モノを売るか、サービスを売るか。LTVでビジネスを考える
2026年6月13日
質問
「ミロク・セキュリティ」は、オフィス向けスマートロック(入退室管理システム)の製造・販売を行っています。同製品は高機能製品であり、製品単価は類似製品と比べて高額です。これまで、50万円の正規価格で販売活動を行ってきましたが、思うように売上が伸びません。そんななか、同社の社長は、販売戦略を転換し、突然「製品ゼロ円戦略」なるものを打ち出しました。社長にはどのような思惑があるのでしょうか?
パターン1
広告宣伝を兼ねてゼロ円で製品を市場に投入し、シェアと認知度を獲得することで、将来的に売上を増やすことができると考えた。
パターン2
無料で製品を試用してもらい、自社製品なしでは業務が回らなくなったタイミングで正規価格を請求しようと考えた。
パターン3
高額な製品を売るのではなく、製品に付随するサービスを長く利用してもらうことで、長期的に利益を獲得する戦略に切り替えようと考えた。
この質問をイメージして以下のストーリーをお読みください。
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安易な値下げ販売をしたら製品の開発費が回収できない…
「ミロク・セキュリティ」は、社運を賭けて高性能な新製品を発売しましたが、中小企業にとって50万円の購入価格は重く、営業担当者の商談はことごとく破談に終わっていました。機能デモでは称賛されるものの、いざ見積書を提示すると資金がないと断られてしまいます。社内では、開発費回収のために安易な値下げはできないという財務の論理と、このままでは売れずに終わってしまうのではという営業の論理が交錯し、閉塞感に包まれていました。

営業部長
社長、50万円での販売は正直厳しい状況です。多額の開発・製造コストをかけた新製品でありますが、このままでは契約が取れません
値下げも選択肢の一つではありますが、多少値下げをしたとしても、中小企業には負担が大きいことに変わりはありません。しかも、値下げをするのであれば、さらに販売数量を増やして利益を確保しなければいけなくなってしまいます

経理部長

営業部長
この状況で、さらに販売数量を確保するというのは営業担当者には酷です……。わが社の製品は高機能ではありますが、他社製品と比べても高額ですので、少しの値引き程度ではほとんどインパクトはありません
皆の言い分はわかった。現状のやり方ではうまくいかないということだな。それなら、思い切って発想の転換を図るしかないな

社長
とはいっても、原価を割るような大幅な値下げは財務的に不可能ですし、打つ手がありません……

経理部長
こういうときは発想の転換だ! 製品が高額で売れないのならば、思い切って製品をゼロ円で提供してしまおう! その名も「製品ゼロ円戦略」だ!

社長

営業部長
社長は一体何を言っているんだ……。この会社も終わりかな…。
質問
「ミロク・セキュリティ」は、オフィス向けスマートロック(入退室管理システム)の製造・販売を行っています。同製品は高機能製品であり、製品単価は類似製品と比べて高額です。これまで、50万円の正規価格で販売活動を行ってきましたが、思うように売上が伸びません。そんななか、同社の社長は、販売戦略を転換し、突然「製品ゼロ円戦略」なるものを打ち出しました。社長にはどのような思惑があるのでしょうか?
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パターン1
広告宣伝を兼ねてゼロ円で製品を市場に投入し、シェアと認知度を獲得することで、将来的に売上を増やすことができると考えた。
パターン2
無料で製品を試用してもらい、自社製品なしでは業務が回らなくなったタイミングで正規価格を請求しようと考えた。
パターン3
高額な製品を売るのではなく、製品に付随するサービスを長く利用してもらうことで、長期的に利益を獲得する戦略に切り替えようと考えた。
確かにゼロ円で配ればシェアは拡大し、認知度も向上するでしょう。しかし、確実な収益化の仕組みを持たないまま製品をばら撒くのは、単なる赤字の垂れ流しとなりかねません。有名になれば後から儲かるというのは希望的観測であり、販売戦略としてはリスクが大きすぎます。
いわゆるお試し商法ですが、そもそも販売価格が高額であることが契約に結び付かない原因であったことを踏まえると、50万円を請求したとたん解約が続出する可能性が極めて高くなってしまいます。これでは一時的に導入数が増えたとしても、結局は売上に結び付かず、顧客との長期的な信頼関係構築も難しくなってしまいます。
目先の売上ではなく、将来にわたる継続収益を取りに行く販売戦略が、社長が考えたゼロ円戦略です。製品自体の販売から収益を得るのではなく、製品に付随するサービスを継続的に利用してもらうことで収益を確保し、顧客との長期的な関係から、安定的に利益を生み出そうとするアイディアです。これはLTV(Life Time Value:顧客生涯価値)に注目した販売戦略であり、サブスクリプション型のビジネスモデルとも言われます。
社長が考えたゼロ円戦略とは?

営業部長
社長。製品ゼロ円戦略とは、どういうことなのでしょうか。われわれは慈善事業を営んでいるわけではありませんので、本当にゼロ円では、赤字はさらにかさんでしまいます
もちろんそうだ。そこで、発想の転換が必要なんだ! 高機能な自社製品に多くの取引先が関心を持ってくれている。しかし、製品が高額であることが原因で、顧客は二の足を踏んでしまうんだろう? そうであれば、顧客にとっての障壁である初期費用の高さという問題を取り除かなければならない

社長

営業部長
たしかに、おっしゃるとおりです。それでは、どのように利益を生み出すのですか?
経理部長、あの計算を見せてやってくれないか

社長
はい! 社長のアイディアは、製品を売るのではなく、スマートロックというサービスを、月額2万円で継続的に使ってもらうことによって利益を生み出そうというものです。つまり、こういうことです

経理部長
(ホワイトボードに計算式を書く)
A案(現状):
収益 50万円
費用 40万円(製造原価30万円+販売経費10万円)
利益 10万円(しかし、売れなければ40万円の赤字)
B案(製品ゼロ円戦略):
収益 120万円(月額2万円×60ヵ月)
費用 60万円(製造原価30万円+メンテナンスコスト月額5千円×60ヵ月)
利益 60万円(年間平均12万円)
月額2万円の売上が入り、そこからサーバー代やサポート費などのメンテナンスコスト(5年総額30万円=月額5,000円)を引いても、手元に毎月1.5万円の利益が残ります。これで計算すると、20ヶ月(1年8ヶ月)で製造原価の30万円を完全に回収することができます。一度導入してもらえば、平均して5年(60ヶ月)は継続が見込めますので、最終的な利益も現状より増えることになります

経理部長
顧客の多くは、製品そのものではなく、製品に付随するサービスに価値を見出しているんだ。2万円のサービス利用料を継続的に得られれば、最終的には5年で120万円の収益が得られるし、そのあともさらに収益が持続する可能性もある

社長

営業部長
これまでは開発費や製造原価の回収に躍起になっていましたが、長い目で顧客とつながれれば、安定して高い利益が得られるのですね!
その通りだ! 一人の顧客が生涯で支払ってくれる合計金額のことを、LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)と呼ぶんだ。これからの我々は、モノを売るのではなく、継続的なサービスの提供を通じてLTVを最大化する会社になるぞ!

社長
目先の売上よりもLTV(顧客生涯価値)を追うべし
価格は顧客の購入意思決定を阻害する大きな要因となります。社長の決断は、この入り口の障壁を破壊し、モノを売るビジネスからサービスを売るビジネスへと転換させるものでした。LTVの視点を持てば、一見無謀な0円戦略も、将来の大きなリターンを生むための合理的な投資であることが分かります。目先の利益にとらわれず、時間軸を広げて収益構造を設計する視点こそが、事業を飛躍させる鍵となるのです。
「LTV(顧客生涯価値)とは」
LTV(Life Time Value)とは、「一人の顧客が、取引開始から終了までに、企業にどれだけの利益をもたらしたか」を表す指標です。
LTV =(月額単価 - メンテナンスコスト)× 継続期間
商品を0円で提供するという戦略は、SaaSや通信業界では一般的です。今回の事例のようにハードウェアなどを扱う場合、開発費や製造原価という大きな先行投資が必要となります。もし、顧客が数ヶ月で解約してしまうと、開発費や製造原価を回収できなくなってしまいます。したがって、LTVに焦点を当てたビジネスモデルを成功させるには、長く使ってもらうだけでなく、最低契約期間(例:2年契約)など、解約不能期間の設定が重要となってきます。
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