第19回 新型コロナワクチン接種における労務管理

2021年8月4日

新型コロナウイルスのワクチン接種が急速に進む中で、企業としての対応はどのように進めれば良いのか、という問い合わせが多く寄せられています。厚生労働省のHPで公表されている「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)」にも「ワクチン接種に関する休暇や労働時間の取扱い」として言及されています。そこで今回の労務管理トピックスでは、企業として労務管理上の留意点について説明いたします。

ワクチン接種状況とワクチンパスポート

日本国内においても2021年4月から65歳以上の高齢者を対象にワクチン接種がスタートし、6月からは大規模接種センターを筆頭に、各自治体での接種、大手企業を中心とした職域接種も進んでいます。2021年7月16日現在、少なくとも1回以上接種した国民は4,174万人を超えています。(表1参照)

また政府は、今後の海外往来時の利用を目的とした「ワクチンパスポート(接種証明)」を2021年7月26日から発行する予定です。

<表1>国内のワクチン接種状況(日本経済新聞社「チャートで見る日本の接種状況コロナワクチン」より)

ワクチン休暇の導入

従業員が安心してワクチン接種ができるように、接種後の体調不良に対して気兼ねなく休める体制づくりが望ましいと、前述の厚生労働省のQ&Aでも言及されています。弊社の顧問先でも、「接種日、及びその翌日は特別休暇が取れるものとする」としているところが多いようです。もちろんそれを義務付けるものではありませんので、有給の休暇が難しければ、労働時間の中抜けや、出勤みなし等で、査定等に影響しない措置でも問題ありません。ワクチン接種を望まない者との公平性を保つためにも、特に制度を設けない会社もあります。いずれの方法にせよ、会社としての方針を早めに決めて従業員に周知することが大切です。

ワクチン接種後の副反応に対する労災適用

「職域接種により健康被害が生じた場合には、労災は適用されますか?」という質問があります。答えは「原則、労災の対象にはならない」です。職域接種であれ、ワクチン接種は自由意志に基づくものであり、業務として行われるものとは認められないからです。ただし、医療従事者や高齢者施設等の従事者のワクチン接種に伴う健康被害については、例外的に労災の対象となります。また今後は、海外での業務のため「ワクチンパスポート」を取得目的とした接種に伴う健康被害も、労災の対象となる可能性が高いといえます。

ワクチン接種の勧奨

ワクチン接種は感染防止策の大きな柱であることは間違いありませんが、健康上の問題からワクチン接種ができない従業員、また、副反応への不安等からワクチン接種に消極的な従業員も少なくありません。では会社としてワクチン接種に消極的な従業員に、接種を義務付けることは可能でしょうか? 答えは、原則として義務付けることはできません(例外は後述します)。

国民には原則としてワクチン接種を受ける努力義務の規定が適用(予防接種法9条)されており、会社として従業員にワクチン接種を勧奨することは問題ありませんが、従業員が拒否しているにもかかわらず過度に勧奨するのは避けた方が良いでしょう。

ワクチン接種しない従業員への対応

前述の通りワクチン接種は、勧奨されるものではありますが、本人の自由意思に基づいて接種すべきものです。ワクチン接種の勧奨に応じないことを理由とする解雇、減給、配置転換、異動等について、政府は、接種することを求めて応じないことを理由に不利益な取扱い、採用時に接種をしていることを条件とすること、もしくは面接で接種の有無を聞くこと等は適切でないとの見解を示しています。とはいえ、今後、ワクチンパスポートが必要な海外出張が一般化してくると、ワクチン接種を義務付けること、または接種を拒否する者への海外出張等の業務の制限に関しては、例外的に認められる可能性があります。その際には政府も前述の見解を変更するかもしれません。

いずれにしても今のところは、ワクチン接種拒否を理由とした解雇、懲戒処分は、解雇権乱用法理(労働契約法16条)や懲戒権乱用法理(同15条)としての客観的合理的な理由とはならず、社会的相当性を欠くとの判断が出る可能性が高いといえますので注意が必要です。

PCR検査の義務付け

ワクチン接種についての義務付けは原則できないと述べましたが、業務上、PCR検査が必要な場合、それを義務付けすることは可能なのでしょうか?

これに関しては、(1)業務上PCR検査が必要であり、(2)検査費用を会社が負担しており、(3)検査方法の相当性・妥当性があり、(4)検査結果により不利益取扱い禁止措置が取られている場合、義務付けは可能であると解されています。

まとめ

すでに一部で「ワクチン・ハラスメント」といえるような問題が発生しているといわれています。これは、今後ワクチン接種率が高まると、さらに発生する可能性が高いといえます。前述の通り、ワクチン接種はあくまでも個人の自由意思によるものであり、健康上の問題で接種ができない従業員がいることを忘れてはなりません。会社としてそれらの事情を踏まえた上で、適法かつ公平なルールを構築し、就業規則、またはそれに準ずるもので制度化することをお勧めいたします。

筆者紹介

加藤千博

MJS税経システム研究所 客員研究員
社会保険労務士法人加藤マネジメントオフィス 代表社員
社会保険労務士 加藤 千博
http://www.kmo-sr.jp/

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