第36回 健康診断の実施ルール

2023年1月11日

 労働者を雇用している事業者は、常時使用する労働者に対して、年に1回以上、医師による健康診断を実施しなければならないことになっています(労働安全衛生法(以下「安衛法」という)66条1項)。また、該当する労働者は、必ず健康診断を受診しなければなりません(安衛法66条5項)。そして健康診断の結果は、事業者が健康診断個人票として記録しておかなければなりません(安衛法66条3項)。

 以上のように健康診断に関しては法律で規定されていますが、「受診したくないという従業員に強制して良いのか?」「診断結果は個人情報だから会社に見せたくないという従業員がいるが、どうすればよいか?」「健康診断は従業員に任せているので、結果も個人が保管しているがそれではだめか?」など、筆者への問い合わせが多く寄せられています。そこで今回は、この健康診断の実施ルールについて解説いたします。

1.健康診断の対象者

 健康診断の対象者は、「常時使用する労働者」となりますが、パート労働者等の短時間労働者の場合は、次の①と②のいずれも満たす場合に「常時使用する労働者」に該当します。

  1. 期間の定めのない契約により使用される者であること。なお、期間の定めのある契約により使用される者の場合は、1年以上使用されることが予定されている者、及び更新により1年以上使用されている者(なお、特定業務従事者(図表1参照)の健康診断の対象となる者の雇入れ時健康診断については、6ヶ月以上使用されることが予定され、又は更新により6ヶ月以上使用されている者)
  2. その者の1週間の労働時間数が同じ事業場において同種の業務に従事する通常の労働者の1週間の所定労働時間の4分の3以上であること

2.健康診断の種類

 事業者が実施すべき健康診断は、通常は雇入れ時と定期健康診断のみですが、特定業務従事者や、海外派遣に一定期間派遣される労働者、給食の業務に従事する労働者らは通常の健診に加えて、図表1の通り健診や検査が必要となります。

(図表1)

(出典:厚生労働省リーフレット「健康診断を実施しましょう」)

(図表2)※1:労働安全規則第13条第1項第2号に掲げる業務は、以下の通りです。

(出典:前掲書)

 一般健康診断については、特に所定労働時間内に実施する義務はありませんが、できるだけ労働者の便宜をはかり、所定労働時間内に行う方が望ましいでしょう。なお、図表3の特殊健康診断については、所定労働時間内に行わなければならず、時間外などに実施すれば、その時間について割増賃金を支払う必要があります。

 図表3に記載されている有害な業務に従事する労働者に対しては、原則として、雇入れ時、配置替えの際及び6ヶ月以内ごとに1回(じん肺健診は管理区分に応じて1~3年以内ごとに1回)、それぞれ特別の健康診断を実施しなければなりません。

(図表3)

(出典:前掲書)

3.一般健康診断の項目

 雇入れ時の健康診断及び定期健康診断の項目は、図表4の通りです。ただし、定期健康診断については、一部、医師が必要でないと認めるときは省略することができます。(図表4の※2)

(図表4)

(出典:前掲書)

4.一般健康診断の費用負担

 一般健康診断に要する費用に関しては、法律で義務付けられている以上、会社が負担するべきものとされています。厚生労働省の通達では、「健康診断の費用については法で事業者に健康診断の実施の義務を課している以上、当然会社が負担すべきものである」(S47.9.18基発第602号)とされており、健康診断に要する費用には、労働者が健康診断を受診のために医療機関に出向く交通費等も含まれると解されています。ただし、会社が負担すべき費用は、法定項目(図表4)に限り、労働者が自ら選択した任意の項目については会社が負担する必要はありません。また、筆者にもよく問い合わせが寄せられるのですが、一般健康診断によってさらに精密検査が必要になった場合も同様に、その検査費用については会社が負担すべきものではありません。

5.健康診断実施後の措置

  1. 健康診断の結果の記録
     健康診断の結果は、「健康診断個人票」を作成し、それぞれの健康診断によって定められた期間、保存しておかなくてはなりません(安衛法66条3項)。健診機関によっては、健診結果の通知書が「健康診断個人票」となっている場合があり、その場合はそのまま保管しておけば問題ありません。
  2. 健康診断の結果についての医師等からの意見聴取及びその後の措置
     健康診断の項目に異常の所見のある労働者について、医師(歯科医師による健康診断については歯科医師)の意見を聞かなければなりません(安衛法66条4項)。また、医師又は歯科医師の意見を勘案し必要があると認めるときは、作業の転換、労働時間の短縮等の適切な措置を講じなければなりません(安衛法66条5項)。
  3. 健康診断の結果の労働者への通知
     健康診断の結果は、労働者に通知しなければなりません(安衛法66条6項)。健康診断を労働者が個々に受診し、直接労働者宛に結果が通知された場合は、その写しを会社に提出してもらわなければなりません。その際に「個人情報だから提出したくない」と拒まれたとしても、会社としては提出を求めて「健康診断個人票」の作成・保管が必要となります。そのような事態を避けるためにも、事前に十分に説明したうえで健康診断を実施させるべきです。
  4. 健康診断の結果に基づく保健指導
     健康診断の結果、特に健康の保持に努める必要がある労働者に対し、医師や保健師による保健指導を行うよう努めなければなりません(安衛法66条7項)。
  5. 健康診断の結果の所轄労働基準監督署への報告
     定期健康診断の結果は、遅滞なく所轄労働基準監督署に提出しなければなりません(※3)(安衛法100条)。

※3:定期健康診断、特定業務従事者の健康診断、海外派遣労働者の健康診断、歯科医師による健康診断の健診結果報告書については、常時50人以上の労働者を使用する事業者、特殊健康診断の結果報告書については、健診を行った全ての事業者

6.まとめ

 まだまだ健康診断を軽く考えている事業者や労働者を見かけますが、法律で定められている以上、労働者が拒んだとしても必ず受診してもらわなくてはなりません。ただし、労働者が他の医師による健康診断を希望し、その結果を証明する書面を提示すれば、重ねて行う必要はありません。

 ただ、法律で定められているからという理由だけでなく、健康の確保の大切さ、そのための健康診断の重要性などについて日ごろから労働者に説明しておくことが大切です。

課題や導入に関するご相談など承っております。

まずはお気軽にお問い合わせください。

資料請求はこちら