当期純利益は誰のもの？　謎の老人が敏腕社長に教えたこととは？

株式上場に向けて増収増益を喜ぶ会社

「みろくスーパー」は、創業50年を迎える会社です。全国にスーパーを展開しています。現在の社長であるA社長は、アルバイトとしてみろくスーパーに入社し、その後正社員となり、順調に業績を上げて出世を続け、ついに2年前に社長に就任した凄腕です。
　
A社長は、何しろ社長になったぐらいですから、その上昇志向はすさまじいものです。今日も朝礼で従業員のモチベーションをかき立てています。

A社長	みんな、おはよう！　みんなの努力のお陰で今月も売上予算を達成できそうです！　この調子で2年後の株式上場に向けて頑張りましょう！

順調に売上と利益を拡大させているみろくスーパーですが、A社長が社長に就任したころはちょっとした誤解があったのです。

1年前　～敏腕社長が経理部長に質問した！

A社長が社長に就任すると、その強力なリーダーシップと経営センスにより、業績の急拡大と働き方改革を同時に実現し始めました。何しろA社長は大変上昇志向が強い社長ですから、業績も社員の満足度もすべてを一気に達成するぞと息巻いた結果です。

そして、A社長の社長就任1年目の決算が出たある日のこと。年度の損益計算書を見た社長が、疑問を感じ、経理部長の席に近づいてきました。

A社長	経理部長。ちょっと教えてもらいたいんだが。損益計算書を見ると、今期の当期純利益は1億円となっているだろう
経理部長	ええ、確かにそうですが。それがどうかしましたか？
A社長	この当期純利益は1年間の儲けってことだよな？
経理部長	まぁ、そういうことですが……。それがどうしましたか？
A社長	つまり、この1億円は社長である俺のものってことか？
経理部長	えっ……
A社長	何？　違うのか？　じゃあ、一体誰のものなんだ？？

経理部長はA社長の質問を聞いて、思いました。

経理部長の心の声	＜全く！　経営手腕は認めるけど、当期純利益を自分がもらおうなんて、どれだけ強欲なんだ……＞

 

社長が投資先の株主総会で謎の老人に教わったこととは？

A社長が経理部長に「当期純利益は誰のものなんだ？」と質問し、経理部長が説明しようとしたちょうどそのとき、社長に来客がありました。

秘書	A社長。お客様がお見えになりました
A社長	分かったすぐ行く。経理部長、話は後で聞かせてくれ

その後、A社長は来客の対応をし、社内の会議に出席して、バタバタした一日が終わったころには経理部長に質問したことをすっかり忘れていました。
　
そして、その翌日の土曜日はA社長が個人的に投資しているある上場企業の株主総会でした。A社長はみろくスーパーが株式上場を目指していることもあり、たまには投資先企業の株主総会にも出てみようと思い、出席してみることにしたのです。
　
すると、その株主総会の場で、株主から経営陣に質問が投げかけられました。

株主B	今期は前期に比べて、役員報酬の総額が増えているのに、当期純利益が減っています。これでは、株主の取り分を役員が持って行ったことにはなりませんか？
A社長の心の声	＜ん？　どういうことだ？　意味が分からなかったぞ＞

株主の質問の意味が分からず、A社長が首をかしげていると、隣に座っていた、スーツを着た優しそうな老人がA社長にささやきました。

謎の老人	当期純利益っていうのはね、株主の取り分を意味しているのですよ。だから、通常、配当は当期純利益から行われるのです
A社長	えっ、当期純利益は株主のものってことですか？
謎の老人	そうですよ。だから、株主総会で、こうして経営陣が株主に当期純利益の説明をするわけです。株主の皆さんの取り分はこれだけですよって
A社長	なるほどね～。だから、役員報酬を増やして当期純利益が減ったって怒っているわけですね。いや～。僕は会社の経理部長に、当期純利益は社長のものかって聞いちゃいましたよ。お恥ずかしい
謎の老人	いやいや、誤解されている方も多いので仕方ない。でも、社長たるもの、会計をちゃんと理解していないと困るときが来ますぞ
A社長	いや～、本当ですね。あれっ、どうして、私が社長ってことを……

そう言ってA社長が老人の方を見ると、老人はもうそこにはいませんでした。

A社長の心の声	＜一体、今の老人は誰だったんだろう。まぁ、いいか。当期純利益の意味が分かって良かった＞

その数日後、テレビで例の老人がインタビューを受けていました。

A社長	あっ、この人、株主総会で当期純利益の意味を教えてくれた人だ！　えっ、あの証券会社の社長だったのか～。きっと、上場関連でどこかで挨拶したんだろうな～。すっかり忘れていたよ