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第76回 在職老齢年金制度の改正と実務上のポイント
2026年5月13日
60歳以降も会社に勤務し、厚生年金保険に加入しながら老齢厚生年金を受け取る人については、在職老齢年金制度によって、給与や賞与の額によって年金が減額される可能性があります。そのため、「年金が減らない範囲で働きたい」という意向から、勤務時間や賃金を抑える、いわゆる働き控えが生じることがあります。
しかし、少子高齢化が進み、企業の人手不足が深刻化する中で、経験や技能を持つ高齢者に引き続き活躍してもらうことは、企業経営上も重要な課題となっています。
そこで、2026年4月から、在職老齢年金の支給停止調整額が見直され、年金が減額される基準が大きく引き上げられることになりました。
今回は、この在職老齢年金制度の見直しの内容を中心に解説いたします。
1.在職老齢年金制度とは
在職老齢年金制度とは、老齢厚生年金を受給しながら厚生年金保険に加入して働く人について、賃金と年金額の合計が一定額を超える場合に、老齢厚生年金の一部または全部が支給停止される仕組みです。
在職老齢年金の対象となるのは、老齢厚生年金を受ける権利があり、かつ厚生年金保険の適用事業所で働いている人です。正社員に限らず、パートタイマーやアルバイトであっても、厚生年金保険に加入しながら働く人は対象となります。
また、70歳以降であっても、厚生年金保険の適用事業所で働いて いる場合には、在職老齢年金制度による調整の対象となります。支給停止の判定では、「基本月額」と「総報酬月額相当額」を合計し ます。基本月額とは、加給年金額を除いた老齢厚生年金の年額を12で割った金額です。
一方、総報酬月額相当額とは、毎月の標準報酬月額に、直近1年間の標準賞与額を12で割った額を加えたものです。したがって、毎月の給与だけでなく、賞与も含めて判断する必要があります。
なお、支給停止の対象となるのは老齢厚生年金であり、老齢基礎年金は原則として対象になりません。
2. 2026年4月改正の内容
前述のとおり、在職老齢年金制度では、基本月額と総報酬月額相当額の合計(以下「合計額」という)が支給停止調整額を超えると、その超えた部分の2分の1に相当する額が、老齢厚生年金から支給停止(減額)されます。
改正前は、この支給停止調整額が51万円でしたので、たとえば、合計額が56万円であれば、超過額5万円の2分の1である2万5,000円が支給停止されました。
この支給停止調整額が、2026年4月より月51万円から月65万円に大幅に引き上げられたのです。
改正後は、合計額が65万円以下であれば、老齢厚生年金は支給停止されず、全額支給されます。先ほどの例と同じく合計額が56万円の場合、老齢厚生年金は減額されることなく全額支給されます(下記図表参照)。
3.企業への影響と実務上のポイント
中小企業では、高齢従業員が技能承継、若手指導、顧客対応、現場管理などで重要な役割を担っているケースが多くあります。そのような人材が、年金減額を理由に勤務時間を抑えたり、早期に退職したりすることは、企業にとって大きな損失です。
今回の改正により、高齢者は従来よりも年金減額を気にせず働きやすくなり、企業側も、定年後も働き続ける従業員に対して、より柔軟な勤務形態や報酬設計を提案しやすくなります。
また、再雇用制度や嘱託社員制度を設けている会社では、賃金規程や再雇用契約書の内容を確認し、職務内容や責任に見合った処遇となっているかを見直すことも重要です。
ただし、対象となる高齢従業員に説明する際には、「年金がいくらカットされずに済むか」だけでなく、給与、賞与、年金、税金、社会保険料を含めた手取り全体で考えるべきでしょう。
4.まとめ
この改正は、高齢者の働き控えを緩和し、働きたい人がより働きやすい環境を整えることを目的としています。企業にとっても、経験豊富な高齢者を継続的に活用し、人材確保や技能承継につなげるための重要な契機となります。今回の改正を機に、定年後や再雇用後の働き方を見直し、高齢従業員が安心して能力を発揮できる制度設計を進めることが、今後の労務管理上ますます重要になるでしょう。
筆者紹介
MJS税経システム研究所 客員研究員
社会保険労務士法人加藤マネジメントオフィス 代表社員
社会保険労務士 加藤 千博
http://www.kmo-sr.jp/
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