
簡単チェック! 会社のお金はちゃんと回っているのか?
質問
今期と前期で現預金の残高は変わらないものの、借入が増えてしまっている「MJS工業」の社長。ちゃんと“お金が回っている”かどうか不安になっています。あなたが経営者ならどうしますか?
パターン3
キャッシュ・フロー計算書を作ってみる。
この質問をイメージして以下のストーリーをお読みください。
今期の業績結果を発表する社長
「MJS工業」の社長は、創業者である父親の後を継いで経営を始め、今年で5年目になります。今期の最終日、社長が社員を集めて業績の総括をしています。
社長 |
今期は、皆の努力の結果、増収増益となる見込みだ。また借入を減らしながらも現預金を増やすことができた。来年はさらに投資額を増やして、ますますの発展を目指そう! |
今年の社長は、社員に向けて堂々と業績の発表ができていますが、去年は様子が違っていました。
1年前 ~うちの会社はちゃんとお金が回っているのか?
年度末の経営会議でのことでした。経理部長が経営幹部を前に今期の業績について説明しています。
経理部長 |
今期の損益計算書はこの通り、利益が5千万円となりました |
社長 |
よしよし、それならわが社も安泰だな |
経理部長 |
ただ……、貸借対照表をご覧いただくと、現預金の残高は前期末と同額の3千万円ですが、借入が2千万円増えています |
社長 |
あれっ。おかしくないか? なぜ借入が増えるんだ? 利益が5千万円あるんだからお金はちゃんと回っているはずだろう? |
経理部長 |
お金は回っていますが、“ちゃんと”回っているか、と言われると……。あっ、今期は設備投資もしましたから、その影響もあるかと…… |
社長 |
経理部長、ちゃんと説明できないのか? 何だか不安だな。いったい、うちの会社はちゃんとお金が回っているのか? 突然、資金ショートです、なんてことにはならないだろうな……。今度、資料にまとめて説明してくれ |
社長は、経理部長の説明を聞いても、会社のお金がちゃんと回っているかどうか理解できず不安になってしまいました。 |
質問
今期と前期で現預金の残高は変わらないものの、借入が増えてしまっている「MJS工業」の社長。ちゃんと“お金が回っている”かどうか不安になっています。あなたが経営者ならどうしますか?
パターン3
キャッシュ・フロー計算書を作ってみる。
娘の“家計簿”から学んだ簡単なチェック方法
その日、社長が自宅に帰ると、同居している娘が自分の一家の家計簿をつけている最中でした。
娘 |
あ~ダメだわ。今月は生活費が回っていないわ。5万円のマイナスだわ |
社長が娘の家計簿をのぞきながら言いました。 |
社長 |
今月末の現金の残高は、ちゃんと先月の月末と同じ20万円あるじゃないか |
娘 |
これはね、私のブランド物のバッグとパソコンを下取りに出して売ったお金が入ってきたからなのよ。実際にはお金はちゃんと回っていないのよ |
社長 |
えっ? お金が回っていないって、どういうことなんだ? |
もともと上場企業の経理部で働いていた娘は、嬉しそうに説明を始めました。
娘 |
これを見てちょうだい。家計簿からキャッシュ・フロー計算書を作ったのよ |
社長 |
なになに、今月は、営業キャッシュ・フローが△5万円、投資キャッシュ・フローが+13万円、財務キャッシュ・フローが△8万円って、これはどういうことだ? |
娘 |
“営業キャッシュ・フロー”は、給料から、食費・子供の塾代・お小遣いなどの生活費を引いた金額よ。この金額がマイナスの場合は生活費が回っていないってこと。だって、給料以上の生活をしちゃってるってことでしょ |
社長 |
投資キャッシュ・フローが+13万円っていうのは? |
娘 |
ブランド物のバッグやパソコンを下取りに出して13万円で売れたってことよ。普通はパソコンや家具を買ってマイナスになるのよ。会社でいう投資額よ |
社長 |
最後の財務キャッシュ・フローは? |
娘 |
これは借入よ。借入をしてお金が入ってきたらプラス。借入を返済したら、お金が出ていくからマイナスよ。毎月住宅ローンの返済で8万円支払っているから今月も△8万円よ |
社長 |
つまりお前の家計は、生活費の足りない金額5万円と住宅ローンの支払い8万円を、ブランド物のバッグやパソコンを売った13万円でまかなったってわけか |
娘 |
本来、生活費である営業キャッシュ・フローがプラスで、そのプラスの範囲で投資キャッシュ・フローと財務キャッシュ・フローのマイナスがあるのが美しいわね |
社長 |
それは会社も同じなのか? |
娘 |
考え方は同じだけど、会社の場合は将来の成長のために営業キャッシュ・フロー以上の投資をするときもあるわ。ただ、大事なことは、営業キャッシュ・フローがどの程度か理解したうえで投資するってことよ。それが“ちゃんと”お金を回しているってことよ。営業キャッシュ・フローがいくらか分からないまま投資したり、借入を返済したりしていたら、いつか資金ショートするわ |
社長 |
そういうことだったのか…… |
娘 |
そういうことだから、来月から旦那のお小遣いは減額だわ |
社長は翌日、経理部長を呼びました。
社長 |
うちの会社のキャッシュ・フロー計算書を見せてくれないか? |
経理部長 |
うちは上場企業ではありませんから、キャッシュ・フロー計算書を作る必要はないので、作っていません |
社長 |
キャッシュ・フロー計算書を作るのは大変なのか? |
経理部長 |
会計ソフトの機能を使えば難しくないと思います。ちょっとやってみます |
その後、経理部長が作ったキャッシュ・フロー計算書を見ると、次のようになっていました。
営業キャッシュ・フロー △1千万円
投資キャッシュ・フロー △1千万円
財務キャッシュ・フロー +2千万円
社長 |
うちは本業で現預金が1千万円マイナスなのに、1千万円の投資を行ったから、その合計2千万円を借入しなければならなくなったというわけか |
経理部長 |
利益が5千万円なのに、営業キャッシュ・フローが△1千万円ってことは、売掛金や在庫が増えたことなどが原因かもしれませんが……、後で分析しておきます |
社長 |
よし、来期からは営業キャッシュ・フローをプラスにして、それを投資に回すようにしよう。キャッシュ・フロー計算書があれば、お金がちゃんと回っているかどうか分かって安心できるぞ |
【ワンポイント解説】
「キャッシュ・フロー計算書」キャッシュ・フロー計算書では、企業の資金を「営業キャッシュ・フロー」「投資キャッシュ・フロー」「財務キャッシュ・フロー」の3つに分けて表示します。ここから企業の資金の流れを読み取ることができます。なお、キャッシュ・フロー計算書は上場企業でなければ作成は強制されませんが、会計ソフト等には簡単に作成できる機能があります。