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IT・システム編

会計ソフト・電子申告・セキュリティの選び方

税理士開業道場は、税理士として独立・開業するために準備しておきたいポイントを、6つのテーマに分けて解説する連載企画です。
顧客獲得、業務フロー、システム選定、制度対応、費用・登録手続きについて順を追って解説し、最終回で開業準備の全体像をまとめます。
第三回となる今回のテーマは「IT・システム編」です。会計ソフト、電子申告環境、セキュリティ対策をどう選び、どう整えていくかを確認していきましょう!

この記事のポイント

  • 「前職で使っていたから」、「安いから」という理由での会計ソフトの決め方は、開業後につまずく原因になりやすいので要注意
  • 会計ソフトは「制度対応の速さ」、「導入支援」、「サポート体制」、「データ連携」、「拡張性」の5つで比較する
  • 代理送信・電子申告環境の整備、セキュリティ対策は、会計ソフトとセットで整えておく

会計ソフトやITシステムの選定は、開業準備の中で後回しにされがちです。

前職で使っていたソフトをそのまま契約したり価格の安さだけで決めたりした結果、開業してから、「顧問先のやり方に合わない」、「電子申告に手間取る」といった問題に直面する税理士も少なくありません。

数あるシステムの中から自分の事務所に合うものをどう見極めるか、電子申告環境やセキュリティはどこまで準備しておけばよいか、順番に整理していきます。

「前職で使っていたから」、「安いから」で選ぶと起きること

会計ソフト選びで判断材料になりやすいのが、「使い慣れているかどうか」と「価格」です。どちらも軽視できる要素ではありませんが、それだけで決めてしまうと後で困るケースが目立ちます。

前職で使っていたからという理由で選ぶと…

前職の事務所で使っていたソフトには、操作に慣れているという安心感があります。ただ、そのソフトは前職の規模や業務のやり方(記帳代行中心か、自計化支援中心か)に合わせて選ばれていることが多く、開業したての事務所では不要な機能が多く含まれていたり、逆に必要な機能が抜けていたりすることがあります。

また、開業前は所属する事務所で契約していたライセンス費用や保守費用を、開業後は自分ひとりで負担することになるため、意外とコストが高くなる点も見落とされがちです。

価格だけで決めると…

価格の安さを優先すること自体は間違いではありません。ただし、価格が極端に安いシステムは、「法改正への対応が遅い」、「顧問先との連携機能が乏しい」といった弱点が含まれる可能性があります。

その結果、数年後に会計システムを乗り換えることになり、データ移行や操作の覚え直しでかえって時間もコストもかかってしまったというケースも少なくありません。

選び方でよくある失敗例

  • 前職と同じソフトを深く検討せず契約し、1人事務所には機能が合わなかった
  • 開業する予定の業務モデル(記帳代行/自計化支援)を考えずに選び、機能を持て余した、または不足した
  • 価格だけで選び、税制改正対応やインボイス対応が後手に回った
  • 無料期間の使用感だけで決め、本格運用後にサポート不足を感じた

こうした失敗を避けるには、価格や慣れ以外の判断軸を持っておくことが大切です。

会計ソフト選びで見るべき5つの軸

会計ソフトは種類も機能も幅広く、何を基準に比較すればよいか迷いやすいものです。ここでは5つの軸に分けて整理します。

前回触れた「記帳代行モデル」、「自計化支援モデル」のどちらを中心に事務所を運営するかによって、優先すべき軸の重みも変わってくるため、自分の業務モデルと照らし合わせながら確認してみてください。

確認したいポイント
① 制度対応の速さ 税制改正・インボイス制度・電子帳簿保存法など法改正への対応スピード、アップデートの頻度
② 導入支援 初期設定・データ移行・操作方法に関するサポートの有無、開業直後におけるベンダーの伴走支援の有無
③ サポート体制 電話やチャットでのサポートの対応時間、税務知識のあるスタッフによる対応の有無、実地でのサポートの有無
④ データ連携 銀行明細やクレジット利用明細の自動取得機能の有無、証憑管理や給与システムとの連携機能の有無、顧問先入力データのクラウド連携の可否
⑤ 拡張性 顧問先数の増加・事務所の作業場所が複数となった場合の対応、他の会計システムとの相互利用・インポート機能の有無

軸-①制度対応の速さ

法人税・インボイス・電子帳簿保存法など、細かな改正は毎年続いています。開業税理士であっても、法改正のたびにその内容をすべて自分で調べて対応するのは現実的ではなく、会計ソフトによる制度対応に頼る場面も多くあります。そのため、ベンダー側の制度対応スピードは、会計ソフトを選ぶうえでも重要な比較材料になります。

軸-②導入支援

開業直後は、ソフトの操作に慣れる時間を十分に確保できないこともあります。初期設定やデータ移行を支援してくれるかどうかは、1人で開業する税理士には重要な評価指標となります。

軸-③サポート体制

トラブル時に電話やチャットですぐ相談できる窓口があるかを見ておくと安心です。税務の知識を持ったスタッフが対応してくれるか、オンラインだけでなく実際に事務所まで来て対応してくれるかどうかも、実務上は大きな差になります。

軸-④データ連携

記帳代行モデルなら、銀行明細やクレジット明細を自動で取り込めるかどうかで作業量が変わります。自計化支援モデルなら、顧問先とクラウドを通じてリアルタイムでデータを共有できるかがポイントです。給与計算システムや証憑管理サービスとの連携可否も、実務全体の効率に関わってきます。

軸-⑤拡張性

開業当初は顧問先数が少なくても、事務所が育っていく前提で拡張性についても考えておきましょう。契約プランの上限、複数事業所・複数担当者での利用への対応、他の会計ソフトからデータを取り込めるかなども、長期的には重要なポイントです。

電子申告環境とセキュリティも、会計ソフトと併せて整える

会計ソフトの選定と並行して準備しておきたいのが、電子申告環境とセキュリティ対策です。どちらも開業直後から必要になるものなので、後回しにせず一緒に進めておきましょう。

代理送信を行うための手続きをしましょう

顧問契約を結ぶと、顧問先の申告書を税理士が代理送信する場面が出てきます。開業税理士が代理送信を行う場合、おおまかな流れは次の通りです。

税理士が代理送信を行う場合の流れ

  • 税理士自身のe-Tax開始届を提出し、利用者識別番号を取得する(オンライン提出なら即時発行ではあるが、税務代理が使えるようになるのは「税務代理利用可能の通知」が届いた後なので、余裕を持って手続きしておく)
  • e-Taxソフトに税理士用電子証明書を登録する
  • 顧問先の利用者識別番号を確認する(取得済みなら本人から入手、未取得なら本人の事前承認を得て代理で開始届を提出する)
  • 顧問先との間で「利用者識別番号の利用に関する同意書」を取り交わしておく
  • 対応するシステムで申告書などのデータを作成する
  • 税理士の電子署名を付けて送信する(顧問先の電子署名は原則不要)

ここで気をつけたいのは、送信前に必ず申告内容を顧問先に確認してもらうことです。顧問先の電子署名を省略する場合、書面やメールで同意を得た記録を残しておくと安心です。ダイレクト納付を代理する場合も同様に、事前に同意書や納付内容の報告書を交わしておくと、知らないうちに税金が引き落とされたといった行き違いを防げます。

利用者識別番号の取得や電子証明書の準備には時間がかかることもあるため、開業前からできることは進めておくと安心です。

電子申告の利用環境を整えましょう

国税の電子申告にはe-Tax、地方税の電子申告にはeLTAXの利用環境が必要です。会計ソフトによっては、税務申告書を作成すれば、電子申告データの作成から送信までを一体的にサポートしてくれるものもあります。

会計ソフトに搭載されている電子申告機能がどこまでカバーされているかも、ソフト選定の段階で確認しておきたいポイントです。

電子申告環境の準備リスト

  • e-Taxの利用者識別番号の取得
  • eLTAXの利用者IDの取得や、PCdeskなどの利用環境の整備
  • 税理士用電子証明書の取得・登録
  • 会計ソフトと電子申告機能の連携の確認
  • 代理送信に必要な委任状、各種設定などの確認

セキュリティ・バックアップを備えましょう

顧問先の会計データや個人情報を扱う以上、セキュリティは避けて通れないテーマです。事業会社で勤務していた場合や、所属税理士であった場合はIT部門に頼れたかもしれませんが、税理士として開業後は自分自身でセキュリティ対策やデータ管理も実施しなければなりません。

セキュリティソフトの導入、データの定期バックアップ(クラウドとローカルの二重化が理想)、パスワード管理、可能であれば多要素認証の設定は最低限そろえておきたいところです。パソコンの故障やランサムウェア被害があっても、バックアップがあれば業務への影響は最小限に抑えられます。

このあたりも、会計データの保管とセキュリティ対策を併せて提供しているベンダーを選んでおくと、事務所側で個別にサービスを契約して管理する手間を減らせます。会計・セキュリティ・バックアップを別々に管理するより、任せられるところは任せてしまうという発想も、1人事務所や少人数の事務所には向いています。

会計・ITシステム選びは
「業務モデル」と「制度対応」の両輪で考える

開業税理士にとって、会計・ITシステム選びは以下の点での検討が必要です。

  • 「前職で使っていたから」、「安いから」だけで選ばず、5つの軸で比較する
  • 自分の業務モデル(記帳代行/自計化支援)に合うシステムを見極める
  • 税理士の代理送信・電子申告の利用環境は、開業前から準備を始める
  • セキュリティ対策とバックアップ体制をそろえておく

会計ソフトやITシステムは、一度決めると簡単には変更しにくいものです。目先の使いやすさや価格だけでなく、制度対応の速さやサポート体制、将来の拡張性まで見たうえで選ぶことが、長く安心して事務所を続けていくための土台になります。まずは自分の業務モデルを振り返りながら、気になるベンダーの資料を2〜3社分取り寄せて比較してみるといいでしょう。

次回は【制度対応編】「電子帳簿保存法・インボイス・電子申告の実務への影響」をお届けします。
電子帳簿保存法・インボイス制度・電子申告は、対応次第で事務所の業務負担も顧問先への影響も大きく変わります。「自事務所への影響」と「顧問先支援」の2つの観点から制度対応を整理する考え方などを中心に解説します。お楽しみに!

第四回【制度対応編】は2026年9月公開予定!

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