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第68回 改正育児・介護休業法の実務上のポイント
2025年9月3日
今回は、以前解説(第62回労務管理トピックス)させていただいた「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(以下、「育児・介護休業法」という)」の改正(2025年10月1日に施行される内容)について、実際にどのように対応すれば良いのか、推奨される業種別の選択例も交えて解説いたします。
1.企業に何が義務化されるのか
2025年10月1日以降、3歳以上から小学校就学前の子を養育する労働者に対して、企業は柔軟な働き方を可能にする制度を少なくとも2種類以上整備する義務を負います。労働者はその中から自分に合った1つを選択して利用できる仕組みとなります。
- 始業時刻等の変更(フレックスタイム制/時差出勤制度)
- テレワーク(月10日以上、原則「時間単位」での利用可)
- 保育施設の設置・運営等(外部枠の確保や費用補助も含む)
- 養育両立支援休暇等(年10日以上、原則時間単位)
- 短時間勤務制度

制度を決定する際には、過半数労組や過半数代表者への意見聴取が義務付けられています。単に制度を設けるだけでは不十分で、実際に利用できる運用を設計することが求められます。
2.制度ごとのポイントと推奨される業種別選択例
(制度ごとのポイント)
-
始業時刻等の変更
始業・終業の時刻を柔軟に調整できる制度です。例えば、1〜2時間の範囲で始業を前倒し・後ろ倒しできる時差出勤や、フレックスタイム制を導入する方法があります。
注意点は、交替勤務として早番・遅番があるだけでは不十分で、労働者の希望に応じて早番固定を認めるなど、本人事情に配慮した仕組みにする必要がある点です。申出期限や繁忙期の対応方法をあらかじめ定めておくと運用がスムーズです。 -
テレワーク
在宅勤務などのテレワークを、月10日以上利用できるように整備する必要があります。ただし、毎月厳密に10日以上ではなく、例えば3か月で30日以上というように平均して月10日以上とする運用も可能です。
テレワークを時間単位で利用し、その積み上げを日数に換算する仕組みを就業規則に明記しておくと安心です。利用場所は自宅を基本としつつ、会社が認めたサテライトオフィスを含めることもできます。 -
保育施設の設置・運営等
企業が自ら保育施設を設けることは難しい場合が多いですが、外部保育施設の枠を確保したり、利用費用を補助することも認められています。自社の実情や従業員のニーズに応じて、どの程度の支援を行うかを決め、労使で協議して合意しておくことが必要です。 -
養育両立支援休暇等
育児と仕事を両立するための新しい休暇制度です。1年間に10日以上、時間単位で取得できるように整備します。取得理由は幅広く認められ、保育園や幼稚園の行事、送迎、進学準備、急な呼び出しなどが含まれます。
賃金については法律上有給とする義務はなく、無給でも構いません。ただし、会社の裁量で有給とすることも可能です。最小取得単位(30分や1時間)や起算方法(年度開始、入社月など)を明確に規定する必要があります。 -
短時間勤務制度
小学校就学前の子を育てる従業員に対し、1日6時間や7時間勤務など、柔軟な働き方を提供できます。給与や賞与の按分、評価基準との整合をしっかりと取り、現場で利用しやすい制度設計が必要です。
(推奨される業種別選択例)
- A:オフィスワーク中心(IT・金融・コンサル等)
-
推奨組み合わせ:①始業時刻等の変更+②テレワーク
在宅勤務やサテライト勤務が技術的に可能であり、かつ保育園送迎や夕方の対応に合わせた 時差出勤も現実的です。PC業務が中心であれば、テレワーク月10日は無理なく達成可能です。
- B:小売・サービス業(店舗スタッフ、接客)
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推奨組み合わせ:①始業時刻等の変更 + ④養育両立支援休暇等
店舗シフトはリモート不可なので、出退勤の調整(早番・遅番固定)で対応します。行事参加や子どもの急病対応のため、短時間の休暇を取れる仕組み(養育両立支援休暇)が有効です。テレワークや短時間勤務は難しいケースが多いです。
- C:製造業(工場ライン)
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推奨組み合わせ:①始業時刻等の変更 + ⑤短時間勤務制度
ライン稼働のためテレワークは困難です。ただし交替勤務のシフトを柔軟に調整する仕組み(始業・終業の調整)や、日によって6時間勤務などを選べる制度が現実的です。養育両立支援休暇も候補となりますが、生産性維持を考えるとまずは「シフト調整+短時間」で対応するのが現実的でしょう。
- D: 医療・介護(病院・介護施設)
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推奨組み合わせ:⑤短時間勤務制度 + ④養育両立支援休暇等
患者・利用者対応があるためテレワークは困難です。シフト制で、フルタイム勤務が難しい従業員に短時間勤務を認めることで人材確保につながります。また、子どもの急な体調不良や呼び出しの対応に活用できる「養育両立支援休暇」も有効です。
- E:運輸・物流
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推奨組み合わせ:①始業時刻等の変更 + ④養育両立支援休暇等
ドライバーや倉庫作業はテレワーク不可となります。始業・終業時刻をある程度柔軟にし、突発的な休暇取得を可能にすることで現実的な対応が可能となります。
- F: 公共機関・教育機関
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推奨組み合わせ:④養育両立支援休暇等 + ⑤短時間勤務制度
保育・教育・公務はテレワークや時差出勤が制限される場合が多いので、子どもの行事や急な体調不良対応のための養育両立支援休暇と、フルタイムが難しい時期の短時間勤務を組み合わせるのが実務的です。
3.個別の周知・意向確認
3歳未満の子を養育する従業員に対しては、子が3歳になる前の1年間に、会社が選んだ措置の内容や申出先、所定外労働の制限制度について個別に周知し、利用意向を確認することが義務付けられています。周知方法は面談、書面、電子メールなどが認められていますが、本人が希望しない限りFAXや電子メールでの周知を強制することはできません。従業員が安心して回答できる環境を整えることが求められます。
4.過半数労組・過半数代表の意見聴取
制度導入時には必ず過半数労組または過半数代表の意見を聴取する必要があります。意見を形式的に聞くだけでなく、実際に使える制度かどうかを確認するための建設的な議論が求められます。例えば、テレワークが難しい製造現場では、時差出勤や短時間勤務を中心に設計するなど、職場の実情に即した制度の組み合わせが必要です。
5.まとめ
改正育児・介護休業法では、企業に対し「実際に使える柔軟な働き方」を整備することが求められています。単に制度を置くだけではなく、労働者が安心して利用できる仕組みや周知の方法、そして就業規則への明文化が不可欠です。
この改正は、単なる法的義務にとどまらず、企業の働き方改革や人材確保・定着の観点からも重要な取り組みです。制度を形だけで終わらせず、従業員が「利用しやすい」と感じる実効性のある運用設計を進めることが、企業の競争力向上にもつながります。


筆者紹介

MJS税経システム研究所 客員研究員
社会保険労務士法人加藤マネジメントオフィス 代表社員
社会保険労務士 加藤 千博
http://www.kmo-sr.jp/
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