導入事例

関内会計 岩崎智彦税理士事務所 

2020年3月26日

関内会計 岩崎智彦税理士事務所 様

関内会計 岩崎智彦税理士事務所(神奈川県横浜市)は、開業8年で職員12名、顧問先200件の中堅会計事務所である。代表税理士の岩崎智彦氏(写真)は、当たり前のことを地道に続けることで事務所を成長させてきた。その独特の取り組みのひとつが、所内に職員数と顧問先数が10倍規模の組織図が張られ、図と同じく3つの課が設けられていることだ。こうした明確な目標設定がスタッフのモチベーションを高め、事務所の成長を支えている。岩崎氏は、この目標を達成することで、社員のため、お客様のため、社会のための会計事務所が実現すると言う。岩崎氏に、独自の経営哲学や職員育成手法などについて伺った。(写真撮影:市川法子)

経営者の気持ちを理解するため独立開業

―― 神奈川県横浜市の関内会計 岩崎智彦税理士事務所は、認定経営革新等支援機関であり、経営者の相談役として中小企業支援に取り組んでいます。本日は、代表税理士の岩崎智彦先生に、事務所の経営戦略や理念についてお話を伺います。
まずは、事務所の概要から紹介していただけますか。

岩崎 当事務所は、この関内地区で開業して8年になります。職員数は私を含めて12名、顧問先ゼロからスタートし、現在は法人、個人合わせて200弱です。

―― 岩崎先生が税理士を目指された理由を教えてください。

岩崎 よくある話だと思いますが、大学時代、安定志向の人生に対して疑問を抱いたことがきっかけです。ただ漠然と、「大企業のサラリーマンでは面白くない。とにかく社長になろう」と思っていました。
そのようななか、税理士事務所では若手職員も仕事で中小企業の社長に会えるという話を耳にし、これだとひらめきました。社長を目指すなら、まず現役の社長の話を聞くべきだと思ったのです。それがこの世界に入った理由です。

―― 社長という漠然とした目標から、会計事務所の所長という具体的な目標に切り替えたのですか。

岩崎 いえ。入所した時点では、税理士になるつもりはありませんでした。ところが、日々の業務が多忙を極め、社長という目標をしばらく脇に置かざるを得ませんでした。
気付くと30歳を過ぎ、仕事に対する自信がついただけでなく、「自分ならもっとできる」という自負も生まれました。そこで、税理士として独立する決意を固めたのです。
それからは、日々の業務をこなしながら寸暇を惜しんで勉強を続け、4年で資格を取りました。

―― 「自分ならもっとできる」という自負は、どのようにして生まれたのでしょうか。

岩崎 税務会計の実務経験を10年以上積み、さまざまな業種や規模の会社の社長から経営に関する相談を受けてきたので、それなりに知見も蓄積され、ある程度のアドバイスはできるようになっていました。
ただ、一担当者の立場では、経営者の本当の苦悩を理解できていませんでした。事務所の経営には関わりませんし、資金繰りなども考えたことはありません。ならば、自らが経営者になってお客様と同じ土俵に立てば、もっとよい仕事ができるはずだと思いました。

―― 顧問先企業の経営者と対等に付き合うには、自分も経営者にならなければならないと考えたのですね。

岩崎 そうしなければ、お客様の気持ちを本当に理解することはできないと思いました。経営理念を掲げる会社は多いと思いますが、いずれも突き詰めれば「社員のため、お客様のため、社会のため」の3つに要約されます。
そのうえで、経営者の仕事とは何かを一言で表せば、「お金を払うこと」だと思います。どんな大企業の社長も、会社を設立して事業を起こし、得られた収入から人件費や光熱費、家賃などの経費を払っていくところからスタートしています。
そして、経営者になった以上、給料を払う側にならなければならないし、雇用を増やさなければならないと思っています。社員や取引先が増えれば、それに応じて入るお金も増えますが、そのぶん払うお金も増えていきます。それが経営です。

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徹底したOJTで優秀なスタッフを育成

―― 8年で12名規模というのはかなり成長が速いと思いますが、どのような戦略をお持ちだったのでしょうか。

岩崎 よく聞かれる質問ですが、ネット広告を打ったり、M&Aを仕掛けたりといった特別なことは何もしていません。
税理士事務所としての基本的な仕事、例えば挨拶をする、試算表をきちんと作る、お客様に数字の間違いを指摘する、資金繰りなどの相談には真摯に対応するといったことを、当たり前にやり続けてきただけです。
私は、当たり前のことを当たり前にやり続けるのが大事だと思っています。例えば、お客様からの電話には、折り返しは不要と言われても、必ず折り返しの電話を入れます。それが人として当然の礼儀だと思っているからです。

―― 確かに商売の基本といえますが、どうやって職員に当たり前のように実践させているのですか。

岩崎 会計事務所に限りませんが、後進の指導・育成は極めて重要です。中小企業は社員5人を超えると、社長ひとりでコントロールするのが難しくなります。20人規模になると、文鎮型のワンマン経営では組織をうまく回せないでしょう。どうしても、右腕として支えてくれる幹部社員が必要になります。
当事務所には税務署OBがひとりいますが、それ以外はあえて業界未経験者を採用しています。経験者や有資格者は、前の職場の色に染まっていたり、自尊心が強かったりして育てにくいからです。私が未経験者を一から教えたほうが、仕事ができてお客様対応力も高いスタッフに育ちます。

―― 具体的には、どのようにスタッフを育成されているのでしょうか。

岩崎 ひとつは、月初めに開いている勉強会です。私自身の経験などを含めて講義する座学形式といえます。
しかし、育成で重きを置いているのはOJTです。積極的に担当を持たせて、月次監査にはできるだけ私も同行してOJTを行います。試算表は便利な会計ソフトが作ってくれるので、私が主に見るのは訪問先での立ち居振る舞いです。
確認事項に漏れはないか、質問の仕方は適切か、お客様との間に齟齬はないか、社員さんや社長の奥様に対する振る舞い方はどうかといったことをチェックします。
例えば、10時にお約束したら10時きっかりに伺うのが当事務所のルールです。遅刻は論外ですから少し早めに行き、会社の前で定刻まで待って門をたたいたり、1分でも遅れそうなときに一本電話を入れたりするのは、まさに「当たり前のこと」であり、お客様の信頼を得るための第一歩だと思います。
誰でも2~3年経つと、慣れで仕事をするようになってきますから、時間厳守ひとつとっても、その兆候が見えたらすぐに指摘します。口うるさいと思われようが、その都度しつこく指導します。

―― まさにOJTですね。
では、幹部社員の育成についてはいかがでしょうか。

岩崎 当事務所では、100名の組織図を作成して所内の壁に張っています。この組織図のとおりに3つの課を設け、それぞれに課長を置いています。
現在の職員数は12名ですから、課長ひとりに2~3人の部下がつき、私から課長に与えた指示は、課長から課員に伝達しています。これは、部下に正確な指示を与え、その指示に従ってもらう難しさを体験してもらいたいからです。
実際に、関与先の社長も日々同じことをしています。顧問税理士事務所の担当者が、経費などの確認をお願いすれば、たいていは忙しくてもきちんと応えてくれます。しかし、担当者はそれを当たり前と思ってはいけません。それがいかに大変なことかを身をもって体験したうえで、社長さんと接してもらいたいのです。
お客様だからといって、こびへつらう必要はありません。仕事では常に対等であるべきだと思います。しかし、社長の双肩にかかった責任や苦労を理解したうえで、敬意を持って接し、自分を過信しないようにしなければなりません。そのようなことを、機会があるたびにスタッフに話し続けています。

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会社の規模やレベルに応じた会計・自計化ソフトを提案

―― OJTに関するお話のところで、便利な会計ソフトをお使いとのことでしたが、どのベンダーの製品か教えていただけますか。

岩崎 当事務所のシステムは、ミロク情報サービス(以下、MJS)さんの製品を使用しています。以前勤めていた事務所でMJSさんのシステムを使っていたので、独立後も同じシステムを導入しました。
導入時のサポートも手厚く、大変助かりました。

―― 現在、どのようなソフトをお使いですか。

岩崎 中小・小規模企業向けの主軸システムは「ACELINK NX-CE 会計」になります。会社の規模やレベルに応じて「かんたんクラウド」など、提案するソフトを変えています。また、自計化推進には、「かんたんクラウド」はもちろんのこと、「iCompassNX会計」や「MJSLINK NX-Plus財務大将」なども展開しています。

―― 顧問先の自計化率はどのくらいですか。

岩崎 正確には把握していませんが、約半分です。数字が抑えめなのは、先ほど申し上げたようにあえて未経験者を採用し、最初の2~3年は入力から申告書作成までの一連の作業を経験させているためです。その気になれば、自計化率はもっと上げられると思います。

―― それもスタッフ育成の一環でしょうか。

岩崎 はい。全ての業務を体験したうえで、自計化のサポートに移行してもらいたいからです。自分がやったこともないのに、お客様に「自計化しませんか」と提案しても説得力がありませんし、何より自分の成長のためにも、資料の収集や入力作業などの業務を経験したほうがよいと思います。

―― 記帳代行のニーズは減っていても、なくなりはしないでしょうから、入力業務も覚えておくほうがいいですね。

岩崎 入力作業を嫌がる若い人もいますが、私はいつもスタッフに「お客様から何か頼まれたら返事は『イエス』だ」と言っています。
当事務所で対応できない相談だったり、分からない質問を受けたりしたときでも、「できません」「分かりません」ではなく、外部の専門家を紹介するなど、何らかのアドバイスをするよう指導しています。
ですから、入力を頼まれたら当然「イエス」です。ただ、長い目で見れば自分で入力してもらうほうがお客様のためになりますから、そう進言するようにとも言っています。
将来、数十億円規模の会社にまで成長すれば、必ず自社会計は必要になります。MJSさんは製品ラインアップが豊富なので、「かんたんクラウド」から始まって、成長に合わせてソフトのグレードを上げていくことができて、とても便利です。

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信頼の連鎖で顧問先を拡大

―― 開業時は顧問先ゼロとのお話でしたが、どのように増やしていかれたのですか。

岩崎 開業から1年間は悲惨な状況でした。2カ月間電話ひとつ鳴らず、売上がないまま1年が経ってしまいました。
とはいえ悲壮感はなく、MJSさんにお願いしてホームページの作成に取り掛かりました。
また、異業種交流会などに参加して、せっせと名刺を配りました。そこで知り合った方からのご紹介で、お客様が少しずつ増えていきました。当時、オフィスを借りていたビルの喫煙所で知り合い、お客様になってくれた方も4人ほどいます。

―― 人脈づくりから紹介という流れが基本だったのですね。

岩崎 はい。私は、お客様の相関図を作っています。それを見ると、どこで知り合った方か、誰からご紹介いただいた方かが分かります。
例えば、青年会議所から派生したお客様か、以前入居していたビル、あるいはタウンページから派生したお客様か、MJSさんからご紹介いただいたお客様から派生した方かといったことが、相関図を見れば一目瞭然です。

―― 顧問先の相関図というアイデアは面白いですね。紹介の連鎖で顧問先が増えたのは、信用を積み重ねてきた結果にほかなりません。

岩崎 お客様の会社に、当事務所のチラシを置かせていただくなど、紹介の輪を広げる工夫もしています。
また、担当する会社を一生懸命支えてくれる職員にも助けられています。そのお客様から担当者が気に入られているからこそ、新たなお客様を紹介してくださるわけですから、人間関係は大事です。
挨拶をする、約束を守る、きちんと対応するといった当たり前のことが、良好な関係を築くための第一歩になると思います。
ただし、現状維持ではマイナスです。増やそうとしなければ、現状維持もままならないからです。その意識は全所員が共有できていると思います。

―― 岩崎先生の経営哲学が所内の隅々にまで浸透しているということでしょうね。

岩崎 このような話は、全体会議はもちろん、個々の職員に対しても機会があるたびにしています。当たり前のことを諦めずに言い続ければ、人は少しずつでも変わっていき、成長します。そして人が成長すれば、組織も成長していきます。
そのためには、人員にある程度余裕を持たせる必要があります。余裕を持って人を配置していけば、きちんと仕事を覚えてもらえるからです。

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顧客の信頼に応え続けることが100人規模への成長につながる

―― 貴社の中期的なビジョンをお聞かせください。

岩崎 先ほど申し上げた、100人規模の組織になったときの目標顧問先数は2000件です。この数字自体は重要ではありません。
職員には、100人で2000件という目標を立てる理由と意味が重要なのだと話しています。それは、2000件のお客様から信用されるまで成長できた証しであり、100人規模にまで成長できた証しなのです。

―― 信用と成長の達成度を数値化したわけですね。

岩崎 この目標が達成された頃には、相当なノウハウが蓄積されているでしょう。それが自信につながります。私自身、税理士事務所に15年間勤務し、よくも悪くもさまざまな経験をさせてもらいました。それが今の自信につながっています。
当事務所のスタッフにも、同じようにいろいろ経験してもらいたいと思っています。それを通じて、真に社員のため、お客様のため、社会のためになる会計事務所を実現したいと考えています。

―― 最後に、その目標達成に向けた岩崎先生の信条を伺います。

岩崎 繰り返しになりますが、当たり前のことをやり続けることに尽きます。自分を過信することなく、現状に胡坐をかくことなく、慣れに甘んじることなく、お客様にポジティブに関わっていく姿勢を保ち続けることが重要だと思います。
今、会計業界では「AIの台頭に備えなければならない」「ITを使いこなさなければならない」といった論調が高まっています。
確かにAIも大事ですが、あくまでツールにすぎません。年商数千万円から数億円規模の会社にとって、AIによる経営分析よりも、日々の資金繰りや社員の問題解決のほうが優先事項でしょう。
私は、先進ツールを使いこなす以前に、お客様に真摯に向き合い、よい人間関係を保つことが大切だと思います。新規のお客様を紹介してくださるほどの信頼と期待に応えるための努力を、常に忘れてはなりません。

―― 本日は大変貴重なお話をありがとうございました。貴社のさらなる躍進に期待しています。

導入事務所様のご紹介

岩崎 智彦(いわさき・ともひこ)

岩崎智彦(いわさき・ともひこ)

関内会計 岩崎智彦税理士事務所代表税理士。税理士。登録政治資金監査人。昭和49年生まれ。関東学院大学卒。平成9年、横浜中央税理士法人・株式会社横浜中央経理に入社。平成20年、同社取締役に就任。執行役員(渉外担当)などを務めた後、平成24年に独立開業。これまで、700社を超える中小企業の経営や資金繰り、節税の相談に携わる。年商数千万円から百億円まで、社員1名から1000名超までの多種多様な企業に関与。

関内会計 岩崎智彦税理士事務所

所在地

〒231-0013 神奈川県横浜市中区住吉町1-14 第一総業ビル3階

代表者 岩崎 智彦
設立 平成24年5月
構成人数 職員数12名
主な業務 新規事業・会社設立支援、会計税務顧問、会計業務代行、 給与計算代行、決算業務、申告業務、コンサルティング
URL https://www.kannaikaikei.jp/company
  • 本事例の掲載内容は取材当時のものです。

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