株式会社ミロク情報サービス(東京都新宿区)は、会計事務所と中小企業の経営革新を支援するという理念のもと、時代や技術の変化にいち早く対応しながら、新たな製品やサービスを開発・提供し続けてきた財務・会計システムの老舗ベンダーである。新型コロナウイルスの感染拡大により、会計事務所のビジネススタイルが大きな変革を余儀なくされているなか、同社はいち早く在宅勤務、テレワークやオンラインコミュニケーションを推進し、会計事務所と顧問先企業が安心して仕事ができる環境を整備している。さらに、コロナ禍で加速するDX(デジタルトランスフォーメーション)化の動きを見据えたプラットフォームの構築、金融機関や他企業との連携強化による新たなサービスの開発・提供にも力を入れている。コロナ禍におけるミロク情報サービスグループの事業戦略について、同社代表取締役社長の是枝周樹氏に伺った。(撮影 市川法子)

最速の新型コロナウイルス対策を実施
新型コロナウイルスにより、当社のお客様である会計事務所を取り巻くビジネススタイルは、大きな変革を余儀なくされています。例えば、顧問先企業への訪問を前提としたサービスや事務所内での業務など、あらゆる場面で感染対策が求められるようになっています。
当社は、会計事務所の職員と顧問先企業の皆様が安心して仕事ができるよう、コロナ禍以前から推進してきたITによる働き方改革や業務効率化をさらに加速させています。在宅勤務やテレワーク、オンラインコミュニケーション普及の取り組みを一層強化し、非対面でも円滑に業務を遂行できる環境整備に努めています。そして、さらなる業務効率化と生産性向上を実現するソリューションをご提供していきます。
それを踏まえて、当社の新型コロナウイルス感染拡大への対応についてお話しします。
日本で感染拡大の危機感が一気に膨らんだのは、昨年1月下旬の豪華客船における集団感染が報じられてからだと思いますが、当社はそれ以前から、情報はつかんでいました。外国からの入国者数も、週および月ごとに確認していたので、令和元年12月下旬の時点で、日本でも広がるのは時間の問題だという認識を持っていました。
ですから、厚生労働省が新型コロナウイルス感染症を二類感染症に指定した令和2年1月末に先立つ1月下旬に、ウイルスを通さないN95というマスクとサージカルマスク約10万枚を全社員に配りました。これは、平成21年の新型インフルエンザの大流行を教訓に、パンデミック対策として備蓄していたもので、3カ月間稼働できる量です。
また、マスクの配布と同時期に、全事業所にゴーグルや体温計を支給しています。
二類感染症に指定されてからは、国のガイドラインに準じた施策を打ち出していきました。具体的には、各拠点に消毒用アルコールを配布し、検温とアルコール消毒を徹底させました。
並行して、全社でテレワークと時差出勤を導入し、密を回避するため在宅勤務も進めました。令和2年4月の緊急事態宣言発出以降は、100%在宅勤務に移行すると同時に、テレワークの効率アップも図りました。

もちろん、自社で販売しているテレワーク・BCP対策ソリューションの製品もフル活用し、テレワークの効率化を図っています。遠隔パソコン操作ツール「iCompassリモートPC2」と、遠隔パソコンサポートツール「iCompassコミュニケーション」です。
「iCompassリモートPC2」は、RSUPPORT社の「RemoteView ASP Enterprise」上で提供しているサービスです。自宅から(基幹システムと連動している)会社のパソコンに接続できるので、在宅で契約書の入力も行えます。契約書を作るためだけに出社していた頃と比べ、業務効率が格段に上がりました。
「iCompassコミュニケーション」は、同じくRSUPPORT社の「RemoteCall」の当社における製品名で、システムサポートで活用しています。これも同様に、自宅から会社のシステムに入ってチェックや修正などが行えるので、問い合わせ対応などにも使えます。
これら自社で販売している製品を活用している場面を見て興味を持たれたお客様が、ご自身も使い始めるという副次効果も得られています。
また、マスクの補充も予定どおり、N95並みの高性能マスクを10万枚入手できたので、昨年12月に配布しました。これで3カ月は持つでしょう。
検査に関しても、希望者全員に抗体検査を受けてもらっています。
会計事務所と中小企業に向けたサポート
ファイナンスサービス開発への取り組み
われわれはそこに焦点を当て、銀行に対して新たなソリューションをご提供します。銀行による経営指導にプラスアルファする形で、ファイナンス支援を行っていく予定です。
返済しながら追加融資を取り付けていくには、かなり知恵を絞らなければならないでしょう。銀行の貸出残を考えると、なかなか厳しい状況です。引きはがしになれば中小企業は倒産してしまいますので、それを回避するための準備を進めているところです。
具体的には、令和3年春までに、ほぼ全ての地方銀行やネット銀行とのAPI連携を目指します。そのプラットフォームを通じ、既存の製品とサービスの利便性向上を図り、事業規模を拡大していくとともに、API連携によって実現する新たなファイナンスサービスを展開していきます。
こちらの事業については58行と協業契約を交わしており、地域金融機関、会計事務所様と協力しながら、地域中小企業の事業承継・事業継続を支援していきたいと考えています。

会計事務所と顧問先企業向けシステムの拡充
具体的には、2本の柱からなる体制づくりを進めます。ひとつは、MJS本体において財務、会計、税務、人事の既存事業を軸に、さらなるイノベーションを図っていくことです。もうひとつは、デジタルトランスフォーメーション(DX)の概念を取り入れたプラットフォームを構築し、デジタルマーケティング支援に取り組んでいくことです。
これは、会計事務所向け基幹業務パッケージ「ACELINK NX-Pro 会計大将」のデータと連携して、クラウド上でチェックするソフトです。監査精度の向上、業務の効率化、月次・年次決算の早期化を実現します。
同様に、昨年10月に販売を開始した「MJS かげ地計算」も拡充します。こちらは、不整形地の土地評価実施にあたり、評価対象地の画像データをもとに想定整形地を自動表示し、かげ地割合を算出するシステムです。
これら以外に、マルチデバイスに対応した給与明細参照、年末調整申告支援、勤怠管理、経費精算などの業務管理クラウド「Edge Tracker(エッジトラッカー)」や、小規模事業者向け会計・給与ソフト「かんたんクラウド」などの機能強化も進めていきます。
なお、昨年8月に提供を開始した「MJS DX Cloud」は、Microsoft Azureに対応したMJSのクラウドERPです。これにより、MJSのオンプレミス製品を、クラウド環境下で利用できるようになりました。

会計事務所のDXを推進する「MJS DX」構想
同社が構築したDXプラットフォームを使って、中小企業向けの販売支援およびビジネスプラットフォームづくりを推進する計画です。
MJS本体で訪問販売による業績をしっかり確保しつつ、子会社連合においてデジタルビジネスプラットフォームを立ち上げ、そのなかでDX化を推進して、グループ全体がデジタルマーケティングにシフトしていくという組織再編の構想を描いています。
そこで、われわれは「業務改革」「安定した基盤」「付加価値の向上」の3つの柱からなる「MJS DX」を通じて、会計事務所におけるDXの推進に取り組んでいきます。
「業務改革」では、MJSシステムの活用により効率化を超えた改革を目指します。具体的には、月次決算の早期化、顧問先情報の一元化、人的リソースの有効活用などが挙げられます。
この「業務改革」を起点に、「安定した基盤」を構築します。セキュリティー対策の強化や柔軟な働き方への対応、非接触コミュニケーション環境の整備などによって、盤石のビジネス基盤を構築するわけです。
この基盤上で、データを活用した「付加価値の向上」によって、会計事務所の新たなビジネス創出を支援します。データを活用することで、事務所の収益を見える化し、顧問先企業の経営を全般的にサポートして、未来につながる会計サービスが提供できるようになります。
このように、最新のテクノロジーを活用したサービスの提供により会計事務所と顧問先企業の関係を強化し、会計事務所の新たなビジネスモデルを創出するのが「MJS DX」です。
また、2年後のインボイス制度の導入を視野に入れたデジタル化の推進も加速させます。膨大なインボイス(適格請求書)を処理するのは会計事務所の役割になると思いますが、人海戦術では対応できません。
そこで、デジタル化をどう支援していくかが重要になります。現在、中小企業で利用されているクラウドは、大手3社のサービス(Amazon Web Services、Microsoft Azure、Google Cloud Platform)が入り乱れ、三者三様の部分最適という状況です。これを全体最適化するために、他社のクラウドでもソリューションが提供できるようなプラットフォームを構築する必要があります。

2025年度に向けた事業計画
そのなかで、最も注力しているのが「bizsky(ビズスカイ)プラットフォーム事業」の拡張です。「bizsky」は、当社が開発した中小企業の経営課題を解決する総合的なソリューションプラットフォームです。今後は、金融機関との情報連携によって、さまざまなファイナンスサービスを提供する仕組みを構築し、経営支援の総合プラットフォームに育成していくことを目指しています。
具体的なファイナンスサービスとしては、会計事務所が中小企業のCFOの役割を担い、資金繰りBPOサービスを提供できる仕組みを想定しています。
昨年10月には、送金アプリ「pring(プリン)」を展開する株式会社pring(東京都港区)と資本業務提携し、これから急速に進展するであろうデジタル社会において、顧客ニーズに即した新たなサービスの開発、提供を目指し、共同で研究開発を開始しています。
一方、「pring」はチャット感覚でお金を「おくる、もらう、払う、チャージする、もどす、投げ銭する」ことができる送金アプリです。
われわれはpring社のプラットフォームを使い、当社が行っている振込支払業務代行サービス「楽たす振込」における振込手数料のさらなるコスト低減を検討しています。
「楽たす振込」は、安価な振込手数料と業務効率化支援が支持され、年間取扱高は3000億円を超えていますが、近い将来、規制緩和によって振込手数料は下がるでしょう。そのときに備え、われわれも振込手数料をさらに下げるためのプラットフォームを用意しなければなりません。
このような連携は今後、一層強化していきたいと思っています。
5月29日には、当社グループの株式会社 MJS Finance & Technologyが、店舗内現金の管理・流通効率化などを行うスパイス株式会社(東京都目黒区)を子会社化しました。
提携では、OLTA株式会社と株式会社新生銀行が共同で設立し、オンライン完結型ファクタリングサービス「anewクラウドファクタリング」を提供するanew合同会社との業務提携(8月)、オンライン学習サービスやワンストップ契約サービスなどを提供する株式会社サイトビジット(東京都千代田区)との業務提携と電子契約・契約管理サービス「NINJA SIGN(ニンジャサイン)」の提供開始(9月)、AIを活用したクラウド型リーガルテックサービス「り~が~るチェック」を提供する株式会社リセ(東京都渋谷区)との資本業務提携(11月)などが挙げられます。

コロナ禍に苦しむ中小企業を会計事務所とともに支援
われわれは、そのような国家の存続に関わる会計事務所の使命を、さまざまなコンテンツやプラットフォームを提供しながらバックアップしていくことで、共に日本経済の発展に寄与していきたいと願っています。

本件に関するお問い合わせ先
- 株式会社ミロク情報サービス 営業推進部
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