熱中症対策費用、どう考える? 中小企業が向き合う夏の課題
2026年7月3日
質問
建設業を営む「MJS建設」では、熱中症対策にかかる費用が発生しています。企業経営において、この費用の捉え方として最も適切なものは、次のうちどれでしょうか?
パターン1
売上に直接つながりにくいため、法令に違反しない範囲で、できるだけ抑えるべきである。
パターン2
欠勤や作業遅延などによる負担の増加を防ぐため、効果を考慮しながら支出すべきである。
パターン3
熱中症対策は安全面の問題であり、企業経営や会計の視点から考える必要性は低い。
この質問をイメージして以下のストーリーをお読みください。
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夏の暑さを乗り越える建設会社
「MJS建設」は、地元密着型の中規模建設会社です。公共工事と民間工事のバランスがよく、地域での信頼も厚いため、近年は安定して受注を確保しています。現場運営も順調で、堅実な経営を続けています。
暑いシーズンに備えて、空調服を確認しました

現場責任者

社長
ありがとう。スポットクーラーの点検も頼むよ
現在は、夏場の熱中症対策に取り組むMJS建設ですが、3年前はそうした対策が十分とは言えない状況にありました。
3年前 ~熱中症対策は“痛い出費”?
3年前、費用の内訳データを眺めていたMJS建設の社長は、経理部長を呼び出しました。

社長
今月は費用が多いようだが、なぜだい?
これから暑い季節になるので、冷却グッズを購入したんです

経理部長

社長
熱中症対策の費用か
昨今の夏場の猛暑により、職場における熱中症リスクは以前よりも高まっています。建設業や運送業、製造業はもちろん、倉庫、厨房、工場、空調の効きにくい作業場など、熱中症を引き起こしやすい環境を抱える会社では、対策を講じる必要性が高まっています。
こうした状況を踏まえ、国もさまざまな取り組みを進めています。2025年6月には改正労働安全衛生規則が施行され、一定の条件に当たる作業について、事業者に熱中症リスクが高い作業に対して、適切な管理や措置を講じることが求められることが、より明確化されました。対象の目安は、WBGT(※)28度以上または気温31度以上の環境で、継続して1時間以上または1日4時間を超えて行われることが見込まれる作業です。規則では、熱中症の自覚症状がある人や、そのおそれがある人を見つけた人が報告するための体制を整え、あわせて、作業からの離脱、身体の冷却、必要に応じた受診や搬送などの手順をあらかじめ定めて、関係者に周知しておくことが求められています。
※WBGT…暑さ指数。気温だけでなく、湿度や日射・輻射熱なども踏まえて熱中症の危険度を示す指標。
さらに、2026年3月には厚生労働省が「職場における熱中症防止のためのガイドライン」を策定しました。ガイドラインでは、法令上の最低限の対応だけでなく、熱中症防止のための労働衛生管理体制の確立、作業環境管理、作業管理、健康管理、労働衛生教育などを含め、事業者が業種や業態に応じて適切な対策を選択して講じることが望ましいとされています。
・厚生労働省「職場における熱中症対策の強化について(2025年6月1日施行)
・厚生労働省「職場における熱中症防止のためのガイドライン

社長
必要性はわかるが費用がかかり過ぎじゃないか。熱中症対策をしても売上が増えるわけではないよな
お気持ちはわかりますが……

経理部長
質問
建設業を営む「MJS建設」では、熱中症対策にかかる費用が発生しています。企業経営において、この費用の捉え方として最も適切なものは、次のうちどれでしょうか?
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パターン1
売上に直接つながりにくいため、法令に違反しない範囲で、できるだけ抑えるべきである。
パターン2
欠勤や作業遅延などによる負担の増加を防ぐため、効果を考慮しながら支出すべきである。
パターン3
熱中症対策は安全面の問題であり、企業経営や会計の視点から考える必要性は低い。
熱中症対策は、短期的にはコストの増加を伴います。しかし、このコストを惜しんで適切な対策を行わずに、従業員が熱中症を起こした場合、欠勤や作業遅延、現場の混乱、追加対応などを招き、全体としてさらに企業の負担が大きくなるおそれがあります。
熱中症対策は、短期的にはコストの増加を伴います。しかし、対策を講じることで、欠勤や作業遅延、現場の混乱、追加対応などを防ぐことができれば、全体として企業の負担を抑えることにつながります。そのため、効果も考慮しながら必要な支出を行うという考え方が、企業経営の視点から最も適切です。
熱中症によって従業員の体調不良や欠勤が生じれば、人件費の増加、作業効率の低下、納期への影響などを引き起こすおそれがあります。場合によっては、大きな機会損失につながる可能性もあります。そのため、熱中症対策は安全面だけの問題として捉えるのではなく、経営や会計の視点からも考える必要があります。
車両点検は、将来の追加費用や損失を避けるための備え
社長と経理部長が話しこんでいるところに、現場責任者が通りかかりました。

社長
お疲れさま! この時間に本社で会うのは珍しいね
車両の定期点検の打合せで、本社に寄ったんですよ。これから現場です

現場責任者

社長
そうか。車両は現場の要だからな。よろしく頼むよ
点検は面倒に思えますが、怠って故障すれば、修理費だけでなく作業の遅れも生じますからね

現場責任者
本当にそうですね。万が一事故になれば、作業の中断や取引先への対応など、影響が一気に広がりますしね

経理部長

社長
確かにそうだ。……熱中症対策も、それと似ているかもしれないな
空調服やスポットクーラーの導入、飲料や冷却グッズの購入、休憩場所の整備、空調設備の増強など、具体的な熱中症対策を講じるには、どうしても費用がかかります。しかも、こうした支出が売上の増加にそのまま結び付くわけではありません。そのため、必要性は理解していても、“痛い出費”として受け止められがちです。
しかし、その支出を惜しむと、従業員の体調不良や欠勤、作業効率の低下、納期の遅れ、追加対応の発生などを招き、かえって費用の増加や大きな損失の発生につながるおそれがあります。そう考えると、熱中症対策にかかる費用は、単なる短期的なコスト負担として捉えるだけでは足りないといえます。
熱中症対策費用は、将来の負担増加を防ぐ支出でもある
熱中症対策を後回しにした場合に生じうる不利益は、小さくありません。従業員の体調不良や欠勤が生じれば、その日の作業計画は崩れます。作業の遅れを取り戻すために、残業や追加対応が必要になることもあるでしょう。納期遅延や品質低下が起きれば、取引先への対応に追われるほか、信用面や人材確保への影響も無視できません。
こうした影響は、たとえば、
・欠勤などを補うことによる人件費の増加
・作業効率の低下による生産性の悪化
・納期遅延に伴うさまざまな経費の増加
・クレームや信用低下に伴う売上や受注の減少
など、さまざまな形で現れます。
熱中症対策を講じなければ、対策のための費用は抑えられます。しかし、従業員が実際に熱中症を発症すれば、追加的な人件費や経費の発生、売上や受注の減少といった形で、かえって損益へのマイナスの影響が大きくなるおそれがあるのです。
熱中症対策は、車両点検と同じで、怠れば全体としての費用の増加や損失発生の一因となる可能性があります

経理部長

社長
なるほど。熱中症対策にかかる支出は、単なるコストというよりも、将来、より大きな費用や損失が生じることを防ぐための備えという側面がありそうだね
熱中症対策にかかる支出は、短期的には痛手に見えるかもしれません。しかし、これを怠った結果、欠勤、現場の混乱、納期遅延などが生じ、さまざまな費用や損失が発生するのであれば、あらかじめ対策を講じておくほうが、全体では安く済む場合があります。
また、熱中症対策を行わなかったことで重大なトラブルや事故につながれば、信用の低下を招き、本来得られたはずの売上や受注を逃すおそれもあります。
建設業の現場は、ただでさえ人手が不足しています。万が一、現場の安全管理や働く環境の整え方に問題があると思われれば、良い人材を確保しにくくなるおそれもありますよ

現場責任者
無理なく続けるには、優先順位を見極めることが大切
もちろん、当社のような中規模の会社では、熱中症を防ぐために多額の費用をかけられるわけではありません

経理部長

社長
そうだね。では、どのような考え方で対策を講じていくべきだろうか
労働安全衛生規則が求めているのは、少なくとも、熱中症のおそれがある作業について、報告体制を定め、異常時の対応手順を決め、関係者に周知しておくことです。これは、必ずしも大きなコストをかけなくても取り組める対策です。連絡先を明確にする、体調不良時に誰へ報告するかを決める、緊急時の対応フローを共有するといったことも、重要な対策といえます。
また、具体的な対策を講じるにあたっては、自社の業種や作業環境に照らして、どの対策が効果的か、どの対策を優先すべきかを見極めることが重要です。「職場における熱中症防止のためのガイドライン」でも、業種や業態に応じて適切な対策を選択する考え方が示されています。そのうえで、自社の実情に応じて、空調服やスポットクーラーの導入、飲料や冷却グッズの準備、作業時間や休憩の取り方の見直し、WBGT値の把握などに取り組んでいくのが現実的でしょう。重要なのは、対策に多額の費用をかけること自体ではなく、どの対策が実際にリスクの低減につながるのかを考えながら、優先順位を付けて対策を進めることです。
熱中症対策にかかる支出は、たしかに短期的には痛手です。しかし、それを惜しんだ結果として生じる可能性のある追加費用や損失を考えると、見え方は変わってきます

経理部長

社長
熱中症対策は、単なる“夏の痛い出費”ではなく、人と現場を守り、会社の事業を止めないための備えとして捉えるべきだね
「熱中症対策にかかる費用の捉え方」
熱中症対策を後回しにすると、欠勤や作業効率の低下、納期遅延、追加対応、信用低下による受注減少などを招き、かえって費用の増加や損失(機会損失を含む)の発生につながるおそれがあります。熱中症対策にかかる費用は、単なる短期的な負担ではなく、より大きな費用や損失が生じることを防ぐための備えという側面があります。
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