
プライベートブランド製品の生産委託を受けるべきか、その決め手とは?
質問
「弥勒製パン」では、需要減少により自社ブランドパンの製造量が減少し、工場の稼働率が7割位に落ち込んでいます。そこへ、自社ブランドパンの定価と比べて非常に低い価格ながら、地元の大手スーパーからOEMによる製造委託の話が持ち込まれました。あなたが経営者なら次のうちどの行動をとりますか?
この質問をイメージして以下のストーリーをお読みください。
皆が生き生きと働くパン工場
「弥勒製パン」は、昭和30年代に創業して以来「ミロクパン」の自社ブランドで60年余りにわたって、おいしいパンを作っていると地元で評判のパン製造販売会社です。数年前までは、売上も順調に推移していました。
製造量が全盛期よりも減少し活気が薄れていた1年前がウソだったかのように、今日も工場では皆が生き生きと働いています。
1年前 ~委託製造の依頼があった
1年前のことです。ここ数年、需要量の減少でパン製造量が減り続け、特に直近2年間は工場の稼働率が7割程度に落ち込んでいます。
そんな中、地元で展開するスーパー「スキト」から、OEM(Original Equipment Manufacturer。他社ブランド製品の製造)による製造委託、つまり「スキト」ブランドでのパン製造委託の話が持ち込まれたのです。「スキト」では、すでにOEMによるプライベートブランドでの製造をX製パンに委託していましたが、お客さんの評判が良くないので、1年間の契約期間が終了する時点で、弥勒製パンと委託契約を結びなおしたいという提案でした。ただし、「スキト」が買い取る単価は、弥勒製パンが自社ブランドで売っている単価よりもだいぶ低いようです。
質問
「弥勒製パン」では、需要減少により自社ブランドパンの製造量が減少し、工場の稼働率が7割位に落ち込んでいます。そこへ、自社ブランドパンの定価と比べて非常に低い価格ながら、地元の大手スーパーからOEMによる製造委託の話が持ち込まれました。あなたが経営者なら次のうちどの行動をとりますか?
ターニングポイントは「製造固定費の新しい回収方法」に着目したことだった
ある日のこと、社長、営業部長、製造部長、経理部長が集まってミーティングをしています。
社長 |
現在の製造単価はこれ位になっている。このまま続くようだと、だいぶ苦しいな。まさかパンの販売価格を上げるわけにもいかないし。製造固定費を削減できればいいんだが…… |
経理部長 |
固定費そのものを削減しようとすると、通常は工場の設備に手をつけたり人件費を削減したりということが考えられますが…… |
製造部長 |
でも、工場の設備を売却するなんて不可能だし |
社長 |
もちろん、リストラは絶対にしない。うーん、他に何か方法はないもんかな |
社長の経営理念に基づくと、確かに固定費を低減するのは難しそうです。 |
社長 |
となると、しばらくは今までどおりの製造量でやっていき、今後は販売に力を入れなくてはならないか…… |
営業部長 |
とはいえ、ここ数年で需要が落ち込んでいて、自力で販売量を大きく増やしていくのはなかなかハードルが高いかもしれません |
社長 |
うーん、販売量を大きく増やすのは難しいか。じゃ、「スキト」の話はどうかな? これも製造量を増やす話だけど、実現性はあるんだろうか |
営業部長 |
X製パンのパンはあまりおいしくないから売れなかったかもしれませんが、うちのパンは味に定評があるので、「スキト」の店舗で売ることができるなら、もっと売れるかもしれません。問題は「スキト」が買い取る単価がだいぶ低いということです |
社長 |
そうだな。ただ、販売コストは「スキト」の負担だから費用の増加はないよな。それじゃあ製造コストのほうはどうだろう? |
経理部長と製造部長が「スキト」の提案に基づいた製造量の増加を踏まえて製造コストを試算してみました。今の製造設備等の稼働率は7割程なので、「スキト」が委託したいと言っている予定製造量なら今の設備や人員でまかなえそうです。パンの材料費や水道光熱費などの諸経費は増えますが、それ以上に「スキト」からの収入が増加することになります。自社ブランドよりも単価はだいぶ低いですが、弥勒製パンが自力ではとても販売できないような量を安定して確保できそうです。
OEM製造の受託可否の検討を進めた結果、弥勒製パンの方向性が見えてきました。
営業部長 |
ただし、現在の「スキト」のプライベートブランドのパンはおいしくないというブランドイメージが浸透しているので、新しいブランドやパッケージで売ることを「スキト」に提案したほうがいいと思います |
社長 |
ほう、さすが、営業部長だな |
営業部長 |
いえ、ちょうど最近、「スキト」で女性のお客様が会話しているのを耳にして、今の「スキト」のプライベートブランドのパンのイメージを払拭する必要がありそうだと感じたので |
社長 |
お客さまの情報は重要だよな。これからも収集を頼むよ |
その後の1年間で、弥勒製パンはOEMによる製造委託を受け製造量が増えたことにより、製品当たりの製造固定費が減らすことができました。OEMによる製造固定費の回収、つまり製造固定費を回収できるだけの収入増加が進んだことで、利益も大きく増やすことができました。
【ワンポイント解説】「OEMによる製造固定費の回収」製造設備や製造人員を抱えていれば、製造量が少なくても製造固定費が発生してしまいます。製造余力がある場合には、余力の範囲内であれば製造固定費を増やすことなく製造量を増やすことができ、収入増加となって採算改善に貢献します。これを製造固定費の回収と言い、OEMでの製造委託を受託することもその1つです。製造の余力がないのに製造を受託すると追加で発生する製造コストが多くなり、採算が厳しくなるので注意が必要です。