大手ドラッグストアが真正面に出店!この苦境を乗り切った店主の決断とは?

2016年8月3日

小売業

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2016/08/03

質問

大手ドラッグストア進出により苦境に陥った「みろく薬局」。あなたが店主なら次のうちどの行動をとりますか?

パターン1

これ以上、営業を続けていても、先行きの経営の見通しは暗いので、この際、思い切って閉店する。

パターン2

今のところある程度の資金もあるので、適当な場所を探して、店の数を増加させる。

パターン3

インターネットを利用して、きめの細かい営業をすることを強化し、商圏を拡大させる。

この質問をイメージして以下のストーリーをお読みください。
飲食店イメージ01
飲食店イメージ02

大手チェーンに対抗して頑張っている薬局

とある県の駅前にある薬局です。それほど広くない店舗ですが、店の奥に調剤薬局が設置されています。その店の道路を隔てた正面には、大手のドラッグストアが営業をしており、間口の広い店頭には、セール商品・キャンペーン商品がうずたかく積まれています。目を転じて、当薬局店は、小規模店舗で、商品の品ぞろえには雲泥の差があります。けれどもこの薬局はなぜか明るく、若々しい活気を漂わせるお店のようです。

しかし、実は数年前全く逆の状態で廃業も検討した店だったのです。ちょっと、その頃の様子をのぞいてみましょう。

数年前 ~大手ドラッグストア進出により苦境に陥る~

「みろく薬局」は駅前商店街で30年ほど前に創業しました。薬剤師でもある店主は、調剤薬局を営むとともに医薬品・日用品の販売をしていました。最寄りの駅前は、かつては鎌倉時代からの門前町として繁栄していましたが、大型店舗の進出・開発競争では近隣の駅前に後れをとったため、昔ながらの個人商店中心の静かな駅前であり、街並みです。

若いご夫婦が薬局を創業した時には、駅前商店街には、医薬品や日用品を扱うライバル店は、同じ個人商店2店舗のみでした。それが、次第に店舗が増え、10年前には5店舗ほどになり、競争は激しくなりました。閉店する店舗も出ましたが、「みろく薬局」の場合、地域の一定の常連客が処方箋を持って訪れるため、事業は安定していました。

ところが5年ほど前に、チェーン展開をしているドラッグストアの大型店舗が、なんと「みろく薬局」の真正面に進出してきたのです。

店頭での商品の売上高は、目に見えて減少していきました。多彩な品ぞろえと定期的な販売キャンペーン、積極的なポイント・サービスに魅(ひ)かれ、「みろく薬局」の顧客も少なからず離れていきました。もともと駅前商店街といえども振りの客は少なく、なじみの顧客が中心でした。

店主夫婦は、ある日の営業終了後、深刻な表情で次のような会話をしています。

店主 だいぶ前から、近所の駅前には大型店舗が出店して同業者から売上が激減してすごく苦しいという話を聞いていたが、とうとうこの駅前商店街にも大型店が出店してきたね
本当に! こんな小さな駅前にも進出してくるんだから、信じられないわ
店主 うちは、創業以来この方、病気や健康の相談にも乗るなどして、こつこつと作ってきた常連さんも多い。大型のドラッグストアは店舗も比較にならないほど広くて、品ぞろえも豊富、価格も安いからな……
いろいろなキャンペーンも派手に行っているし、ポイント割引もすごいわね
店主 うちでもポイント制を入れていて、一定のポイントがたまれば、各種のグッズと交換できるのだが……
ポイント割引よりも、やはり現金割引でないと、魅力がないのでしょうかね
店主 これでは、店の売上に相当影響するだろうなあ! 常連さんも客離れしていくだろうし、これから店の営業をどうしていったらいいだろうね……

大型店舗のドラッグストアは、盛大な開店セールを展開し、近隣住民や最寄り駅の乗降客をひきつけ、活気にあふれていきます。「みろく薬局」の来店客数は目に見えて減少し、売上も低迷するようになってきました。

質問

大手ドラッグストア進出により苦境に陥った「みろく薬局」。あなたが店主なら次のうちどの行動をとりますか?

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パターン1

これ以上、営業を続けていても、先行きの経営の見通しは暗いので、この際、思い切って閉店する。

パターン2

今のところある程度の資金もあるので、適当な場所を探して、店の数を増加させる。

パターン3

インターネットを利用して、きめの細かい営業をすることを強化し、商圏を拡大させる。

土地や建物が賃借ではなく、自己所有であれば、薬局を閉店し、不動産を第三者に譲渡する選択肢もあるかもしれませんね。でも、せっかく、これまで地元の顧客に愛され、地域の健康福祉に貢献してきたし、経営者もまだまだこれからの年齢のようなので、閉店はもったいないのではありませんか。

長年、地道に薬局を経営してきた結果、ある程度の資金の蓄積はされてきたので、調剤薬局の多店舗展開を図るという道もあるかもしれません。しかし、適当な立地を検討することもなかなか大変であり、どの地域でも個人の薬局は大型店舗の進出に押されているのが現状です。
他の薬局と連携して、店舗を共同経営にするとか、何らかの個性や特徴をアピールする薬局とする選択肢もあるかもしれませんね。

実は、「みろく薬局」の店主が選択したのはパターン3の道でした。その方針の骨子は、
(1)インターネット通販を活用する
(2)取扱品目に店の個性を打ち出す
(3)同時に、処方箋による調剤薬局の側面を強く打ち出す
というものでした。

ターニングポイントは販売チャネルと取扱商品を見直したことだった

(1)インターネット通販を活用する

最近、さまざまな業界でインターネットによる通販が普及してきています。店頭による商品購入・販売ではなく、ネット通販での購入・販売が非常な勢いで増加しつつあります。全国各地の名産品や珍しい食品なども、ネット通販により、簡単に「お取り寄せ」が可能な時代となりました。医薬品業界でも、大型ドラッグストアが進出していない地域や、病院や薬局が最寄りの地域に少ない地方も多くなってきています。いわゆる医療過疎地に住む人々は、高齢化社会の進展とともに、日常生活で必要な医薬品・健康食品の入手が簡単ではない状況が生じています。ネット通販であれば、地域に関係なく、必要な商品を入手することができます。「みろく薬局」の店主は、この点に注目し、ネット通販の大手マーケットであるR市場、Yショッピングに出店を開始しました。

(2)取扱品目に店の個性を打ち出す

大手のネット市場に出店しても、医薬品や日用品を扱う業者は数多くあり、いわゆる大海に小舟を出しても注目される可能性は低く、大規模市場の中に埋没してしまう可能性が大きいと考えました。そこで、小規模な薬局としては、取扱商品領域を絞って顧客のターゲットを限定することにしました。

そこで、経営者は「みろく薬局」のキャッチフレーズを「漢方ならお薬のみろく薬局」として店の方向性・特徴を明確に打ち出すことにしました。「漢方得意のみろく薬局」として、大手の通販市場に出店するとともに、漢方薬系の情報サイトにも登録をしました。また、自社のホームページ(HP)を刷新し、漢方薬ならびに健康食品の商品メニューの品ぞろえを充実させました。漢方薬の商品内容についてより詳しい説明を加えたラインアップを整備することに努めました。メールや電話による健康相談、漢方薬との相性など、顧客に対して丁寧に対応するよう心がけました。

(3)同時に、処方箋による調剤薬局の側面を強く打ち出す

市販の薬品や日用品等の品ぞろえや価格、ポイント・割引制に関しては、到底、大手のドラッグストアと競争しても勝ち目はありません。新商品を仕入れても、売れ残りが多く出てしまい、在庫費用の負担ばかり生じて業績悪化が加速します。

そこで、店頭での商品販売は重点をあまりおかず、処方箋による調剤薬局の側面を強く打ち出すこととしました。店頭での商品販売は継続して減少していきましたが、道路を隔てた大手ドラッグストアは、調剤薬局の機能をもたないので、処方箋を持参する顧客は、常連客を含めて減少することはありませんでした。処方箋による薬を買う時に、合わせて一般医薬品や日用品を購入してくれる顧客もいました。

「みろく薬局」の売上構成のうち店頭売上は、大型店との競争により、来店客数、売上高ともに減少傾向が続いています。その側面は仕方がないことでしょう。ただし、道路を隔てたドラッグストアでは調剤業務は営業していないので、処方箋を持参する顧客はあまり減少していません。処方箋による調剤薬局として、従来より、顧客からの信頼はさらに厚くなり、一定の売上は確保できていました。

その売上高の減少を補っているのが、ネット通販の売上高です。ネット通販を強化する経営方針は、予想外の結果を生み出しました。 続々と、ネットを通じて注文が入るようになったことです。注文をしてくれた顧客の所在地をチェックしてみると、近隣地域にとどまらず、極端な話、北は北海道から南は九州・沖縄までの、実に広い地域に分散しているのです。近所に薬局が不在となっている、薬局過疎地と思われる地方からの注文も来ています。従来は、地元地域の狭い商圏に限定されていた顧客層が、ネット通販により、地域の遠近に関わりなく広がってきたのでした。店主は感動しました。インターネットの普及はこんなにも大きな影響をもつものなのか。自分は、いかに狭い地域の利害しか見えていなかったのかと。売上高の割合は、現時点では店頭売上高と通販による売上高が逆転し、40%対60%の比率となっています。

また、費用・コストの面でも、ネット通販の場合、注文を受けてから仕入れの手配をすればよく、商品在庫を大幅に削減することができました。

店舗に目を向けると、店主によく似た若い女性がきびきびと指示を出しています。ネット通販の伸びによって、パソコンの数も部屋が窮屈に感じるほど増加をし、他の若い女性がパソコンの前で忙しくデータのインプットに従事しています。商品の確保、発送処理のために、パートの従業員が増え、何か、店舗内の空気が明るく、以前よりずっと繁盛している雰囲気が室内に漂っています。店舗内の床を注意して見てみると、宅配便の荷物が所狭しと置かれています。宅配業者が頻繁に来店し、数多くの商品発送作業を行っています。お客さまもそのような店内の様子を敏感に感ずるようで、何か店内がサロンのような雰囲気が漂ってきています。

関連ニュース
総務省と厚生労働省は、平成28年度から中小事業者が薬局の新設や増改築をする時の税金を安くする方針を固めました。具体的には、土地・建物の取得時に係る不動産取得税を6分の1割り引くというものです。これは患者の健康相談に応じるスペースが確保されるということが条件ですが、軽い症状なら病院に行かずに、地域の薬局で買う市販薬で治してもらうようにしたいとの考えです。国全体の医療費削減にもつながると期待されています。また、平成28年度の診療報酬制度の改正(2年に1回)で、「かかりつけ薬剤師」制度が新設されました。政府のこのような動きは、個人薬局が生き残っていくための支援策のひとつとして期待されます。

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