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第67回 カスタマー・ハラスメントに対する企業の責任
2025年8月6日
カスタマー・ハラスメント(以下「カスハラ」)とは、顧客や取引先が従業員に対して、業務に関連して行う暴言、暴力、過度な要求などの「著しい迷惑行為」によって、その人格や尊厳を侵害し、就業環境を害する行為をいいます。こうした行為は、従業員の心身に深刻な影響を与えるのみならず、職場全体の雰囲気を悪化させ、企業の生産性の低下や離職率の上昇、ブランドイメージの毀損など、事業運営全体に甚大な影響を及ぼします。
東京都では本年(2025年)4月に「カスタマー・ハラスメント防止条例」を施行し、詳細なガイドラインが公表されました。この条例やガイドラインは、全国の企業にとっても、従業員保護および労務管理上の有力な参考指針となるものです。以下では、この指針を参考にしながら、企業が取るべき責任と実務対応について解説いたします。
カスハラの定義
カスハラは、いわゆる『顧客至上主義』の行き過ぎた結果として、長年にわたり現場に深刻なストレスと業務負担を与えてきました。顧客満足度を重視する一方で、従業員の人権や労働環境を守るという視点が軽視されてきた背景があります。東京都が条例を制定したことにより、これまで曖昧だった対応基準や社会的認識に一石を投じ、全国の企業に対し、カスハラを労務リスクとして正面から扱うよう警鐘を鳴らしています。
東京都の条例では、カスハラを『顧客等が就業者に対して行う著しい迷惑行為で、就業環境を害するもの』と定義しています。単なるクレーム対応とは異なり、要求内容が理不尽または過剰であり、言葉や態度に威圧や攻撃性が含まれるのが特徴です。
代表的なカスハラ行為には以下のようなものがあります。
- 正当性のない謝罪要求や長時間におよぶ執拗な叱責
- 人格を否定するような暴言や差別的発言
- 土下座の強要、机を叩くなどの威嚇行為
- 過度な返金や金銭的補償の要求
- SNS等で従業員を晒すような誹謗中傷行為

これらは、従業員の精神的健康を脅かし、場合によっては法的な違法行為に該当することもあります。
(図表1:取引関係のイメージ)


カスハラは業種を問わず発生する可能性があり、見た目には単なるクレームのように見える行為も、従業員が心理的な負荷を感じていれば、それは立派なハラスメントに該当します。また、最近ではSNSやレビューサイトなどオンライン上での『デジタル・カスハラ』も増えており、企業の評判を悪用する行為への対処も求められています。
(図表2:カスハラの定義)

企業(事業者)の責任
(1)主体的かつ積極的な取り組みの必要性
企業には、従業員を保護し、安心して働ける環境を整備する法的かつ倫理的責任があります。東京都の条例では、「事業者は主体的かつ積極的にカスハラの防止に取り組むこと」と定められており、この考え方は全国においても適用可能です。
具体的には、トップマネジメントがリーダーシップを発揮し、全社の方針として「カスハラを許さない」姿勢を明確に打ち出すとともに、被害の未然防止や発生時の迅速対応を制度化することが必要です。
(2)従業員の安全確保と被害拡大の防止
労働契約法第5条に基づき、企業は従業員の生命・身体の安全に配慮する義務を負っています。カスハラの被害が発生した場合は、即時に対応し、被害者を加害者から引き離す、専門部門が対応する、必要に応じて警察と連携するなど、被害の拡大を防ぐ措置を講じなければなりません。
(3)社内外における加害行為への対応
従業員が顧客として外部の取引先に対し不適切な要求や言動を行うこともあります。この場合、企業はその行為が自社の信頼性や取引関係に悪影響を及ぼす可能性を踏まえ、社内教育や規程整備を通じてカスハラ行為の防止と是正を図る責任があります。
企業(事業者)の実務対応
(1)社内体制の整備
-
相談窓口の設置
被害を受けた従業員が安心して相談できる体制を整備する。社外機関との連携も有効です。 -
対応マニュアルの策定
カスハラの定義、判断基準、対応フロー、記録保存方法などを記載した社内マニュアルを作成します。 -
対応記録の保存
事実確認、再発防止、法的対応に備えて記録を確実に残す体制を構築します。
(2)教育・研修の充実
-
カスハラの基礎理解
新入社員から管理職まで、カスハラの定義、類型、リスクを理解させる教育が必要です。 -
初動対応の習得
現場責任者には、顧客への対応技術、緊急時の対応等の研修を行います。 -
メンタルヘルス対応
被害者に対して必要な休養や産業医面談、カウンセリングの提供も重要です。
(3)顧客等への対応基準の明確化
カスハラの典型例として、土下座の強要、人格否定の暴言、長時間の拘束、SNS上での中傷などがあります。これらは刑法にも抵触する可能性があり、企業として毅然とした対応が求められます。
今後の展望
東京都の条例を皮切りに、他の自治体もカスハラ対策を検討する動きが広がっています(2025年7月現在、東京都、北海道、愛知県、三重県桑名市、群馬県、群馬県嬬恋村他)。さらに、国については、事業者に対してカスハラ対策の実施を義務づける「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律等の一部を改正する法律」が2025年6月4日に成立し、公布日から1年6月以内に施行されることになりました。
また、東京都は、マニュアル作成・録音装置・AI導入などの対策を講じた企業に対し、最大40万円の奨励金支給制度も整備しています。
カスハラは、単なる「クレーム」ではなく、明確な労働環境破壊行為であるという認識が必要です。企業が従業員の人権と安全を守る姿勢を示すことは、単なる防衛ではなく、社会的責任を果たす行動です。「お客様は神様」という考え方は過去のものとなり、今後は「お客様とも対等な関係を築く」社会の実現が求められています。企業が自社の方針と仕組みを明確にし、従業員の安心を守ることが、持続可能な経営への第一歩となります。
(図表は全て、東京都「カスタマー・ハラスメントの防止に関する指針(ガイドライン)」より引用)
筆者紹介

MJS税経システム研究所 客員研究員
社会保険労務士法人加藤マネジメントオフィス 代表社員
社会保険労務士 加藤 千博
http://www.kmo-sr.jp/
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