サブスクリプション型ビジネスの採算はどう考える? 家庭菜園との意外な共通点とは?

2021年11月23日

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2021/11/23

質問

システム開発などを手がける「インフォ369」は、サブスクリプション型の家計簿アプリ事業を始めましたが、当期は多額の赤字を計上する見込みです。あなたが経営者なら、この事業についてどうする必要があると判断しますか?

パターン1

家計簿アプリ事業の収益性を、長期間にわたって検討する。

パターン2

当面の措置として、家計簿アプリの新規利用者の募集を停止する。

パターン3

家計簿アプリの月額利用料を大幅に値上げする。

この質問をイメージして以下のストーリーをお読みください。
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家計管理もスマホで楽々! 継続利用者の多い人気アプリ

システム開発などを手がける「インフォ369」では、数年前から家計簿アプリのサブスクリプション・サービスを展開しています。続けやすい月額利用料と、シンプルで便利な機能が好評で、利用者の多くが契約を長期継続しています。

経理部長 社長、家計簿アプリ事業は、当期は大きな利益を計上できる見込みです
社長 苦しい時期もあったけれど、これまでのみんなの苦労が一気に結実したわね
経理部長 はい、アプリの便利な機能が、家計を預かる女性から支持されているんですよ
社長 アプリの操作が簡単だから、年配の方の利用も増えているようね。今後も利益計上が期待できるわ

現在は家計簿アプリ事業が大きな利益を生み出すようになったインフォ369ですが、3年前は、赤字の家計簿アプリ事業が社長の悩みの種でした。

3年前 ~家計簿アプリ事業は「お荷物」事業? ……迫られる経営判断

3年前のインフォ369では、リリースしたばかりの家計簿アプリ事業が社長の悩みの種でした。

社長 当期は家計簿アプリ事業が多額の赤字を計上することになりそうね
経理部長 新規利用者は急拡大しているんですが……。新規利用者を獲得するためにマーケティング費用や広告宣伝費などが必要な一方で、月額利用料は低額に抑えているので、当期は赤字になる見込みです
社長 アプリ市場は激戦だから、ある程度のコストは避けられないけれど……
経理部長 当期の多額の赤字計上で、社内では家計簿アプリ事業の今後を不安視する意見もあります
社長 家計簿アプリ事業についての今後の方針を、来週の役員会議までに考えるわ
 

質問

システム開発などを手がける「インフォ369」は、サブスクリプション型の家計簿アプリ事業を始めましたが、当期は多額の赤字を計上する見込みです。あなたが経営者なら、この事業についてどうする必要があると判断しますか?

▼あなたの思うパターンをクリック▼

パターン1

家計簿アプリ事業の収益性を、長期間にわたって検討する

パターン2

当面の措置として、家計簿アプリの新規利用者の募集を停止する

パターン3

家計簿アプリの月額利用料を大幅に値上げする

実はインフォ369の社長が選択したのはパターン1でした。サブスクリプション型の事業は、先行するコストを長期間にわたって回収し利益を積み上げていくビジネス・モデルなので、顧客を獲得することによる収益性を長期的な視点で検討するべきだからです。

確かに、事業の収益性が悪化している場合には、事業の在り方について見直しが必要なこともあります。新規利用者の募集を停止すれば、新規利用者を獲得するためのマーケティング代や広告宣伝費などを削減することが可能です。ただし、サブスクリプション型の事業については、長期的な視点で適切に採算を捉えた上で、事業の在り方を見直す必要があります。

アプリの月額利用料が低すぎることが原因で、明らかに不採算である場合には、月額利用料の値上げを検討すべきこともあります。ただし、月額利用料を大幅に値上げすると、利用者が減少したり、契約の継続期間が短くなったりして、かえって収益性に悪影響を及ぼすおそれもあります。事業の採算を適切に把握した上で、値上げの必要性やその影響を検討する必要があります。

家庭菜園の魅力……一度の収穫量は少なくても、収穫期間は長く続く

帰宅したインフォ369の社長は、家計簿アプリ事業の今後の方針について思案しながら、夕飯の支度をしています。

ママ~、ベランダで育てているミニトマトが、いくつか赤くなっているよ!
社長 ハンバーグの付け合わせにするから、とってきてくれる?
は~い! ……ママ、今日は3つ収穫できた! まだ緑色の実もいくつかあるから、何日かしたらまた収穫できるよ
社長 一度に収穫できる量は少ないけれど、継続して収穫できるのがいいわね
うん! 最初に苗の代金がかかったけれど、継続して収穫できるミニトマトの量を全部足して考えれば、十分元が取れると思う!
社長 あら、しっかり者ね~。我が家の家計簿はあなたに任せようかしら

その時、社長は、家庭菜園と家計簿アプリ事業のある共通点に気が付きました。

社長 継続している期間の収穫量を全部足して考える……!?

社長は、家計簿アプリ事業について、当期1年間という短い期間ではなく、利用者が契約を継続している長い期間全体に着目して、採算を考え直してみることにしました。

販売形態の事業では、製品などの所有権そのものが顧客に渡されるので、企業の利益は販売時に一度に計上されるのが通常です。一方、アプリの利用契約のようなサブスクリプション型の事業では、製品などの所有権が顧客に渡されるのではなく、製品などを利用する権利が顧客に継続して提供されます。つまり、サブスクリプション型の事業では、大きな利益を一度に計上して終わるのではなく、長期間をかけて小さな利益を少しずつ積み重ねていくのです。そのため、サブスクリプション型の事業については、当期という短期間だけでの採算を考えるのではなく、契約期間全体を通じた長期的な視点で採算を捉えるのが合理的です。

社長 アプリの利用契約をいったん締結してもらえれば、その後の長期間にわたって継続的に月額利用料を計上できるのよね。利用者一人から契約期間全体を通じて得られる利用料の合計を試算すると……

顧客が契約開始から終了までの期間を通じて企業にもたらす利益や収益は、「顧客生涯価値(LTV:Life Time Value)」と呼ばれます。ここでは、家計簿アプリの利用契約によって顧客一人当たり毎月200円の利用料が得られるとし、解約率を考慮して顧客一人当たりの契約継続期間を60カ月と想定して、LTVを算定してみます。

 顧客生涯価値(LTV)=200円×60カ月=12,000円

社長 顧客生涯価値が、新規顧客を獲得・維持するのに必要なコストを上回るなら、長期的には儲かる事業と言えるわ

新規顧客を獲得するためには、マーケティング代や広告宣伝費などのコスト(顧客獲得費用、CAC:Customer Acquisition Cost)がかかります。顧客一人当たりの顧客獲得費用(CAC)が3,000円とすると、顧客生涯価値(LTV)はこれを十二分に上回っているので、その後の既存顧客の維持管理コストなどを考慮しても、長期的に見て採算が取れる事業であると言えます。

また、顧客生涯価値(LTV)÷顧客獲得費用(CAC)の値は、事業における顧客一人当たりの収益性(採算)を表す指標として活用できます。

 顧客生涯価値(LTV)÷顧客獲得費用(CAC)=12,000÷3,000=4

この指標は「ユニット・エコノミクス」と呼ばれています。ユニット・エコノミクスが大きいほど、少ない元手で効率的に稼げる収益性の高いビジネスです。

社長 ……というわけで、契約継続期間を通じた長期的な視点で見れば、家計簿アプリ事業は採算が取れると考えています
経理部長 家計簿アプリ事業はこのまま継続ですね
社長 顧客獲得費用を引き下げる余地がないかさらに検討して、より収益性の高い事業を目指しましょう!

 

ワンポイント解説

「ユニット・エコノミクス」

事業における顧客一人当たりの収益性(採算)を表す指標で、顧客生涯価値(LTV)÷顧客獲得・維持費用(CAC)で算出できます(LTVは解約率なども考慮して算定)。ユニット・エコノミクスの目安は一概に言えませんが、例えば3以上などを目安とし、それが大きいほど収益性の高い事業と言えます。

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