第18回 フリーランスガイドライン2

2021年6月30日

前回の労務管理トピックスでは、政府が公表した「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」(以下「フリーランスガイドライン」という)での、フリーランスの定義やフリーランスの関係法令について説明いたしました。今回は、フリーランスガイドラインでの「労働者」の判断基準について説明いたします。

「労働者」の概念

労働関係法令における「労働者」の概念は、大きく分けて2つあります。1つは、労働基準法第9条に規定する「労働者」、もう1つは労働組合法第3条に規定する「労働者」です。雇用契約を締結していなくても、個々の発注者や仲介業者との関係で、判断基準に照らして労働基準法における「労働者」と認められる場合は、労働基準法の労働時間や賃金などに関するルールが適用されることとなります。また、発注者等との関係で、労働組合法における「労働者」と認められる場合は、団体交渉等について同法による保護を受けることとなります。

労働基準法における「労働者性」の判断基準とその具体的な考え方

労働基準法第9条では「労働者」を、「事業または事業所に使用される者で、賃金を支払われる者をいう」と規定しています。そして、「労働者」にあたるか否かは、その労働が他人の指揮命令下で行われているかどうか、その報酬が指揮命令下における労働の対価として支払われているかどうか、主としてこの2つの基準で判断されることとなります(この2つの基準を総称して「使用従属性」と呼びます)。

(図1)各判断基準の関係「労働基準法」

※フリーランスガイドライン概要版より引用

図1で示す「使用従属性」が認められるかどうかは、請負契約や委任契約といった形式的な契約形式にかかわらず、契約の内容、労務の提供の形態、報酬その他の要素から、個別の事業ごとに総合的に判断されます。

図2のような実態がある場合は、労働基準法上の「労働者」となる可能性が高いといえます。

(図2)「労働者性」判断基準の具体例

発注者からの仕事は、特別な理由がないと断れない 運送の経路や方法、出発時刻等、業務遂行に関することは、全て発注者から管理されている
発注者から、契約や予定にない業務も命令されたり頼まれたりする 報酬は「時間当たりいくら」で決められている
始業・終業時刻が決められていて、始業時刻に遅れると「遅刻」として報酬が減らされる 受注した仕事に多くの時間を要し、他の発注者の仕事を受注する余裕が全くない

ここ近年の働き方改革によって労働環境が大きく変わりつつある中で、一部の会社経営者から、「フリーランス」との契約をすれば労働関係諸法令に縛られることなく、自由に労務の提供が可能になるのではないかとの声もよく聞かれます。これが、単に労働基準法の適用を逃れるためだけに「雇用契約」を解除して「業務委託契約」とするのであれば、実態として労働基準法上の「労働者」と判断され、違法な働かせ方となるリスクが高いのでお勧めできません。

労働組合法における「労働者性」の判断要素とその具体的な考え方

労働組合法第3条では、「労働者」を「賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者」と定義されていて、労働基準法上の「労働者」よりも広い概念となっています。例えば、プロ野球選手は労働基準法上は「労働者」ではなく「個人事業主」となりますが、プロ野球選手らが加入している「プロ野球選手会」はれっきとした「労働組合」であり、プロ野球選手も労働組合法上は「労働者」となります。

労働組合法上の「労働者」にあたるか否かは、①業務の遂行に不可欠ないし枢要な労働力として組織内に確保されているか(事業組織への組み入れ)、②労働条件や労務の内容を相手方が一方的・定型的に決定しているか(契約内容の一方的・定型的決定)、③労働提供者の報酬が労務提供に対する対価などとしての性格を有するか(報酬の労務対価性)、主としてこの3つで判断されます(図3参照)。

(図3)各判断要素の関係「労働組合法」

※フリーランスガイドラインより引用

そして①~③の基本的要素に加えて、④労務提供者が相手方からの個々の業務の依頼に対して、基本的に応ずべき関係にあるか(業務の依頼に応ずべき関係)、⑤労務提供者が、相手方の指揮監督の下に労務の提供を行っていると広い意味で解することができるか、労務の提供にあたり日時や場所について一定の拘束を受けているか(広い意味での指揮監督下の労務提供、一定の時間的場所的高速)、これらを補充的判断要素としています。

以上のように労働組合法上の「労働者」にあたるか否かの判断についても、契約形態のみにとらわれるのではなく、契約の当事者の認識や、契約の実際の運用を重視して判断されます。

労働組合法上の「労働者」は、「団体交渉の保護を及ぼすことが必要かつ適切な類似の労務提供者」にまで範囲を広げた概念となっています。

フリーランスに仕事を依頼する際のポイント

働き方改革等により柔軟な働き方が益々広がりを見せる中で、あらゆる業種でフリーランスに仕事を依頼する機会も増えてきています。また、企業に雇用されつつ副業・兼業でフリーランスという者も少なくありません。

フリーランスとの契約では、労働基準法上の「事業主」と「労働者」と判断されるような関係となっていないか、事業者とフリーランスとの関係が労働組合法上どのような関係となるのか、フリーランスガイドラインに慎重に照らしてみることが重要なポイントとなります。

課題や導入に関するご相談など承っております。

まずはお気軽にお問い合わせください。

資料請求はこちら