業績悪化のラーメンチェーンが生き延びた、その決断とは?

2017年11月13日

飲食業

  • 飲食業
2017/11/13

質問

経営が苦しく、このままでは破たんしてしまう状態になったラーメンチェーン。事業を継続するために、あなたが経営者ならどうしますか?

パターン1

仕入代金の支払条件の見直しを仕入先と交渉する。

パターン2

減価償却費を減らすなどして黒字にし、金融機関に融資を申し込む。

パターン3

M&A(企業の合併・買収)により、会社を売却する。

この質問をイメージして以下のストーリーをお読みください。
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社員が元気に仕事をする会社

「MJSラーメン」は、ちゃんぽん専門のラーメンチェーンです。都内を中心に5店舗を展開しています。

MJSラーメンは、「ラーメンは食べたいが、健康も気になる」というお客さまの声を受けて、麺を少なめにしつつ、魚介類や野菜を山盛りにしたことで、男性客だけでなく、女性客からも支持を得ています。常に数人のお客さんが並んでいる人気のラーメン店です。

今でこそ、順調なMJSラーメンですが、1年前は全く状況が違っていました。

1年前 ~3カ月後に資金繰りが破たんします!

お客さまが帰り、掃除と明日の支度が終わった午後11時。本店の会議室で、社長と管理担当役員が深刻そうな顔をして話しています。

管理担当役員 今日、銀行からやはり融資は難しいと言われました。このままでは、3カ月後の月末に資金繰りが破たんします……
社長 そうか、だめだったか……。うちのお店はイカやエビなどの魚介類と野菜のボリュームが魅力でお客さんが来てくれる一方で、原価が高くなってしまう。しかも魚介類と野菜の値段がこれだけあがってしまったら、もう店はやっていけないな……
管理担当役員 メニューを変えて、魚介類と野菜の量を減らしたらどうでしょう
社長 そんなことをしてまで店を続けたいとは思わないよ!
管理担当役員 しかし、社員の生活もありますから。生き残る道を探さないことには……
社長 あ~あ。早く資金繰りのプレッシャーから解放されたいよ。うまいラーメンを作ることだけに専念できていたら、幸せだったんだがなぁ……

質問

経営が苦しく、このままでは破たんしてしまう状態になったラーメンチェーン。事業を継続するために、あなたが経営者ならどうしますか?

▼あなたの思うパターンをクリック▼

パターン1

仕入代金の支払条件の見直しを仕入先と交渉する。

パターン2

減価償却費を減らすなどして黒字にし、金融機関に融資を申し込む。

パターン3

M&A(企業の合併・買収)により、会社を売却する。

仕入代金の支払いを遅らせることができれば、しばらくは生き延びることができるかもしれませんが、根本的な解決にはなりません。そもそも、仕入先が、仕入代金の支払条件の見直しを簡単に了承することはなく、仕入先に不信感を持たれた場合、その後の仕入ができなくなってしまうかもしれません。何か他の「生き残る方策」を考える必要がありそうです。

会計処理方法の変更などにより利益があるように見せかけ、金融機関からの融資を引き出すことができたとしても、会社の実態は変わりませんから、遅かれ早かれ、また資金繰りに行き詰まるでしょう。何か他の根本的な「生き残る方策」を考える必要がありそうです。

実は社長が行ったことはパターン3でした。社長は、会社の身売りを決断しましたが、その理由とは何だったのでしょうか……
 

「オーナーが変わっても、ラーメン屋は生き残る!」ということに気付いた!

社長と管理担当役員は、落ち込んでいても仕方ないと、その夜はそのまま近くの行きつけの居酒屋に向かいました。最近は資金繰りのことで忙しく、その居酒屋に行くのも数カ月ぶりでした。

社長 あれっ、この居酒屋、何だか雰囲気が変わったな
管理担当役員 本当ですね。お店の名前は同じなのに、メニューがガラッと変わって、店内も随分ときれいになりましたね
そこへ、いつもの若い店員が水とおしぼりを持って、笑顔でやってきました。
店員 いらっしゃいませー。あっ、お久しぶりです、社長さん!
社長 久しぶりだね。君は相変わらず元気そうだが、お店は随分と変わったね
店員 ええ。実は、うちのお店のオーナー社長が、もう高齢で続けられないからっていうので、大手居酒屋チェーンにお店を売ったんです
社長 えっ、そうだったの? 君は随分笑顔だけど、それで幸せなのかい?
店員 もちろんですよ! 僕ら店員にとっては、オーナーが誰かってことはあまり関係ないんです。良い料理を元気にお出しして、お客さまに喜んでもらえればそれで幸せですよ! お客さまにとっても、オーナーが誰かはきっと関係ないんじゃないでしょうか?

次の日の朝。社長は、ある大手ラーメンチェーンR社のR社長に電話をかけていました。R社は、小規模ながら名の通ったラーメンチェーンをいくつも買収しながら、急拡大しています。R社は元のラーメンチェーンの良い所をできる限り活かす方針のため、買収されたラーメンチェーンがこだわってきた部分も、生き続けている点が特徴です。

社長 お久しぶりです、R社長
R社長 これは、社長! 久しぶりですね。3年ぶりくらいでしょうか
社長 あのとき、R社長にうちのラーメンチェーンを買いたいって、おっしゃっていただきましたが、そのお気持ちが変わっていないようでしたら、ぜひご相談を
R社長 覚えていてくれていたのですね。ありがとうございます。もちろん、今でもあなたにうちのグループに入ってもらいたいと思っていますよ!
社長 ただ、正直に言いますと、この1年間は大赤字でして、このままでは何カ月ももたない状態なんです。もしうちのすべてのお店をお引き受けいただけるのでしたら、タダで会社を売っても構わないと思っています
R社長 そうですか。分かりました。会社の値段は、専門家を含めて今後考えるとして、まずはお店の信用を落としちゃいけません。仕入先への支払いや社員への給料は遅らせずにちゃんと支払ってください。もしそのお金が足りないようだったら、うちの会社が融資します。それから、今日にでも、うちのM&A担当者に、御社を伺わせますから、決算内容など確認させてください
社長は、“M&A”って一体何だろうと思いながらも、頼もしいR氏の返答に「これで社員の生活を守ることができる」と思うと、急に肩の荷がおりた気がしました。

その後、わずか1カ月でMJSラーメンの売却は終わりました。これは、MJSラーメンが決算書を粉飾などしていなかったため、R社長の信頼を得ることができ、また買収手続きがスムーズに進んだ結果でした。
 
そして、株式の売買契約が完了した日、R社長が言いました。
R社長 資金繰りが厳しい中でも、社長は粉飾などすることなく、お客さまと社員のために真面目に経営をしてこられた。その姿勢を私はとても評価しています
社長 とんでもない。身売りしなければならなくなったなんて、経営者失格ですよ
R社長 そんなことありませんよ。会社はオーナーが変わっても生き続けます。会社を次のオーナーに引き継ぐことも経営手腕です
社長 なるほど。そう言っていただけるとうれしいです
R社長 そこでご相談ですが。今回、社長であるあなたの株式の持分はゼロになってしまいましたが、もしよろしければ、私の会社で役員として一緒に日本のラーメン業界のために働いていただけませんか?

妻子を抱えて今後の生活に絶望的になっていた社長は、うれしさのあまり、R社長の部下がその場にいることも気にせず涙を流してしまいました。そして、破たんが見えたときR社長に電話をして本当に良かったと思いました。あのとき、意地になって経営を続けていたら、今頃、私も社員もどうなっていただろう。そう思うと恐ろしくなりました。
 
その後、MJSラーメンの仕入は、こだわりの部分をのぞいて、R社グループの仕入先に統一することでコストダウンがはかられました。また、MJSラーメンの社員やアルバイトの一部はR社の経営する、人手不足の他のラーメン店に異動になりましたが、ひとりもクビにならずに済みました。そして何より、MJSラーメンの看板やメニュー、そして味は、変わることなく引き継がれたのでした。

【ワンポイント解説】

「M&A」

Merger and Acquisition(合併・買収)の略。複数の会社が一つの会社になったり(合併)、また会社が他の会社を買い取ったり(買収)することを総称してM&Aと言います。なお、中小企業が会社を売却するときには、M&Aの仲介や助言等を専門に行うコンサルティング会社に相談することも一つの方法です。
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