導入事例

ホームオフィス仙台税理士法人

2015年11月9日

ホームオフィス仙台税理士法人

ホームオフィス仙台税理士法人(仙台市青葉区)は、仙台で25周年を迎えた石沢公認会計士事務所の石沢裕一氏(写真左)が中心となって、平成26年12月に設立した。仙台という土地柄もあり、東日本大震災からの復興支援にも積極的に取り組んできた同法人の注目すべき点は、その運営体制だ。税理士法人化には、2名以上の税理士が必要だが、石沢氏がパートナーに選んだのは、自分よりも25歳年下の田中良寛氏(同右)であった。顧問先だけでなく、事務所自体の承継問題に悩んでいる事務所も少なくないなか、同法人が選択した体制は大いに参考になるであろう。今回の取材では、ホームオフィス税理士法人の代表社員である石沢氏と、同法人の社員税理士である田中氏に、これまでの歩みや復興支援への取り組み、今後の展望についてお話を伺った。

ノウハウなしに32歳で開業

―― ホームオフィス仙台は、石沢裕一先生を中心に、平成27年1月に発足した税理士法人です。前身となる石沢公認会計士事務所は1年ほど前にも取材をさせていただき、東日本大震災で被災した仙台地域の復興支援についてお話を伺いました。
 その石沢公認会計士事務所は、発足から今年でちょうど25周年を迎えます。本日は、これまでの取り組みや今後の展望について、代表社員である石沢先生と、社員税理士である田中良寛先生にお話をお聞きします。まず、石沢先生ご自身の足跡をご紹介ください。

石沢 私は大学卒業後、監査法人に入所しました。7年間勤務してその監査法人を退職したのですが、どこで開業するのか悩みました。
 私の出身は山形ですが、監査法人時代に仙台の事務所に1年間いたことがあって、山形か仙台かで悩んだのです。当時、東京の恵比寿で上場のために株式公開をする業務を担当していましたが、退職後も株式公開するまでは来てほしいとその法人からいわれていたのです。まだ山形新幹線はない時代ですし、市場規模も仙台のほうが大きいということもあり、仙台に石沢公認会計士事務所を開業することを決意しました。平成2年、私が32歳のときのことです。

―― 開業時に顧客はあったのでしょうか。

石沢 当時は顧問先が1件もない状況でした。私の両親はサラリーマンで、商売をやっているわけではありません。
 もともといた監査法人に1年間くらいパートとしてお世話になりながら、仙台の公認会計士の先輩方と交流し、なんとか個人で監査業務を引き続き行っていました。
 税務には監査法人を通じた業務でしか携わっていなかったので、ほとんどノウハウがありませんでした。ましてや、個人事務所として税理士事務所を経営するノウハウなどありません。ですから、税理士の先輩方の事務所を訪問し、大手の税理士グループに入会しました。そこでさまざまなノウハウを学びましたので、仙台の先生方には本当に感謝しています。開業の支援をしていただいたので、この業界に何か返していかなければならないと思っています。

―― 当時、監査業務と税務はどちらが多かったのでしょうか。

石沢 平成2年の開業から、平成15年くらいまでは、個人開業の会計士の先生方との監査業務が多かったですね。年間120日くらいは監査を行っていましたので、事務所にもあまりいませんでした。
 そういった状況がありましたので、税務はそれほど手広くやろうとは思っていなかったのです。ですから、事務所のスタッフもそれほど増やさずに、4~5人の規模で運営してきました。ずっとこの規模で、ある程度安定した事務所経営ができていたのです。
 しかし、開業から既に10年以上が過ぎています。開業当時の社長さんは、50歳、60歳の方がメインでしたが、当然60歳、70歳と年齢を重ねていきます。すると、顧問先のなかから5件ほど廃業してしまう企業が出てきました。
 さらに、当時は税理士法の改正があり、広告規制がなくなったことで本格的な競争原理が持ち込まれた時代でした。競争が激化すれば、顧問料の値下げという圧力につながります。それを乗り越えていくには、やはり営業の拡大をしなければならないだろうと思ったのです。
 このように税務に関する方針転換をしたのが平成16年ころの話です。

費用対効果に優れたシステムの導入で事務所を拡大路線へ

―― 方針転換を図ってからは、どのような活動をされたのでしょうか。

石沢 他の事務所とどう差別化をしていくのか、記帳代行の他にお客様に何を提供していけるのか、という点について考えましたね。例えば、顧問先の決算を診断できるようなツールを入れたりしました。
 さらに、顧問料が下がっていく流れがありますから、顧問先を増やしていかなければなりません。顧問先を増やすには、職員の数も増やさなければ対応できません。
 そうして、事務所の規模を拡大するなかでミロク情報サービス(以下、MJS)を導入しました。

―― なぜMJSを導入されたのでしょうか。

石沢 先ほども申し上げましたが、それまでは大手の会計事務所グループに所属していました。そのグループが提供するシステムを利用するコストは、顧問先が増えれば利用料も比例的に上がるというもので、ボリュームメリットが全くないものでした。
 事務所を経営していくなかで、同じような機能性を持ったシステムであるなら、私としては顧問先が増えれば増えるほど、コストパフォーマンスが上がる、つまりシステム利用のコストが固定費化するようなものにしたいと考えていました。
 そこで、そのグループを退会し、MJSへ乗り換えました。MJSを選択することは、私にとっては必然だったと思います。
 このように事務所の規模を拡大し、現在ではスタッフが15名にまで拡大しました。来年の3月末には、さらに3名が入社する予定ですので18名の体制となります。

拡大戦略を直撃した東日本大震災へ

―― MJSの導入などで石沢先生の事務所は拡大路線を採り、順調に成長されてきたわけですが、そういった時期に東日本大震災が発生しました。石沢先生だけではなく、顧問先まで含めて大変なご苦労をされたそうですが、あらためて、どのように東日本大震災を乗り越えられたのかお聞かせください。

石沢 震災から1年は、とにかく無我夢中で過ごしたという印象です。税の申告、納付の期限が特別に延長されて、期限がないようなものでしたから、とにかく無我夢中で対応していました。
 この時期の段階では、月次の処理というよりも資金繰りの問題に関する相談が一番多く寄せられました。実は私たちの事務所も、2カ月くらい顧問料が入ってこないという状況だったのです。
 私たちは、震災の2カ月ほど前に、地元の大手地銀さんからたまたま融資の申し出があって、そのときは差し迫って必要なわけではなかったのですが「幾(いく)許(ばく)かの金額を借りておくか」という感じで借りていたのです。震災から2カ月はその借入金でなんとかつなぎましたね。
 また、震災の半年前、平成22年の9月には、事務所の隣のスペースが空くという話が出て、確定申告が落ち着いた翌年の6~7月には新たにそのスペースを増床することを決めていたのです。

―― 本当に拡大路線の真っただ中のタイミングだったわけですね。

石沢 やはり成長戦略を進めていくと、どうしてもスペース的に足りなくなってきます。これも私にとってひとつの賭けでした。
 事務所を増床するにあたっては、先行投資として研修ルームが絶対に必要だと考えていました。事務所のなかでセミナーを開催してお客様に見ていただけるようにして、常にお客様との接点を持ちたいと考えていたのです。
 昔の会計事務所というと、マンションの一室のような場所で、セミナーを開くスペースもありませんし、お客様が2組同時に来訪されたときに対応できなかったりするようなところも少なくありません。
 そのようなことを避けるために、2つの会議室とセミナールームが必要だと思っていました。しかし、当然ながら固定費も2倍に増えるわけです。そのぶん顧問先を増やさなければならないわけですが、その確実な当てもないまま震災に遭ったので、本当に大変でしたね。

あらゆる会計ソフトのデータを電子申告につなげる

―― 拡大の戦略を採っていくなかで、石沢先生の事務所が特に得意としたのが医業系のお客様だったそうですね。

石沢 医業系の市場が大きく動いたのは、平成19年前後のことです。医療法が改正され、社会医療法人制度が創設されました。
 私たちは医療法人化することのメリットやデメリットをお話ししていくことで、法人化したいというニーズをくみ取れたのだと思います。
 そのときには、決算状態を診断するソフトが活躍しました。他の事務所と差別化できる商品になっていたのです。こういった商品を持つことは大切だと感じましたね。

―― その他に、使用しているソフトで商品として役に立っているものがあればご紹介ください。

石沢 顧問先が増えていくと、顧問先の自計化を指導していくことが必要になりますので、MJSの「記帳くん」という顧問先向けのソフトを導入しています。
 しかし、全ての顧問先がMJSのソフトを利用しているわけではありません。市販されているコンシューマー向けの会計ソフトを既に導入されている顧問先も多くあります。そういったさまざまなソフトやサービスのデータに職員が対応していくためには、私たちのなかで基幹ソフトをひとつ設定することが必要になります。それがMJSなのです。
 私たちは現在、顧問先のお客様が利用している他のソフトのデータも全てMJSのシステムに取り込んでいます。それは、全て電子申告をすると決めたからです。そして、コストパフォーマンスの面からMJSを選択し、電子申告までつなげるようにしているのです。

25歳差のパートナーと取り組む会計事務所のゴーイングコンサーン

―― 一貫して拡大の戦略を採られているなかで、昨年には税理士法人化に踏み切りました。税理士法人化には当然2人以上の税理士が必要となりますが、社員税理士である田中先生はいつ合流されたのでしょうか。

田中 職員として石沢公認会計士事務所に入ったのは、平成24年の6月のことです。税理士登録したのは平成23年の11月、私が27歳のときでした。当時は、税理士会のメンバーのなかでも最年少でした。

石沢 田中は私よりも25歳若いのですが、若いパートナーである田中とともに動いていくことが、法人化をして末永くお客様と付き合い、会計事務所も継続企業を目指すのだという観点から重要なことだと思っています。
 私自身が開業したのも、32歳と若いころでした。当時の私がうまく付き合えていたのは、年上の社長というよりも2代目の方々でした。
 そう考えると、私は現在58歳になりましたので、若い30代、40代の経営者や2代目が相談できる相手ではないのかもしれないと思っています。もちろん、私のところに相談に来る方もいますが、それでも全員は相談相手に私を選ばず、年の近い人間を選びたいという方もいらっしゃいます。実際に、自分が30代のころに「うちの顧問税理士がこう言うのだが、石沢先生はどう思う?」とセカンドオピニオンを求められることも多くありました。
 そのような意味で、これから2代目や若い経営者のサポートを行っていくのに、田中はちょうどよいパートナーになれるのではないかと思っています。
 これから10年くらいの間に次世代への種をまき、田中を中心とした運営を行う体制を整えていきたいと考えています。そのように積極的に世代交代を進めることで、顧問先の2代目、若手社長も、この事務所を頼りにしてくれるのではないかと考えているのです。

―― 今の石沢先生のお話を聞いて、田中先生はいかがでしょうか。

田中 石沢が話したようなニーズを、私も実際に痛切に感じています。
 現在、私は20以上の顧問先を担当していて、やはり業種としては医業関係のお客様が多いのですが、例えば、医学部に通われている息子さんを、5年後、10年後に自院の医療機関に戻す場合はどうすればよいのか、といった相談はよくあります。
 また、既に経営に携わっている若い2代目の方の場合、社長のいる場ではなかなか聞きにくい「今の数字の意味はどうなのですか?」といった質問を、社長がいないところでぶつけてくることもあります。
 こういった2代目の方の不安や悩みを、私が率先して解決していきたいと思っていますし、そのニーズも感じています。

―― 石沢先生は田中先生とは25歳も年が離れているとのことですが、意思疎通などに問題はありませんか。

石沢 今までにさまざまな職員を採用してきましたが、年が5~10歳くらいの差ですと、どうしても「このくらい知っていて当たり前じゃないのか」と私が厳しい目で見てしまうのです。
 また、今までは私の考え、行動によって顧問先を増やしてきたわけですから、これまでと180度方向転換すると、顧問先はついてこないと思うのです。ですから、私の創業者としての理念を受け継いでくれる人がパートナーになれば、顧問先がずっとついてきてくれるだろうと思っていました。そのような意味で20歳以上離れていたほうが、今はそうでなくても、これからの将来性に期待できるわけです。5歳下の職員ではそうはいきません。
 初めにお話しした通り、私は何のノウハウも持たないで開業し、先輩方に教えてもらった過去がありますので、年が離れているほうが教えやすいのです。10歳下くらいだと「自分で学び取れよ」となってしまいがちです。
 顧問先から見ると、私自身に対する好き嫌いもあるでしょう。でも、税理士法人であれば事務所を替えることなく、税理士は変更できる。ですから、親族関係にこだわらずに、3~4人の税理士が集団的に指導する形を目指したいと思っています。そうすることで、お客様のニーズに応えていきたいのです。これは職員も同じです。職員を増やすことで間口を広げ、あらゆるお客様の好みに応じられる形を取っていきたいですね。

ファミリービジネスをワンストップでサポート

―― ホームオフィス仙台税理士法人というネーミングに込められた思いを教えていただけますか。

石沢 法人名を私の名前にしなかったのは、お客様のファミリービジネスをサポートできる体制を整えていきたいという思いがあるからです。
 ヨーロッパでは、ホームドクターとホームロイヤーの2つに加え、財産管理等のアドバイスを行うバックオフィスを合わせて「ホームオフィス」と古くから呼んでいるそうです。
 これまでの10年間は、顧問先の件数を増やすことを主眼とした拡大路線を歩んできました。しかし、今後10年は、一つひとつのファミリービジネスを中核とし、お客様の「ホームオフィス」として、お客様に寄り添い、共に歩みながらサポートしていきたいと思っています。

―― お客様のホームオフィスとして、ワンストップにサービスを提供していくためにどのようなことが大切だとお考えですか。

石沢 例えば、資産税に取り組んでいく専門チームを持ちたいと考えているのですが、そのために重要なのが記帳代行業務だと私は考えています。
 記帳代行業務は事務所の運営上大切な、固定収入です。記帳代行をやめて資産税にだけ取り組むとなると、職員にとってもストレスになるでしょう。それであれば、記帳代行の部門はそのまま残しておいて、トータルで採算を合わせようということですね。
 また、セミナーを提供していくためにもコストがかかりますから、やはり記帳代行業務は重要です。トータルでサポートするうえで、こういった点が重要になるのではないかと考えています。

―― 事務所の安定のためにも記帳代行がまず基盤として必要だということですね。

石沢 そういった理由ももちろんですが、資産税だけとか、節税のコンサルティングをするだけでは、本当にお客様をサポートできないと思うのです。月次の試算表を経営支援のツールに、身近な相談相手として支えていきたいですね。

―― 本日は貴重なお話をありがとうございました。ホームオフィス仙台税理士法人のますますの発展を祈念しています。

導入事務所様のご紹介

石沢 裕一(いしざわ・ゆういち)

ホームオフィス仙台税理士法人代表社員税理士。石沢公認会計士事務所所長。ワイ・エム・コンサルタント有限会社代表取締役。公認会計士。税理士。昭和33年、山形出身。昭和55年、中央大学商学部会計学科卒。昭和60年、公認会計士登録。平成2年、勤務していた監査法人を退職し、石沢公認会計士事務所を開設。平成26年12月、ホームオフィス仙台税理士法人を設立、代表社員税理士に就任。

田中 良寛(たなか・よしひろ)

ホームオフィス仙台税理士法人社員税理士。昭和58年、青森出身。平成17年東北学院大学経済学部経営学科卒。平成23年、税理士登録。平成24年、石沢公認会計士事務所に入所。平成27年、社員税理士としてホームオフィス仙台税理法人に参画。

ホームオフィス仙台税理士法人 

所在地 宮城県仙台市青葉区大町1-2-16大町カープビル2F
代表者 石沢 裕一
設立 平成2年1月
職員数 14名
得意分野 資産・相続、医院開業・経営、会社経営、税務・会計
URL http://www.hostax.jp/
  • 本事例の掲載内容は取材当時のものです。

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