良樹細根」。立派な木ほど細かく深く根を張るという意味です。見せ掛けだけ立派にしても、しっかり根を張っていなければ風に吹き飛ばされてしまう。私はあんの会計を、強風に倒されず、周辺の木も守れる、そのような会社にしていきたいのです。ここでいう「根」とは、人との縁だと私は思います。ですから、お客様であるなしにかかわらず、目の前の相手に誠意を尽くし、ご縁を大事にしたい。特に社員さんとの縁は。その「根」が今の自分を支えてくれているわけですから。

―― 時代の変化を捉え、自ら革新していく。その人生哲学に感銘を受けました。貴重なお話をありがとうございました。

導入事務所様のご紹介

安野 広明(あんの・ひろあき)

公認会計士・税理士。株式会社ビジネスプラン代表取締役社長。安野公認会計士・税理士事務所所長。 昭和54年生まれ。平成14年、朝日監査法人(現・有限責任あずさ監査法人)入社。平成18年、公認会計士登録。平成19年、新日本アーンストアンドヤング税理士法人入社(1年半の間、大手メガバンクに出向)。平成22年10月、株式会社ビジネスプランに入社。同12月、安野公認会計士・税理士事務所を開業。 HPにて1200日以上ブログを更新中。

株式会社ビジネスプラン/あんの会計

所在地 〒698-0041 島根県益田市高津一丁目1番1号
代表者 安野 広明
URL http://annokaikei.com/
  • 本事例の掲載内容は取材当時のものです。

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