第37回 月60時間超の割増賃金率の引上げ1

2023年2月1日

 使用者は労働者に法定労働時間を超えて労働(法定時間外労働)させた場合は、その時間について通常の賃金の25%以上の割増賃金を支払わなくてはなりません(労働基準法37条)。また、2010年4月1日以降、法定時間外労働の合計が月60時間を超えた場合は、その時間については通常の賃金の50%以上の割増賃金を支払わなくてはならないことになっています。ただし割増賃金率50%は、当面の間、中小企業(図表2参照)には適用しないという猶予措置がとられていました。この猶予措置が、働き方改革の一環として2023年3月31日をもって撤廃されます。2023年4月1日からは全ての企業において、大企業と同様に50%の割増賃金の支払いが義務付けられます。(図表1参照)

 そこで今回と次回の2回にわたり、月60時間超の残業割増賃金率の引上げについて、引上げ分の割増賃金の代わりに付与する代替休暇制度、実務上の問題点等について解説いたします。

(図表1)

(出典:厚生労働省リーフレット「月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられます」)

(図表2)

(出典:前掲書)

1.具体的な算出方法

 各企業ごとに定められた賃金計算期ごとに、その期間の初日から法定時間外労働をした時間をカウントしていく必要があります。図表3では、23日に法定時間外労働が60時間に達しているので、翌日の24日以降、法定時間外労働した時間には50%の割増率が適用されます。ただし、実際には1日の途中で法定時間外労働が60時間を超過することもありますので、注意が必要です。

(図表3)具体的な算出方法の例

(出典:前掲書)

割増賃金率

●法定時間外労働(60時間以下) カレンダー白色部分 =25%
●法定時間外労働(60時間超)  カレンダー緑色部分 =50%
●法定休日労働         カレンダー赤色部分 =35%

 また、月60時間のカウントには、法定休日に労働した時間は含まれません。例えば、土日休みの会社で日曜日が法定休日の場合、土曜日の労働分は月60時間にカウントされますが、日曜日の労働分はカウントされません。なお、深夜(22時から5時)に労働した場合は当然に深夜労働割増の25%が加算されますので、60時間超の時間外労働が深夜時間に及んだ場合は75%の割増率になります。

2.具体的な計算例

 次に具体的な計算例にて、改正前と改正後でどのような差が生じるのかを示したいと思います。例として、基本給+手当が256,000円、月平均所定労働時間160時間の労働者が、月80時間の時間外労働をしたケースで実際に計算をしてみます。

<改正前>
●時間単価 256,000円÷160時間=1,600円
●割増賃金 1,600円×1.25×80時間=160,000円
●合計支給額 256,000円+160,000円=416,000円

<改正後>
●時間単価 256,000円÷160時間=1,600円
●割増賃金(1,600円×1.25×60時間)+(1,600円×1.5×20時間)=168,000円
●合計支給額 256,000円+168,000円=424,000円

 上記の通り、このケースでは改正前と改正後では8,000円の差が生じることになります。金額だけ見るとあまりインパクトはないかもしれませんが、法定時間外労働が著しく多い企業にとってはかなりの負担増となることが予想されます。

 次回は、引上げ分の割増賃金の代わりに付与する代替休暇制度や実務上の問題点等について解説いたします。

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