過剰借入のチェック方法(その3) 創業15年、こんなに借入が増えて、返せるの?

2022年11月23日

質問

創業から15年、急成長を続ける「ミロ子システム社」のミロ子社長。B/Sの借入金が増えてきて、ちゃんと返せるかと不安になりました。皆さんが経営者なら、借入金の返済能力を調べるために、どのような計算をしてみますか?

パターン1

借入金をB/Sの現金預金で割ってみる。

パターン2

借入金をP/Lの売上高で割ってみる。

パターン3

借入金を営業キャッシュ・フローで割ってみる。

この質問をイメージして以下のストーリーをお読みください。

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経営方針を大きく変えた会社

15年連続で増収増益を達成した「ミロ子システム社」のミロ子社長。20代で起業した若手経営者もすでに30代になり、すっかり企業経営も慣れてきました。従業員も増えて、経営幹部も様々な経歴を持つ中途採用者で固められてきています。

今日は、ミロ子社長が経営幹部の前で年度末の挨拶をしています。

ミロ子社長 皆さんの努力のおかげで、ついに15年間連続で増収増益を達成できました。本当にありがとうございます
幹部社員たち 社長、おめでとうございます!
ミロ子社長 うちの会社はこれまで投資に投資を重ねて、成長をしてきましたが、来期は少し投資をおさえ、売上の成長よりも効率性や利益率を重視した経営に切り替えていこうと思います
幹部社員たち はい!

来期からは成長性よりも効率重視に経営の舵を大きく切る決心をしたミロ子社長ですが、それは数カ月前に起こった出来事がきっかけでした。

数カ月前 ~気づいたら借入金がこんな金額に! ちゃんと返済できるの?

第15期が終わろうとしていた時のことです。ミロ子社長が経営会議で今期の貸借対照表を見たとき、ついに借入金が30億円に達したことに気づきました。

ミロ子社長 ちょっ、ちょっと待って。このB/Sの借入金が30億円って本当なの?
管理担当役員 はい。毎年の投資のために借入を増やした結果、ついに借入金が30億円に達してしまいました
ミロ子社長 大丈夫なの? こんなに借入金が増えて。ちゃんと返済していけるのかしら?
管理担当役員 銀行の担当者はむしろもっと借りてほしいって感じでしたよ
ミロ子社長 貸す方は気楽かもしれないけど、借りる方はちょっと怖くなってくるわ……。皆はどう思う? うちの会社はこの借入金を何年で返済できると思う?
営業担当役員 何年で返済できるかを計算するには、借入金をB/Sの現金預金の金額で割ってみたらどうでしょう。何年分の現金預金で返済できるか分かります
開発担当役員 いや、P/Lの売上高で割ったらどうでしょうか。借入金を何年分の売上高で返済できるか分かります
管理担当役員 むしろキャッシュ・フロー計算書の営業キャッシュ・フローで借入金を割ってはどうでしょうか
ミロ子社長 借入金を何年で返済できるか計算するためには、借入金を何で割ったらいいのかしら?

質問

創業から15年、急成長を続ける「ミロ子システム社」のミロ子社長。B/Sの借入金が増えてきて、ちゃんと返せるかと不安になりました。皆さんが経営者なら、借入金の返済能力を調べるために、どのような計算をしてみますか?

▼あなたの思うパターンをクリック▼

パターン1

借入金をB/Sの現金預金で割ってみる。

パターン2

借入金をP/Lの売上高で割ってみる。

パターン3

借入金を営業キャッシュ・フローで割ってみる。

借入金を返済するのは現金預金ですから、B/Sの現金預金で借入金を割れば良いようにも思えますが、B/Sの現金預金と同額が毎年増えるわけではないので、あまり意味のある計算にはなりません。何か他の計算式を考える必要がありそうです。

借入金をP/Lの売上高で割って計算することで、売上高の何年分の借入かが分かりますが、売上高を全て借入金の返済に充てることはできませんから、あまり意味のある計算にはなりません。何か他の計算式を考える必要がありそうです。

実はミロ子社長が選んだのはパターン3でした。なぜ借入金を営業キャッシュ・フローで割ることにしたのでしょうか……。


いよいよ都心の高級マンションの購入を検討し始めたミロ子社長

経営幹部と借入が返済できるかどうか議論をした日の夕方。ミロ子社長は不動産会社にいました。創業から15年が経過し、業績も順調に推移していることから、いよいよ今のマンションを売って、都心の高級マンションの購入を考え始めたのです。

不動産会社 それでは、今のマンションを売却し、新しく都心の高級マンションを購入しますと、住宅ローンが1億円になります
ミロ子社長 いっ、1億円? 結構大きいわね……
不動産会社 でも、ミロ子様の年収は2千万円ですから、わずか5年の年収で返済できますよ
ミロ子社長 5年なら大したことなさそうだわ。では、思い切って……
ミロ子社長の心の声 <ちょっと待ってよ。年収の5年で返済できるっておかしいわよね。年収から生活費を差し引いて、残ったお金で借入を返済するんだから。借入を年収で割って返済年数を計算するのって、借入金を売上高で割るのと同じじゃない>

結局、ミロ子社長は高級マンションの購入はもう少し考えることにして、その日は自宅に戻ってきました。そして、銀行で働いている大学の同期に電話をしました。

ミロ子社長 忙しいところごめんね。うちの会社の借入が30億円あるんだけど、これって多過ぎるんじゃないかと思ってるの。それで、何年で返済できるか計算しようと思ったんだけど、計算の仕方が分からないの
同期の銀行員 あぁ、債務償還年数分析だね
ミロ子社長 えっ、債務償還年数?
同期の銀行員 そうそう。借入金を営業キャッシュ・フローで割って、何年で返済できるか計算するんだよ。一般に10年以内であれば問題ないと判断することが多いね
ミロ子社長 営業キャッシュ・フローって何?
同期の銀行員 本業で増やした資金のこと。借入の返済に充てられるお金ってところだね。キャッシュ・フロー計算書を作ればすぐに計算できるよ。キャッシュ・フロー計算書を作っていない場合には、当期純利益に減価償却費を加えて営業キャッシュ・フローとすることもあるよ
ミロ子社長 なるほど。うちの会社は借入金が30億、当期純利益が2億、減価償却費が5千万円だから、30億円÷2億5千万円で12年。10年を超えているわ! ありがとう。勉強になったわ

このときミロ子社長は思いました。

ミロ子社長の心の声 <債務償還年数が12年ってことは、今の借入はちょっと多過ぎたってことね。創業から15年経ったところだし、ここで一度成長路線から舵を切って、もっと利益やキャッシュを生み出す健全な経営に変える必要がありそうだわ>

ワンポイント解説

「債務償還年数分析」

借入金を何年で返済できるかを示す指標です。計算方法は様々ですが、以下の計算式が使用されることがあります。一般的に債務償還年数は10年以内が望ましいと言われます。
債務償還年数 =  借入金÷(当期純利益+減価償却費)
債務償還年数 = (借入金-運転資金)÷(当期純利益+減価償却費)
債務償還年数 = (借入金-運転資金)÷(営業キャッシュ・フロー)
なお、運転資金とは、「売上債権+棚卸資産-仕入債務」によります。

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