第71回 退職代行サービスへの対応

2025年12月3日

 近年、本人に代わって退職の意思を企業へ伝える「退職代行サービス」を利用する労働者が、特に若い世代を中心に増加しています。一方で、企業側としては、突然退職代行業者から連絡が入り、本人の退職意思をどのように確認すべきか、退職理由が分からないままどう対応すべきかなど、戸惑うケースも少なくありません。
  そこで今回は、退職代行業者を通じて退職の申出があった場合に、企業が取るべき適切な対応と留意すべきポイントについて解説いたします。

退職代行の法的位置づけ

 退職代行サービスの扱いを考える際に、最も重要な基準となるのが弁護士法72条で定められた「非弁行為の禁止」です。この規定は、弁護士または弁護士法人でない者が、報酬を得る目的で法律に関する業務を行うことを禁じるもので、違反した場合には懲役や罰金が科されます。退職代行の業務は法律事務に該当するケースが多いため、このルールは実務運用に大きく影響しています。
 なお、退職代行を行う主体は大きく次の三つのタイプに分けられます。

(1)弁護士(弁護士法人)

 この場合、弁護士には法律上の代理権があるため、本人に代わって退職の意思表示を行うことはもちろん、退職日や業務引継ぎ、有給休暇の処理などを企業と交渉することも問題ありません。弁護士が「退職代行」という名称を用いる必要はありませんが、サービスのわかりやすさからあえて用いているケースも見られます。

(2)退職代行ユニオン

 労働組合型のサービスで、労働組合法に基づく適法な労働組合は団体交渉権を持ち、退職や業務引継ぎ、貸与物返還といった退職に関連する事項は、企業が応じなければならない事項に該当します。そのため、企業側は団体交渉に応じなければならず、拒否すると不当労働行為となる可能性があります。
 しかし、名称に「ユニオン」を冠していたとしても、実際には労働組合としての主体性・目的・民主性などの要件を欠き、法律上の労働組合と認められない団体も存在します。その場合、団体交渉権は認められず、企業は交渉を拒否することができます。

(3)退職代行業者

 業者が企業と交渉を行う場合、弁護士法72条に抵触する可能性が高く、非弁行為となり得ます。退職に際しては、退職日の調整、有給休暇の取り扱い、貸与物の返還、社宅の明け渡しなど、法律事務に該当するやり取りが通常発生するため、代理権を持たない業者が本人の代わりに交渉を行うことは、原則禁止されているといって良いでしょう。
  一部の業者は「使者」として本人の意思を伝達するだけなので違法ではないと説明していますが、実際に交渉が一切発生しないケースは少なく、実務上は非弁行為と判断される可能性が高いといえます。
 退職代行業者の最大手が、非弁行為を疑われて摘発されたのは、記憶に新しいところです。

 以上のように、退職代行といってもその主体によって法的扱いは大きく異なります。弁護士による退職代行は合法であり、労働組合法上の労働組合が行う場合も企業は団体交渉に応じる義務があります。一方、一般の退職代行業者が交渉を行うことは原則として非弁行為となるため、企業としては相手方の属性を見極め、法に従った適切な対応を取ることが求められます。

企業としての基本対応と留意点

 法的には、無期雇用の労働者は民法627条に基づき、退職の申し入れから2週間で雇用契約を終了できます。退職代行を通じた申し入れであっても、企業に意思表示が到達すれば、本人が申し出た場合と同様に扱われます。
 一方で前述の通り、退職代行業者が弁護士でない場合に未払残業代の計算や退職条件の交渉を行うことは、弁護士法72条に違反する「非弁行為」となるおそれがあります。ただし、単に本人の退職意思を企業に伝えるだけであれば、法律上の代理ではなく“使者”としての行為にとどまり、直ちに違法とはされません。企業としては、退職意思の受領は妨げられないものの、金銭や条件の交渉には一切応じないという明確な線引きが必要です。
 実務上の基本対応としては、まず総務・人事などの窓口を一本化し、連絡があった日時、業者名、伝達内容などを詳細に記録しておきます。そのうえで、可能な限り従業員本人に直接連絡を取り、退職の意思や有給休暇の取得希望、退職理由の背景にハラスメントなどの問題がないかを確認します。本人と連絡が取れない場合であっても、退職意思表示が到達している以上、原則として退職は成立する方向で手続きを進めるのが現実的です。

  • 退職日の決定

 退職日の決定については、特段の合意がなければ「申し入れから2週間後」を目安とします。就業規則に「2か月前までに申し出ること」としていても、法解釈上、退職の自由を過度に制限する規定は無効となる可能性が高いため注意が必要です。

  • 年次有給休暇

 退職時の年次有給休暇については、従業員から取得の申し出があれば原則として認める必要があります。退職時には時季変更権はほとんど行使できないため、有休消化を前提にスケジュールを組むのが基本です。

  • 退職理由

 退職理由は原則として本人都合となりますが、会社側の問題が原因で退職したと認められる場合には、後に「実質的な会社都合」と争われる可能性があるため事実関係の整理は重要です。

  • 懲戒処分や退職金不支給

 退職代行サービスを用いたこと自体や、引継ぎに応じなかったことを理由として懲戒処分や退職金不支給とするのは、行き過ぎた制裁として無効となるリスクが高いといえます。
 懲戒処分や退職金不支給が認められるのは、横領や重大な情報持ち出しなど、企業秩序を著しく乱す行為がある場合と考えておいた方が無難です。
 退職代行利用に対して感情的に反応すると、かえって法的リスクが高まります。

  • 未払い残業代等

 退職代行業者から未払残業代や退職金上乗せなどの「交渉」を持ちかけられた場合、企業は原則として応じるべきではありません。「金銭や条件の交渉には応じられない。請求がある場合は本人または代理人弁護士から連絡がほしい」と明確に伝えるのが適切です。そのうえで、未払賃金が疑われる場合は、企業側で自主的に事実確認と是正を行うことが重要になります。

まとめ

 以上のように、退職代行サービスから連絡が入った場合であっても、法令に基づき淡々と退職手続きを進め、業者との交渉は避けるという対応を徹底すれば、過度に恐れる必要はありません。同時に、このような退職の仕方が選ばれる背景には職場環境の課題がある可能性があるため、従業員が安心して意見を伝えられる職場づくりを進めることが、長期的には最も重要です。

筆者紹介

加藤千博

MJS税経システム研究所 客員研究員
社会保険労務士法人加藤マネジメントオフィス 代表社員
社会保険労務士 加藤 千博
http://www.kmo-sr.jp/

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