売上高半減の外食チェーン。客数が戻らない中での打開策とは?
2021年8月3日
質問
多様な外食店舗をチェーン展開する「ミロク・フーズ」は、コロナ禍の影響でこの1年間の売上高が前年比で半減しています。企業のテレワークやオンラインによる大学の授業が浸透した状況に鑑みると、今後も客数が以前の状況に戻るとは思えません。あなたが経営者なら次のうちどの行動をとりますか?
パターン1
売上高が減少しているものの、まだ変動費を上回るだけの売上はあるので、このまま営業を続ける。
パターン2
客足が遠のいて不採算となっている店舗を閉店する。
パターン3
新規にフレンチの店舗を立ち上げ、売上高の増加を図る。
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経営難を乗り越えた外食チェーン
ある月の経営会議で、「ミロク・フーズ」の社長はカレーショップ、牛丼、和食、イタリアンの各事業部長や本社の管理職とともに、前月の業績について検討していました。
社長 | 先月の業績だが、売上、費用、利益は各事業部でほぼ目標を達成している。とは言え、以前のようにお客様が戻ってくるのにはまだまだ時間がかかると思う。さらに、感染症の拡大状況によっては、経営の条件がめまぐるしく変わる。各事業部では、月次の目標を綿密に立ててその達成に向かってほしい。苦しいが、ここが踏ん張りどころだ。何か事業別に報告するべきことはあるかな? |
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A事業部長 | 社長、最近テイクアウトの売上が増えてきました |
B事業部長 | うちはデリバリーが増えました |
社長 | そうか。店内の飲食とのバランスも考えながら、売上高や利益の目標達成に頑張ってくれ |
一同 | はい! |
今でこそ、ようやく経営難を乗り越えたミロク・フーズですが、ここに至るまでの1年間は大変だったのです。
この1年間 ~売上高半減の赤字決算
40年前に社長がカレーショップを創業した後、店舗を増やして5年後にチェーン展開を始めたミロク・フーズは、順調に業績を伸ばしてきました。その後は、オフィス街や大学周辺、住宅街などに、牛丼、和食、イタリアンと、チェーンを増やし、毎年の決算で増収増益を続けていました。
ところが、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、複数回にわたる緊急事態宣言と、都道府県による営業時間短縮の要請などで、企業のテレワークや大学の授業のオンライン化が大きく進み、この1年間で店舗周辺の人出は激減し、客足は遠のきました。その結果、前年度との対比で売上高は半減し、創業してから初めての赤字決算となってしまいました。アフター・コロナという言葉はありますが、ターゲット顧客である消費者の生活パターンが変わってしまったため、コロナが収束しても客足がすぐに戻るとは思えません。
社長は状況打開のために、経理部長に詳細な経理情報を提出するように依頼し、それをもとに経理部長と相談しました。
社長 | 経理部長、業種別の損益状況を見て、何か気づいたことはある? |
---|---|
経理部長 | うーん、カレーショップ、牛丼、和食、イタリアンも、これと言って目立った点はないですね。どれも同じような営業利益率です |
社長 | そうかな? 例えば、カレーや牛丼と、和食やイタリアンと何か違う点はないか? |
経理部長 | うちは、全業種で食材費を一定割合以内に抑えるように原価管理を徹底していますから、粗利率には大きな差はありません |
社長 | じゃ、固定費はどうなんだ? |
経理部長 | 固定費ですか。人件費と店舗の家賃、それから清掃委託費に設備のリース料と減価償却費。えーっと、もちろん、立地によって違いますが、固定費ですから…… |
社長 | 固定費だからどうなんだ? |
経理部長 | はい、固定費ですから、毎月一定の金額が発生して手をつけるのは難しいです。家賃や人件費は削るわけにいきませんし、他の費用も手をつけることができません |
社長 | そうか……。何か見落としていないかな? |
社長と経理部長は、さまざまな観点から経理情報の検討を続けました。そして、社長と経理部長は、ある観点から経理情報を見ることによって、ミロク・フーズの現状打開策を3つに絞りました。
質問
多様な外食店舗をチェーン展開する「ミロク・フーズ」は、コロナ禍の影響でこの1年間の売上高が前年比で半減しています。企業のテレワークやオンラインによる大学の授業が浸透した状況に鑑みると、今後も客数が以前の状況に戻るとは思えません。あなたが経営者なら次のうちどの行動をとりますか?
▼あなたの思うパターンをクリック▼
パターン1
売上高が減少しているものの、まだ変動費を上回るだけの売上はあるので、このまま営業を続ける。
パターン2
客足が遠のいて不採算となっている店舗を閉店する。
パターン3
新規にフレンチの店舗を立ち上げ、売上高の増加を図る。
売上高が減少しても、変動費を上回るだけの売上があれば、限界利益(=売上高-変動費)が発生するので、営業を続けた方が利益が大きくなるようにも思えます。しかし、限界利益が固定費を上回らないまま営業を継続すれば、さらに損失が増えてしまいます。
ミロク・フーズの社長が選択したのはパターン2でした。オフィス街や学生街に立地する店舗のうち、客数が前年比で一定割合以下に落ち込んだ店舗を閉店し撤退することにしました。その根拠とは……。
新規事業を立ち上げることにより、半減してしまった売上高の回復を図ることが考えられるかもしれません。しかし、新規事業を立ち上げるとなると、新たな固定費が発生することになり、結果的に営業利益を確保することが難しくなるリスクがあります。
ターニングポイントは立地別の損益に注目したことだった
社長と経理部長のミーティングは続きます。
社長 | 何か見落としていないかな? 業種ごとではなく、何か別のくくり方で売上高や費用、そして利益を見ることはできないかな? |
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経理部長 | そうですねぇ……。ロケーションではどうでしょうか? |
社長 | そうか、ロケーションか! |
経理部長 | はい。立地別に見ると何か分かるかもしれません。駅前の店舗とか郊外のロードサイド店舗だとか…… |
社長 | なるほど、じゃあ立地別にちょっと集計してみてくれないかな |
経理部長 | はい、少々お待ちください……。あ、オフィス街や学生街の売上高の方が、住宅街の売上高と比べて減少率が大きいです! |
社長 | どのくらい違うんだい? |
経理部長 | はい、売上高の減少率を見ますと、オフィス街が70%減、学生街が90%減ですが、住宅街は30%減です |
社長 | なるほど。出勤や通学の人出は減っていても、自宅の周りでは外食やテイクアウトの需要はそれほど落ち込んでいないんだね |
経理部長 | そのように判断できると思います |
社長 | それに、オフィス街や学生街の方が家賃の高い店舗が多いよね? |
経理部長 | えーっと、住宅街と比べて、オフィス街は60%、学生街は50%割高です |
社長 | 何だって? じゃ、高い固定費をかけた立地の店舗の方が売上高の減少幅が大きいってことじゃないか! それじゃあ営業利益が出るわけないよなぁ。思い切って、オフィス街と学生街で不採算の店舗を閉めるか |
経理部長 | え? |
社長 | そうすれば、全体の固定費の削減になるし、その店舗で働いていた従業員たちは、別の店舗でテイクアウトやデリバリーの業務についてもらうことで、継続する店舗の売上に貢献してもらうことができる。もちろん、そんなに簡単にはいかないだろうが、是非検討したいんだ |
ミロク・フーズの社長が気づいたのは、損益計算のくくりをどのように考えるかでした。
管理会計の教科書では、部門別損益計算書を作成して部門ごとの利益を見ることで、どの部門が全社レベルの利益に貢献しているかを判断することが重要だと説明されています。ミロクフーズの場合、店舗別の損益を見ることが考えられそうです。
そして、ミロク・フーズの社長は、採算が取れそうな店舗と不採算の店舗とを区分し、その収益や費用の発生状況についての特徴を見出したのでした。
さらに社長は、固定費の削減についても気づいています。固定費というと年額や月額が決まっていて、経理部長が述べていたように手をつけられない場合が多いものです。しかし、固定費を削減することができないとは限りません。売上高の減少率が高い不採算の店舗を閉店した場合、固定費のうち、設備のリース料や減価償却費などはもはや削減できないとしても、店舗の家賃と清掃委託費などは削減することができるのです。
社長 | 店舗を閉店しても固定費は削減できないと思っていたが、固定費にも削減できるものがたくさんあったんだ! |
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社長は、オフィス街や学生街に立地する店舗のうち、不採算となっている店舗を閉店し撤退することを決断しました。撤退した店舗の従業員の相当数は、他の店舗に配置換えし、テイクアウトやデリバリーの業務に従事してもらうことなどで、雇用を継続することができました。そして、現在では、店舗での食事の売上高に加え、テイクアウトやデリバリーの売上高も増え、店舗の売上高に占める割合も増加しました。
「部門別損益計算書」
部門別の損益計算書を作成して部門ごとの利益を見ることで、どの部門が全社レベルの利益に貢献しているかを判断することが重要です。この場合、部門を区分するにあたり、一般的には、製品・商品別、地域別、顧客あるいは顧客グループ別といったくくりが考えられます。お知らせ
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