実務経営ニュース2024年2月号巻頭特別企画インタビュー

労働集約型からより付加価値の高い知的集約型サービスに注力

原点に立ち返り会計事務所のDX化支援を強化する
ミロク情報サービス

株式会社ミロク情報サービス 代表取締役社長 是枝周樹

2024年1月30日

株式会社ミロク情報サービス(東京都新宿区)は、1977年の創業時から日本経済への貢献を目標に掲げ、会計事務所や中堅・中小企業の経営革新を支援する財務・会計システムのベンダーである。2021年から始まった「中期経営計画Vision2025」において、会計事務所の業務効率化ソリューションを提供することによる会計事務所ネットワークNo.1を掲げるとともに、収益基盤の強化を目的としたサブスク型ビジネスモデルへの転換を進めている。2023年10月、ついにインボイス制度が開始され、同社がこれまで準備を重ねてきた各製品・サービスが始動している。電子インボイスや改正電子帳簿保存法(以下、電帳法)に対応したDX化支援についても強化され、業務改善につながるAI-OCRの機能拡充も予定されている。今回の取材では、会計事務所支援の在り方や、直近一年間の活動、強化されたサービスの内容などについて、同社代表取締役社長の是枝周樹氏にお話を伺った。(撮影 古藤 毅)

原点に立ち返り会計事務所のDX化支援を強化

―― 今年で創業48年を迎える株式会社ミロク情報サービス(以下、MJS)では、2021年からスタートした「中期経営計画Vision2025」の基本戦略に則り、会計事務所の付加価値の向上や新たなビジネスの創出に貢献する「会計事務所ネットワークNo.1戦略」、誰もが簡単にDXを実現できる「統合型DXプラットフォーム戦略」、MJSにおける「クラウド・サブスク型ビジネスモデルへの転換」などを推進しています。
 本日は、同社の代表取締役社長である是枝周樹氏に、この一年を振り返っていただくとともに、これからの展望や会計事務所に対するサービスの在り方についてお聞きしたいと思います。
 まずは、MJSの昨年(令和5年)のご活躍を振り返って、一年間の総括をお願いします。

是枝 インボイス制度の開始とともに、同制度や改正電帳法に関するさまざまな製品やサービスがようやく動き始めました。当社もまた、これまで準備を重ねてきた関連製品やサービスを、新制度の始動に合わせて拡大しています。さらには金融サービスや他社製品などと当社のサービスがシームレスに使えるよう、さまざまな取り組みに注力した一年でした。ただ、インボイス制度や改正電帳法は、これまでにないほど国民の関心が高い制度であり、関係省庁と対話をして、歩調を合わせて進めていかなければならない部分もありました。
 それともうひとつ、会計事務所に対するDX化の支援について、「原点に立ち返る」ということを意識するようになった一年でもありました。

―― 計算センタービジネスやオフコンの時代から会計業務を技術革新でリードしてきたMJSが、ここにきてあえて「原点に立ち返る」というのはどのようなことを意味するのでしょうか。

是枝 会計事務所のDX化が、会計業界における重要な課題であるという認識は変わりません。会計事務所のDX化は、会計業界の人手不足の解消や、労働集約型からより付加価値の高い知的集約型のサービスに移行するための重要な手段であると考えています。このことは、貴社の近年のインタビューでも申し上げてきたところです。MJSでは、この重要な取り組みへの過渡期にある先生方をご支援していくことが責務であると考えています。
 しかし今、このままAIやブロックチェーンといった新しいデジタル技術につなげていく前に、事務所経営の根幹的な部分の支援に立ち返る必要があると感じています。
 その理由としては、まず今求められている会計事務所のDX化は、それまでの業務に対する価値観の変化を伴うものであることです。例えば、仕訳という業務は長い間、人によって確認をしながらやっていくことが重要とされてきました。一つひとつが決算の基礎になるものですから、人が正確に手入力することが必要であり、われわれもそう考えて製品を開発してきました。それが今では、OCRやAIの技術によって、仕訳という概念を業務から大きく減少させることが求められています。そればかりか、余った時間と人員を、顧問先のコンサルティングや経営指導といった伴走型の支援に替えながら、より付加価値の高いビジネスに変化させていくことも考えなければなりません。そこに電帳法やインボイスといった法制度への対応が加わり、DX化の取り組みは混沌とした状況にあります。そのため、新しい技術や制度に対応する前段階として、事務所の体制づくりに関するご支援が必要なのではないかと考えたのです。

―― 業務のDX化やインボイス・電帳法対応の前段階として、事務所経営という観点からの支援がまず必要なのではないかということですね。

是枝 10年前の常識が常識でなくなる時代です。先生方には、常に先を見ながら今の価値観を変化させていくことが求められています。このような流動的な時代において、われわれベンダーが事務所支援の原点に立ち返り、先生方の取り組みを足元からしっかり支える必要があると思っています。こうした支援に大きく工数をかけていくこと、これが今年の抱負のひとつです。

図1 電子請求書を簡単に発行できるSaaS型クラウドサービス「Edge Tracker 電子請求書」

「Edge Tracker 電子請求書」は、電子インボイスの送受信およびインボイスの電子化に対応するSaaS型クラウドサービス。使用している販売管理・請求管理システムからデータをアップロードするだけで、簡単に電子請求書を発行することが可能。さらに、MJSの各システムとならシームレスに連携でき、より利便性がアップする。例えば、MJSの販売管理システムと連携すれば、請求データを基に電子請求書を発行できるので、請求データの取り込み作業が不要となる。また、MJSの財務・会計システムと連携すれば、受領した電子請求書のデータから自動的に仕訳を作成することも可能。

インボイス・改正電帳法に関する製品・サービスを強化

―― それでは昨年の具体的なお取り組みについてご紹介いただきたいと思います。昨年は、やはりインボイス制度に関連する製品やサービスの展開がメインだったのではないでしょうか。

是枝 そうですね。それらも含めて、力を入れたものは大きく3つに分かれます。
 1つめは、仰るとおり、インボイス制度や改正電帳法に関する製品やサービスのさらなる拡大です。
 昨年の取り組みとしては、MJSの各種システムにインボイス対応の機能を追加したことや、そのほかにインボイスの電子化に対応した当社の「Edge Tracker 電子請求書(旧名称:MJS e-Invoice)」と、ROBOT PAYMENT社の請求・債権管理クラウド「請求管理ロボ」との間におけるデジタルインボイスの疎通テストを成功させ、リリースしました。
 2つめは、各種業務のデジタル化に関する取り組みです。
 具体的には、MJSの給与・経費精算システムにおける賃金のデジタル払いへの対応や、MJSの子会社である株式会社MJS Finance & Technologyにおいて、GMOあおぞらネット銀行と提携した振込決済サービス「楽たすプラス」のリリースを行いました。銀行とのAPI連携ができるベンダーは数が少ないため、今後のフィンテック系のサービス展開の大きなアドバンテージになると考えています。
 3つめは、テレワークを支援するクラウド型サービスの提供や、それらと他社サービスとの連携の強化です。
 具体的には、中堅・中小企業向けクラウド型ERPシステムの「MJSLINK DX 財務大将」において、インターネットがつながる環境であればいつでもどこからでも場所を問わずに仕訳データの入力、確認、承認作業が行えるクラウド型新機能「MJS DX 伝票入力」の提供を開始しました。他にも、API連携やデータ連携ができる他社サービスを拡大しています。

―― 資金移動やバックオフィス業務の機能がデジタル化され、着実に連携されていくことによって、中小企業や会計事務所に向けた新しいプラットフォームに進化していく可能性を感じます。

是枝 まだ今は点と点になっており、つながっていないところもあります。今後も会計事務所へのご支援の在り方を見直し、ときには業界に提言をさせていただきながら、先生方と新しい世界を一緒に構築していきたいと考えています。

図2 証憑書類保管・電子契約クラウドサービス「MJS e-ドキュメントCloud」

「MJS e-ドキュメントCloud キャビネット」は、「MJS e-ドキュメントCloud」サービスのひとつで、電子取引の電子データ、スキャナ保存する証憑書類を、保存要件を満たした機能でクラウド上に安全に保存するサービス。MJSの財務システムは、2022年の法改正に準拠し、国税関係帳簿の要件を満たした電子保存に対応しており、仕訳にひもづく証憑のタイムスタンプ付与、検索等の要件を満たしたスキャナ保存に対応しているが、「MJS e-ドキュメントCloud キャビネット」と併用することで、電子的に授受したデータの保存も可能。もうひとつの「MJS e-ドキュメントCloud サイン」は、クラウド技術を活用した事業者型(立会人型電子署名)による電子契約のクラウドサービス。事業者型の電子契約サービスでは、サービス事業者が契約当事者(甲、乙)双方の確認を行い、合意成立の証拠としてタイムスタンプと事業者の電子署名を電子契約ファイルに付与し保管する。

ストック型への転換と人材投資で堅固な収益基盤を構築

―― それでは、今期(2023年4月~2024年3月)の業績について伺います。

是枝 上半期については、前期ほどではありませんが増収増益となっています。前年同期と比較して、売上高が6.5%増、営業利益が9.7%減、経常利益が1.3%増となりました。通期業績としては、営業利益・経常利益ともに増益になると考えています。

―― 今期の業績をどのように分析されていますか。

是枝 今期はサブスクリプション型の伸び率が高く、主力ERP製品のサブスク・IaaS提供のARR(Annual Recurring Revenue)が前年同期で82.2%増となりました。当社のプロダクトミックスが売り切り型からストック型に大きく変化し始めており、このことは、アナリストや株式市場からも徐々に評価され始めていると感じています。

―― サブスクリプション型ビジネスモデルへの転換は、貴社の「中期経営計画Vision2025」における収益基盤強化の取り組みのひとつに掲げられています。ここにきて2桁台の成長を達成された要因はどのようなところにあったのでしょうか。

是枝 ネットマーケティングではなく、人の直販力によって企業の足腰を鍛えてきた成果が表れたと考えています。現在、全国の拠点数が31に達し、各拠点の営業職や顧客サポート要員の人数は1200名を超えました。ベースアップなどの人件費をはじめとする経費増があり、営業利益の減少は生じましたが、そのぶん営業力はかなり高くなっていると評価しています。顧客満足度を落とさずに優れた製品をリリースできる、MJSグループの人材が生み出す今のよい循環を、今後さらに伸ばしていきたいと考えています。

会計事務所向けサービスの強化

―― 会計事務所向けに強化したサービスや製品などをご紹介いただけますか。

是枝 昨年はやはりインボイス制度や改正電帳法に伴うサービスや製品の提供がメインとなりました。対応を強化したものや販売を強化したものをご紹介します。
 まずは、会計事務所向けのERPシステム「ACELINK NX-Pro」です。こちらは、適格請求書の要件を満たす請求書の作成に対応しました。続いて、「Edge Tracker 電子請求書」では、インボイスの電子化とデジタルインボイスの送受信に引き続き対応しています。さらに、MJSの販売管理、請求管理、財務・会計の各システムとシームレスな連携を実現し、受領した電子インボイスのデータからの自動仕訳が可能となっています。また、証憑書類の保管や電子契約のクラウドサービスである「MJS e-ドキュメントCloud キャビネット」において、引き続き電子取引の電子データやスキャナ保存をした証憑書類を、電帳法の要件を満たした状態でクラウド上に保存していただけます。顧問先との間でデータで書類のやりとりをするときも、当社のストレージサービス「かんたんクラウドファイルBOX」をご利用いただくことで、書類のやりとりがクラウド上で完結します。

―― 記帳代行のご支援に関してはいかがでしょうか。

是枝 「AI仕訳・AI-OCR」の機能をさらに強化しています。スキャンした書類の画像を自動仕訳に連携できますので、かなりの手間と工数を削減できるはずです。識字率をさらに向上させ、会計事務所の生産性の向上に寄与していきたいと考えています。また、人手不足にも対応できるよう記帳代行、読み取りの代行のアウトソーシングも強化しています。

図3 電子ファイルを保存・共有できるストレージサービス「かんたんクラウドファイルBOX」

「かんたんクラウドファイルBOX」は、会計事務所と各顧問先企業の間でやり取りされる請求書や領収書などの証憑や決算報告書、経営分析資料などの書類データの受け渡し場所として利用することができるサービスである。「ACELINK NX-Pro」との連携を強化し、記帳代行における仕訳と証憑登録がさらにシームレス化されている。また、「かんたんクラウド」は2024年1月より全ての事業者が対象となる国税関係書類「電子取引データ保存義務化」に対応しており、電子取引に該当するファイルを電子帳簿保存法の要件に沿って保存することも可能。

コンサルティング事業の充実で会計事務所の「伴走者」に

―― 今後の中期的な製品・サービス戦略について差し支えない範囲でお話しいただけますか。

是枝 引き続き「中期経営計画Vision2025」に沿って、5つの戦略に力を入れていきます。
 1つめは、クラウド・サブスク型ビジネスモデルへの転換です。現在、順調に進めることができています。ストック型のビジネスに移行した後は、営業担当者の力を会計事務所の生産性向上のための伴走支援に向けられないかと考えています。現在は、少しずつコンサルティング事業にシフトしているところです。
 2つめは、会計事務所向けのERP製品の機能強化です。具体的にはAI-OCRの強化を進めて、業務効率化のソリューションを提供し、会計事務所ネットワークNo.1を実現します。
 3つめは、中堅・中小企業のお客様対応を行うソリューション支社を拡大することです。コンサルティングによる価値創造を最大化し、総合的なソリューションビジネスを展開します。
 4つめは統合型DXプラットフォーム「Hirameki 7」のさらなる拡大です。「Hirameki 7」とは、一昨年の7月から提供を開始した中小企業支援のプラットフォームになります。会計事務所や顧問先企業のDX化を推進し、日々の業務の効率化から将来を見据えた資金調達にいたるまで、あらゆる面から一気通貫でサポートします。
 5つめは、会計事務所ERPシステム「ACELINK NX-Pro」を機能拡充し、会計事務所からより付加価値の高いサービスを顧問先に提供できるよう支援します。顧問先満足度の向上、会計事務所サービスの付加価値向上のために、実証実験(POC)を引き続き行っています。

―― 会計事務所のコンサルティング型の伴走支援をMJSの営業の方々がなさることは興味深いです。事務所の生産性が向上すれば、顧問先に対してより付加価値の高い業務に力を入れられるようになり、会計事務所も顧問先も豊かになれる、まさに三方よしの取り組みだと感じます。

図4 会計事務所業務のデジタル化による仕訳業務の効率化

会計業界のDX化支援方針について

―― MJSは、長年、ベンダーとして時代の先を見ながら、会計事務所の技術革新をリードしてこられました。今後の会計業界はどのように変わっていくべきだとお考えでしょうか。

是枝 会計業界に必要なことは、デジタル化・DX化の推進、慢性的な人手不足の解消、そして経営支援の高度化にあると考えています。特に、昨年からのゼロゼロ融資の返済の本格化に伴い、資金繰りの悩みを抱える中小企業にとっては先生方からの経営支援が必要です。今、会計事務所には、より高度な経営支援ができる体制が求められています。
 逆に、そうしなければ残ることが難しい時代がやってきていると思います。社会全体がDX化に向かっていくなかで、これからは、テクノロジーによって生産性を向上させ、顧客満足度を上げながら顧客を拡大していくサイクルをしっかりと実現できる事務所だけが残っていけると考えています。

―― MJSでは、会計業界に対してこれからどのような対応をお考えでしょうか。

是枝 大きく4つあります。
 1つめはわれわれの「AI-OCR」機能の強化です。識字率や解析後の仕訳精度の向上や、操作性・機能性を強化することで、会計事務所の仕訳業務を支援します。
 2つめは、経営分析ツール「MMI」や、AIによる資金繰り予測「CFM」の提供です。いずれも「Hirameki 7」の機能になります。使い方としては、会計事務所向けの「ACELINK NX-Pro」と「Hirameki 7」を連携させることで、格納された会計データを分析、可視化するとともに、AIによって6カ月後までの現預金残高の推移を予測することができます。顧問先企業に対する経営支援に役立てていただけると考えています。
 3つめは、記帳代行のアウトソーシングサービスです。即戦力となる者が思うように採用できないというお悩みや、記帳代行に時間を奪われてしまい、新規顧客を開拓する時間がないといったお悩みを解決します。
 4つめは、生成AIによるチャットサービスです。社内の業務効率化と生産性向上のために、Microsoftの「Azure OpenAI Service」を用いて構築しています。昨年11月からMJSグループで運用を開始しており、製品化を視野に入れています。

テクノロジーで創出した時間をより高度なビジネスに

―― 最後に、弊誌の読者である会計人の方々に向けてメッセージをお願いします。

是枝 テクノロジーの変化によってビジネスモデルを変えていくことが、会計業界にも求められる時代になりました。DX化されるインボイスや電帳法によって、おそらく税務調査の在り方も変わってくるでしょう。業界のモデルはいつか変わることを前提に、事務所内の生産性を上げていくことが大切です。そして、テクノロジーで創出された時間を、事務所のビジネスモデルのさらなる変化につなげていただきたいと願っています。こうした変化への対応を、ぜひわれわれにもお手伝いさせてください。

―― 本日は、大変貴重なお話を頂き、ありがとうございました。MJSグループのさらなるご発展を祈念しています。

是枝周樹(これえだ・ひろき)

株式会社ミロク情報サービス代表取締役社長。昭和39年生まれ。平成6年、株式会社ミロク情報サービス取締役に就任。経営企画室長兼情報システム室担当、営業戦略室長、マーケティング統括副本部長兼営業本部長兼マーケティング本部長などを歴任し、平成16年、代表取締役副社長・最高執行責任者、平成17年、代表取締役社長に就任。

本件に関するお問い合わせ先

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