経営者が見落としがちな“収支と損益”の違い~黒字倒産を防ぐ財務分析の第一歩

2025年11月13日

質問

ある業務用のスーパーが食堂に食材(商品)を販売しています。先月120万円で仕入れた商品のうちの半分を、今月100万円で販売しました。販売代金は販売月の翌月10日に回収、仕入代金は仕入月の翌月20日に支払う条件になっています。この取引に関して、今月の「収支」の金額はいくらになるでしょうか?

パターン1

今月の収支は120万円の赤字である。

パターン2

今月の収支は40万円(100万円-60万円)の黒字である。

パターン3

今月の収支は100万円の黒字である。

この質問をイメージして以下のストーリーをお読みください。

スーパー
分析

収支と損益って別物なの?

「収支」と聞いて「損益」のことだと勘違いしている人がいますが、収支と損益を混同してはいけません。「収支」と「損益」の違いをしっかりと理解する必要があります。

社長からの出題: 「収支」とは?

「スーパー・ミロク」の二代目社長である弥勒松太郎氏は、大学在学中の3人の息子のうち1人を将来の三代目社長にしようと考えています。自分の後継者を決めるにあたっては、経営センスを最も重要視する方針です。これまで、「粗利・売上総利益・経常利益・当期純利益の意味や計算方法」などについて社長から出題されましたが、今回は別の問題が出されました。


社長

今度は、『収益と費用(損益)』と『収入と支出(収支)』の違いについての問題だ

えぇっ? なんか複雑そうだなぁ


長男


社長

得意先のX食堂に食材を掛取引で納品しているが、代金は翌月に受取っているな。一方で、問屋から商品を仕入れた代金も翌月に買掛金を支払っている

なるほど、売掛金も買掛金も1か月後の支払いってことだね


次男


社長

で、その取引に関する問題だ

【松太郎社長からの出題】

先月120万円で仕入れた商品のうちの半分を、今月100万円で販売した。販売代金は販売月の翌月10日に回収、仕入代金は仕入月の翌月20日に支払う条件になっているとする。この取引に関して、今月の「収支」の金額はいくらになる?
(注)上記以外の取引はないものとしている。

収支って何のこと? 収益のこと? だったら今月の売上の100万円でいいの?


長男

いやー、収支って損益のことじゃない? とすると、今月の売上原価が60万円だから、「売上100万円-売上原価60万円」で40万円の黒字ってことかな?


次男

収支って、収益のことでも損益のことでもないんじゃない?


三男

質問

ある業務用のスーパーが食堂に食材(商品)を販売しています。先月120万円で仕入れた商品のうちの半分を、今月100万円で販売しました。販売代金は販売月の翌月10日に回収、仕入代金は仕入月の翌月20日に支払う条件になっています。この取引に関して、今月の「収支」の金額はいくらになるでしょうか?

▼あなたの思うパターンをクリック▼

パターン1

今月の収支は120万円の赤字である。

パターン2

今月の収支は40万円(100万円-60万円)の黒字である。

パターン3

今月の収支は100万円の黒字である。

先月の仕入代金120万円を今月支払ったため、今月の支出は120万円です。一方、今月の売上代金100万円は今月まだ回収していないため、今月の収入はゼロです。したがって、今月の収支は、「収入(ゼロ)-支出(120万円)」で、120万円の赤字です。

40万円は、今月の売上100万円から、その原価(売上原価)60万円を差し引いた金額であり、今月の利益です。今月の収支ではありません。

100万円は今月の売上の金額であって、収支の金額ではありません。

「収益」と「収入」の違い

「収益」と「収入」を混同している人もいますが、「収益」と「収入」は違います。売上は収益ですが、収入は実際にお金が入ってきた(入金となった)ことを言います。


社長

今月の収益(売上)は100万円だが、今回の取引では、「販売代金は販売月の翌月10日に回収」することになっているから、今月の収入(入金)はゼロだ。来月、実際に入金となった段階で収入が100万円となるんだ

【図表1】収益と収入の違い

先月 今月 来月
収益(売上) 100万円 100万円
収入(入金) 100万円 100万円

「費用」と「支出」の違い

「費用」と「支出」を混同している人もいますが、「費用」と「支出」は違います。売上原価は費用ですが、支出は実際にお金が出て行った(出金となった)ことを言います。


社長

今月の費用(売上原価)は60万円、つまり先月仕入れた商品120万円のうちの半分だが、今回の取引では、「仕入代金は仕入月の翌月20日に支払う」ことになっているから、先月の仕入代金120万円を、当月、実際に支払った段階で支出が120万円となるんだ

【図表2】費用と支出の違い

先月 今月 来月 計(※)
費用(売上原価) 60万円 60万円
支出(出金) 120万円 120万円

(※)費用と支出に60万円の差異があるが、先月仕入れた商品のうち、まだ売れていないものが60万円あるためである。

「収支」と「損益」を混同してはいけない! 「収支計算」と「損益計算」の違いとは?


社長

お前たち、『収入』と『収益』は意味が違うことと、『支出』と『費用』も意味が違うことは理解できたな

【図表1】と【図表2】から、損益の計算は【図表3】、収支の計算は【図表4】のとおりとなります。

【図表3】損益の計算

先月 今月 来月
収益(売上) 100万円 100万円
費用(売上原価) 60万円 60万円
損益 40万円 40万円

【図表4】収支の計算

先月 今月 来月
収入(入金) 100万円 100万円
支出(出金) 120万円 120万円
収支 △120万円 100万円 △20万円


社長

『収益』と『収入』は違うし、『費用』と『支出』も違ったな。だから、『収益』から『費用』を引いて計算する損益(利益または損失)と、『収入』から『支出』を引いて計算する収支では、計算の意味と目的が違うんだ

損益計算と収支計算では計算の意味と目的が違う


社長

月初めに持っているお金の金額に、今月の『収入』を足してそこから今月の『支出』を引けば、今月末に残るお金の金額が計算できる。いくら利益が出ていても、お金があるとは限らない。損益ばかりに気を取られていると大変なことになるんだ

なるほど。あ、そういえば、『収入』から『支出』を引いて収支がマイナスの場合に、持っているお金で支払おうとしても残高が足らなかったらどうなるんだろう


長男

お金の残高がマイナスになるわけではなくて、単純に支払ができなくなるんじゃないの?


三男


社長

そうだ。お金の残高には、『マイナス』ということはないから、どうしても支払う必要があるときにお金が足りなければ、外部から借りて工面してこなくてはならない

あ、借入だね


次男


社長

そうだ。お金が工面できなかったら、損益が黒字だったとしても倒産してしまう

それが黒字倒産だね!


三男


社長

そういうことだ。そんなことにならないためにも、『損益計算』ばかりに目を向けていてはダメで、経営においては『収支計算』にもしっかり目を向ける必要があるぞ

分かったよ!


一同

今回の試験によって、「損益計算」の意味と、「収支計算」の意味の違いを理解しました。松太郎社長は引続き「試験」を課すことにしました。

「収支計算と損益計算の違い」

ある期間に稼いだ売上高などの収益からその期間の費用を差引いた差額として、利益または損失を計算します。

損益計算で損失が出ても、企業がすぐに倒産するわけではありません。倒産というのは、貸借対照表上の負債の返済ができなくなることです。端的にいえば、借金が返せなくなった状況が倒産なのです。ということは、現金や預金の動きが問題になってきます。最も単純化すると、現金預金の動きについては、次のように計算します。


  期首現金預金残高+当期収入-当期支出=期末現金預金残高

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