導入事例

植田会計事務所 様

2023年7月7日

植田会計事務所は、大阪市で2代続く老舗会計事務所である。所長の植田 卓氏(写真)は、日本税理士会連合会や近畿税理士会の要職を歴任し、母校の大学で教鞭を執り、税理士会の税制改正セミナーの講師を務めるなど、多方面で活躍している。そのひとつに、全国規模の組織であるミロク会計人会連合会会長としての活動があり、今年11月に大阪で開催される第47回ミロク会計人会全国統一研修会の大会準備委員長も務めている。本稿では植田氏に、そのユニークな事務所運営や報酬制度、コロナ禍を経て会計事務所がこれから進むべき方向性、ミロク会計人会全国統一研修会の企画内容などについて伺った。(撮影 市川法子)

顧問先数を絞ってサービスの質を維持

―― 本日は、大阪市の植田会計事務所の所長である植田 卓先生にお話を伺います。
 植田先生は、ご自身の事務所運営の傍ら、税理士会の活動も精力的にこなしておられます。これまで、近畿税理士会や日本税理士会連合会の常務理事をはじめ、研修部、調査研究部、制度部の部長、税理士試験の試験委員などを歴任されてきました。
 今回の取材では、日本税法学会や税務会計研究学会、租税訴訟学会に籍を置き、大学で教鞭も執られている植田先生に、会計事務所業界の現状と今後の展望を含むさまざまなトピックについて、ご意見や見解をお聞きしたいと思います。
 はじめに、植田先生のこれまでの足跡を振り返っていただけますか。

植田 私が税理士になったのは、それほど大それた理由からではありません。父が税理士だったこともあって、自然にこの職業を目指すようになりました。昭和56年に税理士試験に合格し、翌年に登録しました。このように、ごく自然な形で会計業界に入り、二代目として事務所を引き継ぎました。

 ですから、父の事務所経営をそのまま踏襲し、拡大志向には走らずにきました。個人事務所はお客様フォローに限界がありますから、大規模事務所のように顧問先をどんどん増やしていくことはできません。スタッフが3人の当事務所では、顧問先数の上限を70件に設定しています。

 それ以上増やすと、サービスの質が維持できなくなります。現状でも、毎月訪問できるお客様の数は限りがあります。これら全てに私が行っているからです。

責任の伴う判断は全て所長が対応

―― 植田先生がおひとりで、70件の顧問先の全てを見ていらっしゃるのですか。

植田 そのとおりです。これ以上増えると、物理的にカバーできなくなります。

 ルーチンワークはスタッフが担当し、法令等の解釈と判断が必要な問い合わせや仕事は、全て私が対応します。スタッフには、自分だけの判断で答えないよう、指示を徹底しています。

 何か問題が発生したとき、損害賠償責任を負うのは所長です。ですから、所長が全ての実態を把握しておかなければなりません。

 税務調査の立ち会いも私が務めますが、その多くは数字の確認作業ですから、最初に説明すべきところは私が全て説明し、あとはスタッフに任せます。

 ただそのとき、税務調査官には「スタッフは、見解は述べないので、事実確認だけお願いします」と申し添えたうえで、最後の詰めは私が行います。

―― 税法は年々複雑化していますから、それくらい徹底したほうがよいのかもしれません。とはいうものの、全顧問先をおひとりで見るのは、かなり大変ではありませんか。

植田 ですから私は、最終的に全ての責任を負う所長が使用するためのチェックシートを作って確認しています。全項目をチェックするのに、4~5時間はかかります。

 このチェックシートを、私はセミナーなどで公開しているのですが、チェックに4~5時間かかると聞いて、受講者の皆さんは驚かれます。多くの先生方が、そのチェックシートをスタッフに使わせようとお考えになるようですが、そのたびに、「これは、スタッフにチェックさせるためのものではありません」と答えています。

―― 多数の顧問先に質の高いサービスを提供する優れた仕組みだと思います。サービスの質を維持されているのであれば、顧問料の値下げを要求されることも少ないでしょうね。

植田 当事務所は料金表を作成しており、お客様の会社の規模に応じて料金が設定される仕組みになっています。その会社の売上高や利益、役員報酬、資本金などを入力して計算すると、顧問料が算出されます。記帳代金は、仕訳の数で計算します。

―― それでは、毎年変わる売上と利益に合わせて、顧問料も変わるのですか。

植田 仰るとおりです。なぜこのような制度にしたかというと、会社が成長しても顧問料が据え置かれたままでは、こちらの採算が合わなくなってしまうからです。

 例えば、初期の契約が5万円だったとして、その会社の規模が倍になった場合、それなりの報酬を頂かなくては採算が合いません。そこで値上げをお願いするわけですが、そのタイミングが問題です。1年で売上が倍になるのであれば、そのタイミングでよいのですが、普通は毎年、少しずつ上がっていくからです。

―― 顧問料の値上げを切り出すタイミングに苦慮している先生は多いと思いますが、最初から会社の規模に応じて料金が設定される料金表を提示していれば、値上げを相談するタイミングに悩まなくてすみますね。

植田 どの時点で切り出しても、値上げの理由や根拠を訊かれるでしょう。その点、当事務所は千円単位で上下する変動制ですから、「上がるときは上がるけれども、下がるときは下がります」と言っています。

 ただ、毎月払い込んでいただく料金が毎年上下すると計算がややこしくなるので、毎月の支払額は一定の金額に決めています。そして決算後に、決算料を決める時点で差額を調整し、次年度の月額顧問料を提示しています。

―― 会計事務所が業務の対価を過不足なく得られる合理的な仕組みですね。

パッケージソフトの時代からMJSのシステムを活用

―― 植田先生は現在、株式会社ミロク情報サービス(以下、MJS)のシステムを利用している会計人の組織である、ミロク会計人会連合会の会長を務めておられます。MJSとの付き合いは、いつ頃から、どのようなきっかけで始まったのでしょうか。

植田 私がMJSさんを知ったのは、税理士試験に合格した昭和56年頃です。オフィスコンピュータ(オフコン)ベンダーが群雄割拠していた〝オフコンの時代〟で、会計事務所がオフコンを導入し始めた時期にあたります。

 当時のオフコンはドットプリンタで漢字も打てず、文字数も少なかったので、一番肝心な「摘要」はほとんど書けませんでした。ですから私は、しばらく手書きしていました。

 そのようななか、ある事務所さんに伺ったとき、実際に業務で使われているオフコンを初めて見ました。スタッフは、部屋の片隅に置かれた1台のコンピュータのところまで行き、順番に使っていました。

 それぞれが自分のデスクでしていた作業を、わざわざ順番待ちまでしてコンピュータで行っているのですから、それを見て私は違和感を覚えました。そして、コンピュータはスタッフ各人に1台ずつ用意するべきだと思いました。

 そこで、パソコンに搭載できる財務ソフトはないかと探しました。そうして見つけたのが、当時MJSさんが出していたパッケージソフト「SI・財務大将」です。このソフトを入れたパソコンに、仕訳のダミーデータが格納されたフロッピーディスクを差し込むと、読み出すことができました。つまり、オフコンと互換性がありました。

 当時、パソコンに入れて使っていたソフトは、ワープロが「一太郎」、表計算が「ロータス123」でしたが、この2つに「SI・財務大将」も加わりました。これが平成3年頃のことです。MJSさんとは、それ以来のお付き合いになります。

―― そうすると、30年以上の付き合いになりますね。

植田 ええ。当事務所では、デスクトップパソコンは場所を取るため、東芝のラップトップパソコンを何台か購入し、会計と税務の双方の業務に使っていました。

 まだ手書きも多かったので、各パソコンに「SI・財務大将」のソフトをインストールして、相互にやりとりしながら動かしていました。1台ごとにライセンス料がかかって大変でしたが。

 その後、オフコンがサーバーとして使用できるようになってきたところで、サーバーとしてオフコンを導入しました。

第47回ミロク会計人会全国統一研修会の概要

―― 十分な利用実績と吟味を経たうえで、MJSのシステムを選ばれたのですね。
 ところで植田先生は、来たる11月9日に大阪で開催される、第47回ミロク会計人会全国統一研修会の準備委員会の委員長も務められています。差し支えない範囲で、今回の研修会に対する意気込みや見どころをお聞かせいただけますか。

植田 今回は、地元である大阪での開催ですから、全国から参加される方々をおもてなしするため、私も大阪人としてできる限りのことをしたいと思っています。

―― 分科会のひとつでは、植田先生も「いまさら聞けない話せない、インボイスと電帳法」という演題で講演されるそうですね。

植田 ええ。分科会の仕切りは、ミロク会計人会連合会システム開発委員会に無理やり頼み込んだのですが、いつの間にか私が登壇することになっていました。「それは話が違うだろう」と、いまだにゴネています(笑)。

 分科会のテーマについてお話しすると、実は、インボイスにはまだよく分かっていない部分があります。

 今年の10月1日から、課税売上と課税仕入れの計算の仕方が変わります。そうなると、9月末決算ではない会社は、10月1日をまたいで計算することになります。それをどう処理するのかという点です。

 課税売上は、基本的に割り戻し方式ですから、変更前も後も一緒です。ところが、課税仕入れは変更後、原則として割り戻し方式から積み上げ方式になります。ですから10月1日以降は、計算の仕方を変えなければならないのかという疑問が生じます。

 分科会では、そこまで踏み込んで話そうと思っています。

―― まさに旬のテーマですから、受講したいと思う先生がたくさんいらっしゃるでしょうね。
 そういえば、今回の大会ではタレントで元参議院議員の西川きよしさんが基調講演をされると聞いています。大阪らしい、楽しくて学びのある講演になりそうですね。

植田 私も楽しみにしています。

 準備委員会で大会のテーマについて議論したとき、大阪といえば「笑い」だろうという話になりました。そこから、「笑う門には福来る」と、「なにわ友あれ大阪」の2つのテーマが決まりました。

 そして、昨年10月に日本経済新聞に掲載された、西川きよしさんの「私の履歴書」が面白いという話が持ち上がりました。たまたまメンバーのなかに西川さんにつながる人がいたので、ご本人に依頼してもらったところ、ご快諾いただきました。

 そのほかにも、大会のオープニングに国立文楽劇場から演者の方々に来ていただき、人形浄瑠璃文楽の三番叟を舞っていただく予定になっています。文楽の定期公演は、東京と大阪でしか行われていないので、貴重な機会になると思います。

 私は今、全国に11あるミロク会計人会の総会に赴き、宣伝に努めています。先日も、名古屋で開催された中部会の総会後に、懇親会で文楽公演の話をしたところ、大勢の方々から期待の声を頂きました。

―― ご自身の事務所の仕事もされながらの宣伝活動ですから、かなり大変ではありませんか。

植田 そうですね。しんどくないといえばウソになります。事務所のお客様と対話する時間は、一切減らしていませんから。

有用性が明確になればDXは普及する

―― 会計業界の展望について、植田先生のお考えをお聞きしたいと思います。
 先ほどのお話にあったように、コンピュータ導入は比較的早かった税理士業界ですが、DX化はやや立ち遅れているといわれています。この問題についてどう思われますか。

植田 大事なことは、DXに何を求めるかです。やみくもに推進すればよいというものではありません。

 税理士業界でオフコンが急速に広がったのは、それが効率化を促進したからにほかなりません。算盤や電卓よりも、格段に作業スピードが上がりました。ですから当時、「コンピュータ会計」を看板に掲げる会計事務所がどんどん出てきました。

 DXもそれと同じです。DX化すれば劇的な効率化が期待できるというエビデンスが明確に出されれば、おのずと広がっていくでしょう。

 とはいえこの業界は、「スマホは持っているが、用途はせいぜいメールのやりとり」というご高齢の先生方が多いのも現状です。その人たちに、いくらDXの推進を説いても、なかなか賛同は得られないでしょう。

―― 何のためにDXを導入するのかを明確にし、その本当の効果が立証されれば、業界のDX化は自然に進むということでしょうか。

植田 仰るとおりです。

 オフコンにせよDXにせよ、しょせんは道具です。それを忘れてはいけません。単に「DX化が遅れている」と主張ばかりしていても、話は前に進みません。まずは先生方に、DX化の必要性を理解してもらうことが第一です。

 会計事務所にとって、DX化は必須の選択であるという明確な根拠が示されれば、何もしなくてもあっという間に普及すると思います。例えばFAXも、会計業界では比較的早く広まりました。皆が必要だと感じれば、自然に広まっていくものです。

―― 道具といえば、最近よく話題に上るChatGPTも、会計事務所の武器になる可能性を秘めています。これに対する、植田先生の見解をお聞かせください。

植田 確かに、ChatGPTは会計事務所にとって、大きな武器になるかもしれません。しかし欠点もあると、私は思います。それは出典が分からない、すなわち信頼性に欠けるというところです。

 例えばネット検索などにより、自分で情報を探す分には出典が分かります。これに対し、ChatGPTは生成AIですから、出典は一切表示せず、独自に生成した答えを出してきます。そのため、回答の根拠が分かりません。

 これは、ひとりの人間がしゃべっているのと同じです。いうまでもありませんが、ひとりの発言を鵜呑みにするのは危険です。ChatGPTについては、そのように捉えるべきだと思います。

コロナ禍の初期にリモート対応・テレワーク体制を整備

―― コロナ禍の影響により、この2~3年でオンライン監査など、会計事務所の顧客対応も変化しつつありますが、植田先生の事務所ではいかがでしたか。

植田 もちろん、オンライン対応ができる体制は整えましたが、それほど大きな影響は受けませんでした。例えばZoomを使うのは、ほぼお客様の側から求められた場合のみです。

―― テレワーク体制についてはいかがでしょう。

植田 令和2年の5、6月頃には、全スタッフにノートパソコン、補助ディスプレイ、携帯電話を貸与し、テレワーク体制が整いました。

 リモートシステムは、もちろんMJSさんの「iCompassリモートPC2」です。これを使えば、オフィスのパソコンをリモートでコントロールでき、自宅にいながらにして、事務所にいるのと全く同じ作業ができます。

 紙ベースの資料を事務所外に持ち出すのは危険なので、全てデータ化してハードディスクに格納し、それを補助ディスプレイで表示させて作業してもらっています。

―― コロナ禍が始まった初期の段階で、かなり迅速に対応されたのですね。

植田 当事務所のスタッフが全員、兵庫県在住だったことも理由のひとつです。大阪府の吉村知事から、兵庫県との行き来を中止するよう要請があったので、急いでテレワークの体制を整備しました。

 すぐにスタッフに頼んで家電量販店に行ってもらい、同機種のノートパソコンを4台押さえました。早期にテレワーク体制が整ったおかげで、家族が新型コロナウイルスに感染して濃厚接触者になった職員が出たり、天候不順で電車が止まったりしたときも、柔軟に対応することができました。

―― コロナ禍もほぼ収束した現在、植田先生は今後のテレワークの位置付けについて、どのようにお考えでしょうか。

植田 便利なことは確かですから、必要に応じて使えばよいと思います。世間では、「これからはテレワークの時代。リアルで対応するのはかえって非効率だ」といった風潮もあるようです。

 しかしやはり、人と人とがコミュニケーションを取る場合は、対面で話したほうがよいに決まっています。

―― 中小企業の経営者と対面で話せることが、会計事務所のアドバンテージですね。

植田 そのとおりです。百歩譲って、既に面識があり、十分に気心が知れている相手なら、オンラインでもよいでしょう。

 しかし、お互いが初対面の場合、オンラインでは意思の疎通がなかなかうまくいきません。対面で話していても、齟齬が生じることはあるのですから。

品質を維持しながら仕事に見合う料金制度を工夫

―― 最後に、植田会計事務所の今後の展望をお聞かせください。

植田 歳が歳ですから、私もそろそろ世代交代を考えています。とはいえ、いろいろと制約を伴う税理士法人には、あまりしたくありません。

 そこで、後継者の事務所とゆるやかに統合しながら時間をかけて事務所の引き継ぎをしていきたいと思っています。最も大事なのは、スタッフ同士の人間関係ですから。

 また、顧客サービスについては、引き続きチェックシートを使って、品質を維持していきます。チェックシートは決算に際して、毎回チェックする内容が変わらないようにするためのツールですが、同時にこれを使うことで、スタッフの仕事に対する指摘もシステマチックに行えます。

 同じ間違いを重ねて指摘することがあると、こちらとしても気が重くなるものです。しかし、チェックシートでチェックしてメールで送れば、回答もメールで返ってきますし、記録も残ります。こういったやりとりを繰り返すうちに、次第に指摘する回数も減っていきます。

―― チェックシートは業務品質の維持だけでなく、スタッフ育成の仕組みにもなっているのですね。
 本日は、合理的な事務所経営手法や、コロナ禍後の会計事務所のあり方など、大変貴重なお話をお聞かせいただきありがとうございました。植田会計事務所のさらなるご躍進を祈念いたします。

導入事務所様のご紹介

植田 卓(うえだ・たかし)

植田会計事務所所長。税理士。ミロク会計人会連合会会長。税経システム研究所・税務システム研究会座長。大阪府出身。立命館大学大学院法学研究科博士課程後期課程単位取得。昭和56年、税理士試験に合格し、翌年に税理士登録。日本税理士会連合会常務理事、近畿税理士会常務理事などを歴任。平成28年より立命館大学法学部客員教授、令和4年よりミロク会計人会連合会会長。『税務力UPシリーズ 法人税』(清文社)などの著書がある。

植田会計事務所

所在地

大阪市北区中之島3-5-16

創業 昭和57年
職員数 5名(税理士1名)
得意分野 税務会計、法人税申告、経営支援 等
  • 本事例の掲載内容は取材当時のものです。

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