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第82回 同一労働同一賃金の厳格化 1
2026年11月4日
2026年10月1日、「同一労働同一賃金」に関する施行規則と告示が改正され、新たなルールの運用が始まりました。この改正は、パート・有期労働者(以下、「パート社員等」という)にも賞与や退職金を一律に支給しなければならない、というものではありません。しかし、「契約社員だから」「正社員だけの制度だから」といった説明だけで待遇差が正当化されるわけでもありません。大切なのは、待遇ごとの性質・目的と、実際の業務内容・責任・配置変更の範囲とを照らし合わせ、不合理な差がないかを項目ごとに点検することです。
2026年10月改正の3つの柱
| 改正事項 | 企業への影響 |
|---|---|
|
雇い入れ時の 明示事項追加 |
待遇差の内容・理由等について説明を求められる旨を、パート社員等に明示。契約更新時も対象。 |
|
ガイドライン 見直し |
裁判例を踏まえ、賞与・退職手当・家族手当・住宅手当・休暇等の例示や考え方を具体化。 |
|
雇用管理指針 見直し |
公正な評価、職業能力開発、意見聴取、説明方法の工夫、正社員転換推進等について明確化。 |
| 改正事項 | 企業への影響 |
|---|---|
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雇い入れ時の 明示事項追加 |
待遇差の内容・理由等について説明を求められる旨を、パート社員等に明示。契約更新時も対象。 |
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ガイドライン 見直し |
裁判例を踏まえ、賞与・退職手当・家族手当・住宅手当・休暇等の例示や考え方を具体化。 |
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雇用管理指針 見直し |
公正な評価、職業能力開発、意見聴取、説明方法の工夫、正社員転換推進等について明確化。 |
法律が新たにすべての待遇を同額化したわけではありません。ただし、会社が待遇差を説明するために点検すべき対象と、従業員との対話の重要性が一層明確になりました。
そもそも同一労働同一賃金とは
パートタイム・有期雇用労働法は、同じ企業に雇用される通常の労働者(一般に正社員)と、パートタイム労働者・有期雇用労働者との間で、不合理な待遇差を設けることを禁止しています。比較対象は同じ企業の通常の労働者であり、賃金だけでなく賞与、手当、休暇、福利厚生や教育訓練なども対象となります。
「均等待遇」と「均衡待遇」を区別する
均等待遇(差別的取扱いの禁止)
職務の内容(業務内容と責任の程度)および職務内容・配置の変更範囲が通常の労働者と同一であれば、雇用形態を理由とする差別的取扱いは禁止されます。
均衡待遇(不合理な待遇差の禁止)
均等待遇に当たらない場合でも、職務内容、変更範囲、その他の事情のうち、個々の待遇の性質・目的に照らして適切なものを考慮し、不合理な待遇差を設けてはなりません。
例えば、正社員は管理職として部下の人事評価やクレームの最終判断を担い、パート社員等は定型業務のみを行う場合、職責を反映した基本給の違いには検討の余地があります。しかし両者が同じ条件で通勤しているのに、通勤費を正社員にだけ支給することは、通勤費補填という趣旨との関係で合理的な説明が難しくなります。
待遇は「総額」ではなく、項目ごとに検討する
年収総額で概ね均衡していることだけをもって、個々の手当の相違が直ちに許されるわけではありません。基本給、賞与、退職手当、無事故手当、家族手当、住宅手当、休暇等について、それぞれ何のための制度なのかを明らかにし、労働者間の相違を確認します。
制度名称が同じでも目的が異なる場合や、逆に名称が異なっても実質的な目的が同じ場合があるため、就業規則・賃金規程と運用実態の両方を確認してください。
改正ガイドラインで押さえるべき待遇別のポイント
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賞与・退職手当――「一律ゼロ」でよいか再点検
賞与・退職手当には、労務の対価の後払い、勤務成績や会社業績への貢献への報償、勤続への功労報償など、複数の性質・目的が含まれることがあります。これらがパート社員等にも妥当するのに、職務内容等の相違に応じた均衡のとれた支給をしない場合、不合理となり得ます。ただし、勤続が長いという一点だけで必ず支給義務が生じるわけでも、正社員と同額にする必要があるわけでもありません。
実務では「賞与は正社員だけ」という支給対象の区分にとどまらず、支給目的、査定項目、勤続・貢献の評価、職責の違いを文書化し、雇用区分ごとに整合性を確認します。退職金も、勤続功労なのか賃金後払いなのかなど、制度の実質から検討します。 -
無事故手当・家族手当・住宅手当
無事故手当について、業務内容が同一の運転業務従事者であれば、同一の無事故手当を支給すべき旨が示されました。家族手当については、契約更新を繰り返すなど相応に継続的な勤務が見込まれるパート社員等には、正社員と同一の家族手当を支給すべきとされています。住宅手当が転居を伴う配置変更を目的とする場合、同様の転居を伴う配置変更がある者には同一の支給が必要です。手当の名称ではなく、実際の支給目的がポイントです。 -
休暇・休職・福利厚生
正社員に夏季・冬季休暇を付与する場合、パート社員等にも同一の休暇を付与すべきとされています。また、病気休職期間に賃金保障を行っているとき、相応に継続的な勤務が見込まれる有期労働者等にも同一の保障が求められます。一定期間勤続した者への褒賞、福利厚生施設の利用料金や割引率等でも不合理な差を設けてはいけません。制度ごとに必要な要件や運用を確認しましょう。
見落としやすい3つの論点
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定年後再雇用も対象
定年後に有期契約で継続雇用した者についても、定年後再雇用という事情だけで待遇差が当然に許されるわけではありません。各待遇の性質・目的に応じ、定年前後の仕事内容、責任、労働時間、転勤可能性、退職金や年金など個別の事情を整理して検討します。 -
「正社員の人材確保・定着のため」だけでは足りない
人材確保・定着は考慮要素となることがありますが、それだけで待遇差が当然に不合理でなくなるわけではありません。将来の役割期待や異動可能性を掲げる場合も、実際の権限、配置変更の実績、職務設計等で具体的に裏付ける必要があります。 -
無期転換社員・多様な正社員
いわゆる無期雇用フルタイム労働者は、パートタイム・有期雇用労働法の直接の対象ではありません。ただし労働契約上の均衡への配慮が求められ、ガイドラインの趣旨を考慮する必要があります。有期から無期へ転換する場面では、従前の不合理な待遇差を放置しないよう点検することが重要です。
企業が最初に行うべき確認作業
- 雇用区分別に、基本給・賞与・退職手当・各種手当・休暇・福利厚生の一覧表を作成する。
- 正社員とパート社員等の実際の業務、責任、異動・転勤の範囲、評価基準を整理する。
- 待遇ごとに目的と支給要件を確認し、差がある理由を具体的に説明できるか点検する。
- 「正社員だから」「昔からの慣行」という説明しかない項目を優先して改善案を検討する。
- 不合理な待遇差の解消は、通常の労働者の待遇引下げではなく、パート社員等の待遇改善を基本に検討する。
まとめ
今回の改正は、すべての待遇を一律にそろえるものではありません。しかし、正社員と非正規社員という名称の違いだけでは、待遇差の説明ができません。各待遇の目的と働き方の実態を照らし合わせ、項目ごとに点検し、根拠を整理することが重要です。
次回は、新たに必要となった雇用契約書・労働条件通知書の明示事項と、説明を求められた場合の具体的な実務対応を取り上げます。
参考資料
・厚生労働省「2026年10月からパートタイム・有期雇用のルールが変わります」
・厚生労働省「パートタイム・有期雇用労働者に関するルールが変わります」
・厚生労働省「同一労働同一賃金」特集ページ
筆者紹介
MJS税経システム研究所 客員研究員
社会保険労務士法人加藤マネジメントオフィス 代表社員
社会保険労務士 加藤 千博
http://www.kmo-sr.jp/
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