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第81回 カスハラ対策の実務対応
2026年10月7日
前回は、2026年10月1日から義務化されたカスタマーハラスメント防止措置について、カスハラの定義や企業に求められる対応の概要を解説しました。
今回は、義務化後に企業が実際にどのような体制を整え、カスハラが発生した場合にどのように対応すればよいのか、実務上のポイントを解説します。
社内ルールと対応体制を整える
まず必要なのは、前回も触れたとおり、会社として「カスタマーハラスメントには毅然と対応し、従業員を守る」という基本方針を明確にすることです。そのうえで、現場で判断に迷わないよう、少なくとも次のような事項を具体的に定めておくことが求められます。
- どのような言動をカスハラと判断するのか
- どの段階で上司や責任者へ対応を引き継ぐのか
- 対応を終了する基準は何か
- 警察等へ通報するのはどのような場合か
厚生労働省の資料でも、管理監督者へ対応方針の指示を仰ぐこと、可能な限り労働者を一人で対応させないこと、犯罪に該当する可能性がある言動については警察へ通報すること、本社・本部等へ情報共有することなどが示されています。
こうした方針を現場で機能させるためには、対応マニュアルを整備しておくことが有効です。例えば、同じ要求や暴言が3回以上繰り返されたら責任者に交代する、長時間の居座りには退去を求める(対応が30分を超えたら終了を告げる)、暴力や脅迫があれば警察への通報を検討するといったように、行為の程度に応じた対応方法を、企業の実情に応じてあらかじめ定めておきます。
重要なのは、現場の従業員に「どこまで我慢すればよいのか」を判断させないことです。会社として対応基準を明確にし、従業員が安心して上司へ報告・相談できる仕組みを整える必要があります。
施行後は、こうしたルールが現場で実際に機能しているかを確認し、足りない点を補っていくことも欠かせません。例えば、責任者が不在の場合の代替者や、緊急時の連絡先、複数の部署をまたぐ事案の情報共有先まで具体化しておけば、現場の迷いを減らすことができます。
発生時の記録と被害を受けた従業員への対応
実際にカスハラが発生した場合には、事実関係を迅速かつ正確に確認しなければなりません。前回、記録の重要性に触れましたが、実務上は、発生日時、場所、具体的な発言や要求内容、対応した従業員、対応時間、会社として行った措置などを記録しておきましょう。
電話対応が多い企業では通話録音を活用したり、メールやSNSでのやり取りを保存したりすることも有効です。客観的な記録があれば、カスハラに該当するかどうかを判断しやすくなるだけでなく、警察や弁護士等へ相談する場合や、同じ顧客から再び同様の行為が行われた場合にも役立ちます。
また、被害を受けた従業員へのフォローも忘れてはなりません。必要に応じて、一時的に顧客対応から外す、上司や人事担当者が面談を行う、勤務や担当業務を調整するなど、心身の負担を軽減するための配慮を行う必要があります。あわせて、相談者のプライバシーを保護するとともに、相談したことを理由として人事評価や配置等で不利益な取扱いを受けることがないよう、社内に明確に周知しておくことも必要です。
さらに、一度発生した事案については、その場の対応だけで終わらせず、なぜその問題が発生したのか、会社としての対応に改善すべき点がなかったかを確認し、必要に応じてマニュアルや社内ルールを見直すことが再発防止につながります。
相談・対応の記録を蓄積し、同様の行為が繰り返されていないか、特定の部署にトラブルが集中していないかを定期的に振り返ることも有効です。こうした検証を、対応基準や業務運用の改善につなげていくことが重要です。
研修と「加害者にならない」ための対応
カスハラ対策を実効性のあるものにするためには、方針やマニュアルを作成するだけでなく、従業員への研修が欠かせません。
研修では、会社として定めた基本方針に加え、前述の対応基準を、実際の事例を交えて具体的に説明する必要があります。特に、正当な苦情とカスハラの見分け方は現場で迷いやすい点です。
また、障害のある顧客が合理的配慮を求めること自体はカスハラに当たらないことも、あわせて伝えておきましょう。特に管理職については、部下から相談を受けた際に、「お客様だから仕方がない」と片づけるのではなく、必要に応じて自ら対応を引き継ぎ、従業員を守る役割があることを理解しておかなければなりません。
厚生労働省は、カスハラ発生後の対応だけでなく、従業員が自社の 商品やサービスへの理解を深め、顧客対応力を向上させるための研修 等を行うことも望ましい取組として示しています。
また、実際の運用状況を把握し、従業員や労働組合等の意見も踏ま えながら、必要な見直しを行うことが求められています。
研修も一度で終わらせず、実際に発生した事例や判断に迷ったケースを題材にして、定期的に内容を見直すことが実効性の向上につながります。
もう一つ見落とされがちなのが、自社の従業員が他社の従業員に対してカスハラを行わないようにすることです。事業主や労働者には、他の事業主が雇用する労働者に対する言動にも注意を払うことが求められています。取引先に対して過度な要求を行ったり、担当者を長時間拘束したり、威圧的な言動を繰り返したりすれば、自社がカスハラの加害者側となる可能性があります。
また、他社から自社の従業員によるカスハラについて事実確認等への協力を求められた場合には、これに応じるよう努めることとされています。事実が確認された場合には、就業規則等に基づき、行為者に対して必要な措置を講じることも望ましいとされています。
カスハラ対策では、実際に問題が起きたときに、誰が、どの段階で、どのように対応するのかを明確にし、その内容を従業員全体で共有しておくことが重要です。また、整備したマニュアルや相談体制、従業員研修が現場で機能しているかを継続的に確認し、発生した事案や対応上の課題を踏まえて、必要に応じてルールや運用方法を見直していく必要があります。
こうした運用と見直しを継続することで、従業員が安心して相談でき、会社として迅速かつ適切に対応できる、実効性のあるカスハラ対策につながります。
筆者紹介
MJS税経システム研究所 客員研究員
社会保険労務士法人加藤マネジメントオフィス 代表社員
社会保険労務士 加藤 千博
http://www.kmo-sr.jp/
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