ビュッフェ・スタイルへの転換で食材費を減らした旅館、その理由とは?

2017年4月23日

飲食業

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2017/04/23

質問

2年前、思い切ってビュッフェ・スタイルの夕食に転換した「みろく旅館」。この転換により、顧客離れに歯止めがかかっただけでなく、以前と比べ食材費を削減することもできたのですが、それはなぜでしょうか?

理由1

食材の廃棄ロスが減ったから。

理由2

食材の質を落とすことで仕入価格が下がったから。

理由3

大量購入することで食材の仕入価格が下がったから。

この質問をイメージして以下のストーリーをお読みください。
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料理の満足度が高い旅館

「みろく旅館」の夕食は、2年前まで会席料理でした。しかし、量が多い、好きな料理が少ないなど、会席料理の人気に陰りが見えてきたことから、思い切ってビュッフェ・スタイルの夕食に転換しました。

その転換が功を奏し、ある日の夕食時、みろく旅館の食事処(ダイニング)では、家族連れが食事に舌鼓を打ちながら会話をしています。

あ~、やっぱり揚げたての天ぷらはおいしいわねぇ……
そうだねぇ。目の前で板前さんが揚げてくれるから、熱々だよね
息子 僕は大好きなハンバーグと唐揚げがあるから大満足だよ
私はねぇ、さっきからあのおいしそうなデザートが気になってるの。……先に取ってきちゃってもいいかなぁ
まったくもー。今日は特別よ

食事処の様子を見に来ていた支配人も、満足顔です。

3年前 ~遠のき始める客足、利益を圧迫する食材費

みろく旅館は老舗旅館で、5年ぐらい前までは、夕食の会席料理がおいしいことで馴染み客に高い評価を受けていました。

ところが、ここ3年くらい、年配のなじみ客にあっては、年齢が上がるにつれて量の多い会席料理を持て余すようになりました。また、家族連れのなじみ客にあっては、子供連れで来ても子供たちが食べたいものが少なく食べ残しがちでした。いずれの場合でも、お客さまに「もったいない」という印象を植え付けることになり、宿泊料金を割高に感じさせてしまうようになっていたのです。その結果、なじみ客の客足が遠のき始めていました。

会席料理に人気があった頃は多額の食材費をかけても採算は取れていたものの、客足が遠のき始めると、食材費が利益を圧迫していきました。

そのため、支配人は方向性の見直しが必要だと感じていました。

質問

2年前、思い切ってビュッフェ・スタイルの夕食に転換した「みろく旅館」。この転換により、顧客離れに歯止めがかかっただけでなく、以前と比べ食材費を削減することもできたのですが、それはなぜでしょうか?

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理由1

食材の廃棄ロスが減ったから。

理由2

食材の質を落とすことで仕入価格が下がったから。

理由3

大量購入することで食材の仕入価格が下がったから。

ビュッフェ・スタイルにすると一見廃棄ロスが増えそうですが、みろく旅館では、夕食をビュッフェ・スタイルにしたことで食材の廃棄ロスを削減でき、利益を増やすことができたのです。それまでは、廃棄ロスに対する皆の意識はあまり高くありませんでした。転換のきっかけは何だったのか、そして廃棄ロスを削減できたのはなぜだったのかというと……

ビュッフェ・スタイルにすれば、一品一品の食材にこだわる会席料理よりも食材の質を少し下げたり、比較的安価な食材を使った料理の割合を増やしたりして、仕入単価を下げることもできそうです。
しかし、お客さまが食材の質の低下に不満を感じたら、旅館を利用していただけないおそれがあり、食材の質を大きく下げることは難しいでしょう。

ビュッフェ・スタイルにすると、会席料理の場合と比べて、食材の共通化を図ることで大量に仕入れやすくなるかもしれません。そうすればボリューム・ディスカウントで仕入単価を下げることもできそうです。
ただし、みろく旅館の場合、宿泊客を対象とした夕食であり、旅館のキャパシティーが限られるため、ボリューム・ディスカウントはそれ程大きくはならなかったようです。

ビュッフェ・スタイルへの転換が及ぼした効果とは

ある日の夜、支配人が帰宅すると、妻が小学生の息子と話をしているところでした。

今日の授業、工場見学だったんでしょ? どうだった?
息子 うん。初めて工場を見たんだけど、大きな機械がたくさん並んでて迫力満点! それに工場の中ってすごくきれいだったよ。何年か前はゴミがたくさん出て大変だったらしいけど
ゴミを減らすために、一体どんなことをしたのかしら
息子 できるだけ同じ材料が使えるように変えていったって言ってたかな
へー
息子 あと、必要な分だけを少しずつ作るようにしたんだって
それを聞いた支配人は思いました。
支配人の心の声 <うちの旅館はまったく逆だ。ここ数年、ゴミが随分増えてるんじゃないか?>

気になった支配人は、翌日スタッフに指示し、食事処から毎日何袋分のゴミが出ているのかをしばらく記録させることにしました。その結果、思った以上の多さにあ然としたのでした。

数日後、支配人は幹部を集め、「みろく旅館」の抱える問題について相談していました。

支配人 最近、うちの旅館では食材の廃棄がバカにならないくらい増えてきてる
営業部長 最近は、なじみ客の皆さまの年齢が上がったこともあって、せっかくの会席料理も残されることが多くなりました
板長 ご承知のとおり、会席料理というと、前菜から始まって、吸い物・刺し身・焼き物・煮物・揚げ物などがあって、ご飯にみそ汁、さらに食後のデザートまでお出ししますので、食べきれないというお客さまは確かに多いと思います。お客さまの年齢が上がればなおさらです
営業部長 それだけじゃないんです。お子さま連れのお客さまですと、会席料理がなかなかお子さま受けしないのか、結構残されます。若い世代の方は、そもそも会席料理自体にそれ程こだわりもないようで、最近は集客面でも厳しくなっています
 
板長 食べ残しの問題だけではありません。会席料理ということになると、安全を見てそれぞれの食材を多めに発注しておきますし、あまりそうな食材があってもなかなか他の料理に転用できません。そんなこともあって、期限切れで廃棄している食材もかなりあるんです。肉などは料理に使わずに廃棄してしまっている部位も結構ありますし……
支配人 うーん。創業以来会席料理にこだわってきたが、大きな方向転換の時期がきているのかもしれないな

人気に陰りが見えてきた会席料理、バカにならない食材廃棄の増加、こうしたみろく旅館の抱える問題にどう対応するか検討する中で、選択肢の1つとして支配人が挙げたのがビュッフェ・スタイルへの転換でした。これは、息子の工場見学の話を聞いたときに支配人の頭をよぎった、ゴミを出さないためのアイデアの1つでもありました。

この日はまだ頭の中が整理できていなかった幹部たちですが、後日議論を進めていくと、徐々に皆のイメージも膨らんできました。

板長 ビュッフェなら、煮物・焼き物などは、冷めないように大きなプレートに入れて温めておき、天ぷらなどは揚げたてをご提供することにして……
営業部長 料理を提供するタイミングが大事になりそうだね
板長 例えば、提供しているプレートの料理が残り1割を切ったら、もう1プレート分の料理を追加する。それがまた1割を切ったらさらにもう1プレート分を追加する。この方式だと、料理を作り過ぎないので食べ残しも出にくくできます
支配人 プレートが多く出れば出るほど、廃棄の割合は小さくなっていくわけだ
経理部長 必要以上に作らない、これが廃棄を減らす秘訣(ひけつ)ということですね
板長 会席料理という枠にとらわれなくて済むんだから、万が一、食材がなくなったら、別の料理をお出ししてもいいしね。逆に食材があまりそうなら、それをうまく使った料理をお出しすればいい。となれば、廃棄ロスも削減できそうだ
その後、みろく旅館ではビュッフェ・スタイルの夕食への転換に踏み切ったのですが、その過程では、日々の食材の廃棄量を記録し、皆が食材の廃棄ロスを意識するようにしました。料理として完成するまでの生産の過程でムダになった原価(「マテリアルフローコスト」)が一体どれ位あるのかザックリとでもつかんで皆で共有しようということになったのです。そして、廃棄ロス削減への取り組みを積み重ねる中で、ムダな食材費を大きく減らすことができただけでなく、会席料理の割高感などから起きていた顧客離れにも歯止めがかかったようです。

実は食材ロスの削減に加えて、人件費についても削減効果が出てきました。従来はお客さまからの注文を受けた後に一品ずつ調理をしていたため、どうしても効率が悪かったのですが、ビュッフェ用であればある程度まとめて調理できます。配膳や片付けの労力も減りました。厨房(ちゅうぼう)から食事処に料理を運ぶのを板前さんたちに頼んだところ、じかにお客さまにお会いする機会が増えた若い板前さんには、今まで以上に張り合いも出てきたようです。ビュッフェ・スタイルに転換後、お客さまの満足度も上がっているようです。
 
【ワンポイント解説】

「マテリアルフローコスト」

製品を製造する過程では、投入した原材料(マテリアル)の一部は、完成品にならずに廃棄物や不良品などムダになってしまいます。完成品原価が注目されがちですが、完成品にならなかった部分の原価、つまりマテリアルフローコストを、いかに減らすかが重要な課題になります。

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