第48回 2024年問題(自動車運転業務の労働時間規制)

2024年1月10日

 2019年4月に施行された働き方改革関連法において、「時間外労働の上限規制」が大企業では2019年4月から、中小企業では2020年4月から適用されましたが、諸般の事情から4つの業種(自動車運転業務、建設事業、医師、鹿児島県及び沖縄県における砂糖製造業)については適用を5年間猶予され、新技術等の研究開発業務は適用を除外されました。

 マスコミ等で騒がれている「2024年問題」とは、5年間猶予された業種に、2024年4月1日から「時間外労働の上限規制」が適用されることで生じる様々な問題のことをいいます。

 今回は、これら4業種の中から自動車運転業務(物流・運輸)の「時間外労働の上限規制」と「改正改善基準告示」について解説いたします。

時間外労働の上限規制

 すでにほとんどの企業に適用されている時間外労働の上限は図表1の通りですが、自動車運転業務については、次の通り制限が緩和されています。

  1. 原則として月45時間、年360時間
  2. 臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合(特別条項)は、年960時間

 月々の時間外労働の上限時間の目安としては80時間となりますが、100時間以上になったとしても、月ごとの制限が設けられていないため、他の月で調整して年間960時間に収めれば良いことになります。

(図表1)時間外労働の上限

  1. 原則として月45時間、年360時間
  2. 臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合(特別条項)
    • 年720時間以内
    • 月100時間未満
    • 2~6か月平均80時間以内
  3. 原則である月45時間を超えることができるのは、年6か月まで

改善基準告示

 自動車運転業務においては、上記「時間外労働の上限規制」に加えて、ドライバーの労働時間等の労働条件の向上を図るため、労働基準法では規制することが難しい拘束時間(実労働時間+休憩時間)や休息時間(勤務間インターバル)、運転時間等の基準を定めた「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(改善基準告示)」(厚生労働大臣告示)も遵守しなければなりません。
 「改善基準告示」は、トラック運転者、バス運転者、タクシー・ハイヤー運転者、それぞれに細かく基準が設けられています。その中から、トラック運転者の「改正改善基準告示」(図表2)について、ポイントを絞って解説いたします。

(図表2)トラック運転者の改正改善基準告示の主な内容

(出典:公益社団法人北海道トラック協会リーフレットを加工)

 1か月の拘束時間は時間外労働及び休日労働を含め、原則月284時間です。繁忙期の対応では、最大月310時間まで延長することができます。また、1日当たり、1週当たりの運転時間も定められていますので、これらの基準を考慮して、上限時間を上回ることのないように配送計画を立てなければなりません。
 特に長距離輸送貨物輸送の場合、無理な到着時刻を設定し、拘束時間の全てを運転時間にしてしまうと、告示違反になる場合があります。告示違反となった事業者は行政処分の対象となりますので注意が必要です。とはいえ、トラック事業者の努力だけでは難しい側面もありますので、告示違反となるような長時間の荷待ちが疑われるような場合は、労働基準監督署から荷主に対して「要請」を行ったり、厚生労働省から国土交通省に情報提供を行い、国土交通省から荷主等に対して法に基づく「働きかけ」等を行うことになっています。

時間外労働の上限規制がもたらす影響

 物流・運輸業界は、現在の仕組みではドライバーの労働が売上に直結しますので、時間外労働が規制されることで、ドライバーの売上、さらには会社の売上も減少する可能性が高いといわれています。仮に全ドライバーが法定通りの拘束時間を守ったとすると、およそ3割の荷物が輸送できなくなるという試算もあります(法定に従って274時間以内を目安とした場合、およそ3割のドライバーが時間超過しているため=図表3参照)。
 荷主にとっては、必要なタイミングで商品を調達できないなど、今まで通りの柔軟な対応ができなくなる可能性があります。また、すでに物流コストの上昇は避けられないといわれており、最終的には消費者の負担増に繋がることになるでしょう。
 以上のように、ドライバーの労働時間規制は、単に労働時間の問題だけに留まらず、多くの業界や消費者に影響を及ぼす深刻な問題といえます。

(図表3)トラックドライバーの1か月の拘束時間

(出典:厚生労働省「自動車運転者の労働時間等に係る実態調査結果(概要)」)

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